ケント紙に夢を

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ケント紙に夢を

 五月のさわやかな風が、そよそよとカーテンを揺らす。  初夏の空気を胸いっぱいに吸い込んで、私は色鉛筆を持った。  放課後。グラウンドからは、運動部の元気のいいかけ声が聞こえる。  美術室は静かだ。私一人しかいない。 「よし、描こう!」  机の上に広げた、A3のケント紙。  そこに描き出す、絵本の1ページ。  私…遠野(とおの)ゆり…の夢は、絵本作家になることだ。  絵本に魅了されたのは、中学生の頃。  保育園に職業体験に行った時のことだ。  幼い子どもたちは、体を動かすことが大好きだ。  ぴょんぴょん飛び跳ねたり、走り回ったりして、一秒だってじっとできない。  だけど、保育士さんが絵本を持ってきた瞬間。  「やった、絵本だあ!」と歓声をあげ、絵本の周りに集まってきた。そして保育士さんがページをめくると、あっという間に惹きこまれ、絵本の世界に夢中になってしまった。
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