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1.あの日
「藍先輩、ここ分からないので教えてもらってもいいですか?」
「ここは、保存ファイルを押せば見つかるはずだから大丈夫よ。」
私の名前は、佐々木藍。
ここは、私が働いている会社で主に化粧品を発売する本社。
ここで働いているのもあの日別れてしまった彼のお陰でもある。
「そういえば先輩、知ってます?イタリアの支社からやり手の営業マンが配属されること。」
「そうなの?」
「先輩、本当に知らないんですか?珍しく男の人っていうのも驚きなんですけどイケメンなんですよ。」
全くこの子は、イケメンには目がない子なんだから。
そう思いながら受け流していると、何か会社の子たちが騒いでいる。
なにかしら?そう疑問に思い、その方向に目線を移してみると、驚きで固まってしまった。
そこに居たのは、紛れもなくこの仕事に就こうと思わせてくれた彼だった。
どうして、“蓮”が此処に?
「…れ、蓮?」
そう呟いてしまいしまったと思ったら彼と目が合い、蓮も驚いたように目を見開いている。そして、
「あ、藍、か?」
彼の声はあの頃と全く変わっていなかった。
私は頷きながらここが会社だということを忘れ泣いてしまった。
そんな彼は私の姿を見て一瞬戸惑っていたが、次の瞬間私は蓮の腕の中に居た。
彼の名前は神崎蓮。
蓮とは幼なじみで私の初恋の人だった。
初めて付き合えたときはこれ以上無いくらいに嬉しかった。
この幸せが一生続いてほしいとさえ願った。
けれど、そんな幸せな日々がずっと続くことはなかった。
それは、私たちが付き合ってわずか4ヶ月目の事だった。
蓮の両親は仕事人間で滅多に家に帰ってこないから私の家に泊まるのはしょっちゅうの事だった。
その日、蓮は私の家にいつもの様に泊まりに来た。
そのときの蓮はいつもと少し様子が違っていたけど、大きな変化でも無かったから気のせいだと思っていた。それが間違いだったのだろう。
蓮は髪色を急に染めたり、今まで吸わなかった煙草を吸い出した。
そんな蓮を私は心配していたけれど滅多に学校に来なくなった彼にメールを送っても返信は来ないから見ていることしか出来なかった。
そして、雪が降り積もる私の誕生日の日。
蓮は女物の香水とキスマークを付けて私の家に帰ってきた。
私の誕生日はクリスマスイブだから両親は仲良くデートに行ってしまい私しか居なかった。
久しぶりに私に会いにきてくれて嬉しかったのに。
私は、蓮のそんな姿を見て、
「私たちもう離れようか。」
勝手に私の口は動いていた。
すると、蓮は傷ついたような顔をしたあと、私の家を後にした。
私は、その場で泣き崩れた。
翌日、私が学校に向かうと蓮は学校を辞めて家も引っ越してしまい私の前から姿を消した。
だけど、私は蓮に連絡を取ることはしなかった。
また蓮に関わって傷付くのが怖かった。
なのに、どうして此処にいるの?
どうして私を抱き締めているの?
だから、私は、
「蓮は、私の事嫌いなんじゃないの?」
そう言うと、蓮は、
「嫌いじゃないよ、藍。俺は、あの頃からずっと藍だけを愛してる。」
そう言った。
「嘘だ。あの日女物の香水とキスマークを付けて帰ってきたじゃん。」
そう言うと、蓮は罰が悪そうに、
「あれは、本当は母さんに会った後だったからなんだ。」
「え?母さんって、蓮のお母さん?」
そう言うと、嫌そうな顔をしながら、
「うん。本当はあんな人母さんだと思いたくないんだけどね。母さんのこと藍も見たことあると思うよ?」
「はい?私蓮のお母さんに会わせてもらったことないじゃん。」
そう言うと、蓮は呆れたように、
「ここの会社の社長だよ。」
と、爆弾発言を言った。
「はい!?うそでしょ?って、なんで皆わらってんの?!」
そう、私たちの事を見ている人たち全員笑っていたのだ。
「だって、先輩知らなかったんですか?」
「へ?皆知ってたの?」
そう言うと、皆うなずいている。
すると、廊下からハイヒールを穿いた足音がものすごいスピードで聞こえてくると思ったら私たちの部署のドアを開けて入ってきた。
そして、その人は、
「蓮!なに藍ちゃんの事を泣かせてんのよ!!もう1回躾直さないとダメかしら?」
そう言いながら怖い顔をして私たちの方に近づいてきた。
「え?社長?何で私の名前?」
「まあ、覚えてなくても仕方ないわね。私藍ちゃんが小さい頃から藍ちゃんのご両親には仲良くさせてもらってるのよ。」
「えええ!?」
そう言うと、社長こと蓮のお母さんは、にっこり微笑み、
「やっぱり可愛いわね、藍ちゃん。家の蓮にはもったいないわ~。」
と、言った。
すると、蓮は、
「ばばあのせいで藍が勘違いして俺ら別れたんだけど?」
と、本気で怒ったようにお母さんに言っている。
すると、お母さんは、
「もしかして、藍ちゃんの誕生日の日のこと?藍華ちゃん言ってなかったの?もしかして。」
なにを隠してたの、お母さん!!!
「本当はあの日、家の旦那と藍華ちゃんの所の夫婦とで飲みに行こうとしていたときにネックレス買ってる蓮を見つけたもんだから、酔っぱらってたこともあって抱きついてキスマークつけちゃったのよね。ごめんね。」
と、申し訳なさそうに謝っている。
え?てことはあの首に付いていたキスマークはお母さんがつけたもので?
そう気づき私は顔が一気に真っ赤になったのがわかった。
それを見た蓮は、
「もしかして藍、母さん相手にヤキモチ焼いてたのか?マジで?可愛すぎ!!」
そう言って蓮は私に抱きついてきた。
そして、蓮のお母さんや皆が退散と言わんばかりにこの部屋から出ていった。
すると、蓮は急に真剣な顔をして、
「もう一度俺と付き合ってくれませんか?」
と、言ってくれた。
私は、笑いながら、
「はい。よろしくお願いします。」
と、答えた。
そして、それから数年後私たちは結婚をした。
後日聞いた話だけど、蓮の態度がおかしくなったのは、お義父さんにもっと大人になれと言われ自分が思う大人な事を試してみていたらしい。
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