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プロローグ
何かを始める時、普通は胸をときめかせたり、緊張や不安を抱いたりするんだろうか。
何かの終止符を打つ時、普通は悲しんだり達成感を感じたりするんだろうか。
俺は、そういった感覚を掴んだことが無い。
それでも普通という基準を知らなければ人間は生きていけないから、何度も"普通"というモノを考えた事はある。
だけど身近に観察できる人間がいなかった。絶対にいたはずの父も母も祖母も祖父もだれも。人は沢山いるはずなのに、俺には俺しかいなかった。
だから俺は、自室の窓から見える人間を観察する事くらいしかできなかった。
当たり前だが俺には、他人の心を読むなんて事はできない。
他人の行動に、どれほどの意味があって、何を考えているのかなど到底考えられない。
横断歩道を渡っている大人を、公園で遊んでいる子供を、カフェで食事している少女、みんな何を思いそこにいるのか。
俺には分からない。
だけど分かる事もある。それは、大人も子供も少女も俺を知らない。見ていない。気づいていない。俺と言う存在が認識されていない。
ただ、それだけ。
俺って必要?
この言葉は決して悲観から来た言葉ではない。現実を見て、事実を見て腹の底からフッと出てきた疑問。
存在意義とは?
俺は俺の事をよく知っている。
無知で無能な俺を。
それ故に自分が何者なのか分からない。
いつか俺も思い出せるのだろうか。
感情という名の心が。
そういえば
いつから俺は、痛みや喜びや苦しみが分からなくなったのだろう。
いつから俺は、感情が理解できなくなったのだろう。
いつから俺は、自分を見失ってしまったのだろう。
いつから、いつから、いつから......
———そんなもの俺にあったのだろうか。
本当は、分からないのではなく俺には元来、存在していなかったのではないのか。
本当は、見失ったのではなく俺には無かったのではないのか。
今でも俺は、様々なモノを理解するために迷走している。
俺は俺の事をよく知っている。
面白味のない、人間だという事を。
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