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僕の名前は水口秀弥(みずぐち・しゅうや)。26歳の会社員。
ある日自分の所に結婚式の招待状が届いた。
それは高校の頃同じクラスだった飛田晋(とびだ・しん)である。
自分は色んなクラスメイトと話せていた方だが、それでも彼とはあまり喋る機会がなかった。
彼は授業を欠席する事が多く、かなりの引っ込み思案で会話回数も数える程だった。
しかしそんな彼が、結婚し招待状を届けると言う行為が僕には嬉しい。
その分積極的になれたと言う事になるからだ。
また結婚相手にも喜んだ。
クラスで人気のあった、美少女の豊村亜季(とよむら・あき)だからである。
彼女は晋と同じく控えめなな性格。
だけど授業にはいつも出席し、周りによく愛嬌を振りまいていた。
何気なく咲いているつもりでも何度で見てしまいたくなる一輪の花。
そんな風に盛り上がっていたが、他校にもまで知られるほどの人気者だった。
その飛田晋と豊村亜季。
クラスメイトである以外、接点があまりないようには当時は感じていた。
高校卒業後会う機会があったのかもしれないし、とにかく結婚までの経緯が気になる。
だからこそ興味が湧いて、僕は結婚式に参加する事を決めた。
ちなみにその招待状にはQRコードが書かれてある。
通話メッセージアプリLIFEのグループ登録のコードだ。
その上には『飛田晋・飛田(豊村)亜季 結婚式お祝いグループ』の文字。
結婚式出席。もしくは欠席になるけど、興味がある人用らしい。
早速参加すると、飛田晋の個人アカウントが目に付いた。
アイコンは茶髪に染め、笑顔を向いてる本人写真。
面影はありながらも、垢抜けたと思い嬉しくなる。
ちなみに豊村亜季のアイコンもあるが、こちらは花の写真。
飛田晋は絵文字や顔文字・スタンプを駆使する。
そうやって積極的にグループ上で盛り上げている。
僕は彼に『久しぶり!』と送ると『おひさっ(^ ^)』と返してきた。
聞けば飛田晋は、株式会社YUTAKA VISIONと言う大きな会社に勤めているらしい。
会社のHPを開くと介護用品を売っている会社なのが分かった。
また今回の結婚式はその株式会社YUTAKA VISIONが開催する形となっているようだ。
そしてLIFEのグループページは、たまにだが豊村亜季も書いている。
豊村亜季の方は絵文字を使っていないが、控えめな文章。
しかし、飛田晋ととにかく結婚できて嬉しい印象が伝わる。
それから飛田晋は『結婚式の余興で、是非盛り上げてねっ(☆ゝω・)』と書き込みを更新した。
僕は幼少期から今までピアノを習っている。
だからそれを披露しようと、練習に励むようになった。
ところが、結婚式開催の一週間前になって飛田晋からある連絡が届いた。
『ごめんなさい。結婚式の余興プログラムは中止になりました!(;∀;)
でも結婚式自体は中止じゃないから、みんな来てくださいね!m(_ _)m』
具体的な理由は書いていない。
別の参加者が訪ねても、豊村亜季も含めてハッキリと書かれていない。
とても困惑した。
だけど開催側が「中止」と言っている以上、それに従うしかない。
-結婚式会場-
同級生達「お前変わったなー」
水口秀弥「そちらこそっ」
結婚式当日、僕は久しぶりに仲の良かった同級生達と出会った。
SNSアカウントは何人か知っていて、フォローし合っている。
ちなみに余興の中止の理由は、結局明かされていないまま。
だけどそれより僕達が楽しみにしているのは、飛田晋と豊村亜季の現在の姿である。
特に豊村亜季は自分の写真を公開していないのもあって、ワクワクが募る。
結婚式場は超一流ホテルの披露宴会場が使われており、内装がとにかく綺羅びやかだ。
また飛田晋と豊村亜季も書いたと思われる手書きのPOPが、よりその気持ちを高めていた。
披露宴が開始され、新郎・新婦が登場した。
同級生達「おお~っ!」
晋と亜季の姿に会場は感激した。
晋はやはり写真通り垢抜けた姿になり、また亜季はより美人になっている。
雰囲気見た目、まさに美男美女。
会場は華やかな演出で包まれた。
3Dプロジェクションマッピング。ロボットを使っての料理運び。
しかも自分達が座るものも普通のパイプ椅子ではなく、ソファーや木製椅子など。
『どんな席がお好み?(*´∀`*) 』と、事前に個別で答えたものが使われた。
最先端の技術が使われているだけでなく、おもてなし精神にも溢れている。
何回か結婚式には出席したけど、これほど贅沢な内容は今までにはない。
式のプログラムもウエディングケーキ入刀やキャンドルサービスなど。
時間は見てないが一つ一つのテンポも今までのと比べて早い気がする。
またそれらを通して驚いた事がある。
司会者はもちろんいるにはいるが、飛田晋自らがよく話を進めている。
晋「さぁ、僕よりも新婦・豊村亜季のお色直し、気になりますよねえ?」
晋「おおっと! 今から時間のあるお食事タイムがありますよ? トイレは逃げません」
など実際の場を盛り上げるし、アドリブも利く。
学生時代の頃と比べると考えられない。
豊村亜季の方は、学生時代と変わらない雰囲気で様子を楽しみながら、一歩後に引いているような雰囲気を出しながら笑う。
そこから結婚式は大きな展開を迎える事になる。
司会「さあ、今からサプライズ余興式が始まります」
会場が少し騒然となった。
司会「出演者はなんと、飛田晋本人です!」
亜季「よっ!」
パチ!パチ!パチ!パチ!
