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ある女学生の想い
綾乃お姉様の髪を編む時間は、私にとって、とくべつなひと時。射干玉のごとく深い漆黒。絹のようにさらさらとした手触り。そんなお姉様の髪を一束、一束、手に取っては交差させ、丁寧に編み込んでいく。
「カナヱちゃん、やっぱり上手だわ」
そう言って、お姉様は微笑んだ。お姉様は来月、私達の通う女学校を辞めて、地方の旧家に嫁ぐことになっている。言うなれば、少女から一人の女性へと変わる時を迎えるということ。セーラー服から覗く白い首筋や、薄紅色の柔らかな唇から、大人びた色気すら感じる。お姉様のそんな様子に惹かれつつも、心に穴が空いたような気分になる。天上に住まう天女のように、神々しくもどこか遠い存在になってしまうなんて、そんなの、なんておそろしい。
できましたよ、と私は声をかける。お姉様はゆっくり立ち上がり、私に向き合ってお礼を述べた。
「こんなふうにすごせるのもあと少しね。学年は違うけれど、残りの時間も、今までどおり仲良くして頂戴ね」
はい、こちらこそ。笑顔でそう答えた。しかし、心の奥底がずきりと痛んだのは、自分でも誤魔化しきれなかった。
髪と一緒に編み込んだ私の想いが、貴女に届くことはきっと、無い。
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