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───それから時は平等に流れ。
校門から学び舎までの道を歩く李空の背中を、小さな影が追いかける。
「り〜っくん!」
「おぅびっくりした。真夏か」
振り返った先の小さな笑顔に向けて、言葉とは裏腹に落ち着いた様子で答える。
真夏と呼ばれた少女は、李空の無粋な反応に不満げな様子で頰を膨らませた。
「うそ!全然びっくりしてないじゃん!」
「いや、びっくりたよ」
「どれくらい!」
「え?」
「どれくらいびっくりしたの!」
愛の確認をする付き合いたてのカップルのような質問に、李空は困ったように苦笑いを浮かべた。
というのも、小さな体型からは想像できないくらいの大きな足音によって、李空は事前に真夏の存在に気づいていたのだ。
もっと言えば、真夏が李空のことを背後から驚かすのは、毎朝の日課なのであった。
リアクションをしなければ機嫌を損ねることは実証済みであるため、李空は毎朝驚いた振りをするのだ。
「えーと、ドーナツ2個分くらいかな」
「ドーナツはだめだよ!穴が空いてるじゃん!」
「じゃあ、おにぎり3個分」
「おにぎりは三角だからだめ!」
「それなら・・・」
理不尽を通り越して理解不能な真夏の言い分に、李空がすっかり困り果てていると、
「マイメ〜ん!置いてくなんてひどいじゃないか〜!」
遅れて学び舎にやってきたルームメイトの卓男が、ベトベトな汗を撒き散らしながら、こちらにやってきた。
「およよ!真夏殿ではないですか!」
「真夏殿でございやすよ!そちらは卓男殿とお見受けしやす」
「ヘイヘイ!真夏殿は今日も2次元に匹敵する美貌で」
「えへへ、ありがと!卓男くんの顔面は4次元級だね!」
「いやあ、照れるでござるなぁ〜」
可愛い女の子を前にし、口調を気持ち悪く変化させる卓男。
この状態になった卓男は、何故か真夏と波長が合うのだった。
絶妙に噛み合っているのか分からない会話を繰り広げる二人を残して、李空は一人学び舎へと向かう。
「あっ!りっくんまってよ〜!」
「マイメ〜ん!待つでござるよ!」
李空がいないことに気づいた二人が、慌てた様子で後を追う。
ここまでの流れが、3人の毎朝のルーティンであった。
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