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ほかにも言いたいことはたくさんあるのに、もう言葉にできなくなった。きゅっと唇を噛んで、黙ってうつむく。
期待しちゃダメだ。期待したら断られてた時、ショックが大きくなっちゃう。もう彼女がいるからごめんねって言われるに決まってる。そう自分に言い聞かせて、返答を待つ。
阿澄先生が立ち上がり、近づいてくる気配がする。床だけ見えていた視界に、阿澄先生の靴が見えた。
こんなに近くにいる。緊張してドキドキする。手を伸ばせば触れそうなのに、手を伸ばしていいのか分からない。
なにかが頭に乗った。私はびくっと体をこわばらせた。
体温が伝わってきた。手だ。阿澄先生の手。大きくて筋ばっていて、優しい手のひらだ。
「僕もだ」
頭の上から降ってくる声。
まるで春の雨みたいに、温かい。
「僕も、ゆりちゃんのことが好きだ」
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