控えめな豊村亜季が掛け声を出して、率先して大きな拍手を送った。
会場から一時期消えた飛田晋が登場。
内容は手品や歌、ピン芸人がやるようなお笑い芸やダンスにピアノ演奏など‥。
余興と言ったら、これと言うのを飛田晋一人でやっている。
しかも一つ一つのレベルが高い。
特にピアノ、僕よりも演奏が上手い。
サプライズ余興が終わり華やかだった雰囲気も静まり返った。
新婦の、つまり飛田晋の挨拶が始まる。
晋「サプライズ余興式、楽しんでもらえましたか?
学生時代の頃の僕は大人しい性格で、誰にも話しかける事が出来ませんでした
大学生になった時僕はいじめを受けて、人生を諦めかけていました」
飛田晋側からの両親からすすり泣きが聞こえる。
晋「しかし、そんな僕はある出来事のおかげで全てが変わりました
今はこのように喋れています
それに歌やダンス、芸など色々な事が出来るようになりました!」
「あの子はあんなに成長したなあ」
豊村亜季側のお父さんが話す。
晋「そのおかげはこれです!」
ジャンってドラマで聞くような音が鳴った。
真っ暗な会場の中でスポットライトが当てられる。
するとニコニコした笑顔の若い男が、リアカーで大きな壺を運び、飛田晋の所に持っていかれた。
晋「そう! この荒木田吾妻八幡宮の壺です!」
亜季「みなさんこの壺どうですか! 美しくないですか!」
豊村亜季が急にマイクを持って席から飛び出したので、会場は驚いている。
晋「この壺からはスーパーオーラが流れているんです!
僕は毎日、2時間中を覗く事でスーパーオーラを浴びています!
それが今、今までお見せしている高い、パフォーマンス能力となっているのです!」
豊村亜季が、案内するかのような仕草で手で壺を指す。
亜季「これが旦那の元気の源です!」
晋「みなさんはこの2時間は長いと思いますか? 短いと思いますか?
僕は全然短くないと考えます
なぜなら今までと比べ物にならないくらい、素晴らしい未来が手に入るからです!」
亜季「私は毎日一時間だけ浴びています
それでも十分にすごいスーパーオーラを貰っています!」
晋「これほどすごいこの、荒木田吾妻八幡宮の壺欲しくないですか?
なんと、我が社YUTAKA VISIONのサイトにて、今日から結婚式終了後に購入できます!」
晋「お値段は税込み5億円!
強調します!
毎日中を覗き込むだけで人生がバラ色になるなら、決して高くありません!」
亜季「もちろん一壺買えば家族で共有できます!」
晋「それでも高いと思っている貴方!
なんと一週間限定で通常価格5億円が、1億円で購入可能です!」
亜季「よっ! 太っ腹!」
晋「式終了後、今すぐサイトにお急ぎ下さい!」
亜季「このチャンス見逃すのは勿体ない!
貴方の人生はこの壺で生まれ変わります!
何倍にも何万倍にも今までよりも、より見違えます!」
豊村亜季の喋りは今の飛田晋と同じだ。
喋り方、口調、目配せ方、それに表情そっくりだ。
目を見開きどこか殺気立っているようにも見える。
それとプログラムのテンポが早いと言う事は、恐らく時間も短くなる。
また出席者がやると思っていた余興が中止。
その分が飛田晋のサプライズ余興に、壺のアピール時間に当てられていた。
この結婚式自体が壺を売るためのものだ。
僕達は重い気持ちで会場を後にした。
そう言えば2次会の打ち合わせをしていないが、そう言った気持ちにはなれない。
一週間後、『飛田晋・飛田(豊村)亜季 結婚式お祝いグループ』が削除。
また飛田晋と豊村亜季のアカウントも消失。
YUTAKA VISIONの会社のホームページは閉鎖。
住所や位置も検索サイト上でヒットしていたが出なくなった。
僕が高校の頃、もう少し飛田晋と話せていたらその分変わっていたのかなと思った。
※この物語はフィクション(創作)です。
実在の人物、団体など何ら関係はありません。
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