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───数日前。
場所は事務所地下の特訓場。
この日も練習に付き合ってくれていた滝壺と太一の姿は既になく、その場にいるのは李空と京夜の他に、剛堂と平吉の4人だけであった。
「また上手くいかなかったな」
「だな」
修行中の李空と京夜は、慣れない2人1組の闘いに、苦戦を強いられていた。
才の力は、単純な足し算や掛け算ではない。
組み合わせとその使い方で、0にも100にもなる。
2人1組の最も明快な闘い方は、どちらかがどちらかの才に合わせることである。
修行初期の李空と京夜は、李空の『オートネゴシエーション』で出た目に合わせて、京夜の『ブラックボックス』を合わせる方法をとっていた。
「なかなか上手くいってないみたいだな」
「せやな。一つきっかけがあれば、上手いこと噛み合う思うんやけどな」
剛堂と平吉が揃って頭を捻る。
李空と京夜の2人は、個人戦であれば国の代表としてやっていけるだけの実力者である。
さらに2人は幼馴染であり、息が合っていないというわけでもない。
歯車が一度噛み合えば、後はスムーズに回り続けるはずだ。
「そういや李空。セウズ相手にぶっ放したあの槍。セウズというより、京夜の才に合わせた感じの能力やったよな」
「え?ああ、確かにそうですね」
平吉に言われ、李空はその時のことを思い出す。
京夜の才『ブラックボックス』を貫通する光の槍。
平吉の言う通り、対戦相手のセウズというより、京夜に合わせたという解釈がしっくりくる。
つまり。
「『オートネゴシエーション』は、周りの環境を総合的に判断して能力を決めてる?」
「その可能性が高そうやな」
いまいち自信のない李空の仮定に、平吉はニヤッと含みのある笑みで返す。
「ということは・・」
「ああ、俺たちがやっていたのは、どうやら逆だったみたいだな」
「だな」
李空と京夜が、互いに見合って笑う。
未だに謎の多い才であるが、一説では10の歳に授かる才の能力は、それまでの生活に所以すると言われている。
幼少期。李空は幼馴染の京夜と真夏。性格に難があるこの二人を繋ぐ役割を担っていた。
真っ直ぐすぎる真夏と、曲がりくねった京夜。
そんなふたりに振り回され、李空はなんとも悩ましい幼少期を過ごしたのだ。
『オートネゴシエーション』の能力は、そんな生活を色濃く反映した結果なのかもしれない。
「俺がいつも通り合わせるから、遠慮はするなよ」
「わかった。頼むぞ」
前述通り、才の力は単純な足し算や掛け算ではない。
繰り出す才の順番を変えただけで、李空・京夜ペアの力は数段跳ね上がり、遂には滝壺・太一ペアを負かす程までに成長を遂げたのだった。
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