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透灰李空とそのルームメイトである伊藤卓男が暮らす寮は、2人の学び舎からは少し離れた場所にある。
徒歩にしておよそ30分は掛かる距離だ。
学び舎のすぐ隣。徒歩で5分と掛からない距離にも寮はあるが、ある事情故、李空たちはそこに入寮することを許されなかった。
「・・・ふう。やっと着いた」
軽い運動とも言える通学を終え、額にうっすらと汗を浮かべる李空が、同じく登校してきた周囲の学生に倣って校門をくぐる。
「ねぇ、あれ」
「あー、玄の先輩だね。可哀想に」
李空のことを横目で捉え、女子生徒がヒソヒソと言葉を交わす。
制服に身を包んだ生徒が、自身の学び舎の校門をくぐる。
何の可笑しさも感じられない行動だが、周囲の生徒たちは、李空に対しどこか好奇の目を向けているように見えた。
その原因を、当の本人である李空は痛いほど理解していた。
その事実から目を背けるように。
李空は自らの首に巻きつけたネクタイを緩めて、生徒の群れに溶け込んだ。
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