夜行

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頬杖をついて、外を見る。 景色は頬を掠めるように、ひたすら走り去って行く。 街灯、信号、家の窓。 過ぎ行く駅と、誰も照らしはしない灯りが、忙しなく僕とすれ違う。 車内にも、人は僕しかいない。 窓の向こうの無人の街は、孤独を飾らず僕へと語る。 それが今、無性に愛おしくなり泣いた。 不規則に刻まれる振動と、カタカタという車輪の音が、静けさをただ、浮き彫っている。 やがて車両は、緩やかに速度を落とし始めて、景色は見知った町になる。 完全に電車が停止する。 僕はすくっと立ち上がる。 窓の外の僕の町。 其処は自分の過去だけが、置き去りにされたような町。 輝くような少年期、 瑞々しかった青年期。 今や全てが遠くにあった。 足は棒のように動かない。 吐息が震えているのが分かる。 何もかも、駄目になってしまったのだ。 大きく息を吸って吐く。 もう、呼吸は震えなかった。 車両がため息を一つつく。 音を立てて扉が閉まる。 僕はゆっくりと席に着く。 車窓は再び流れ出す。 やがて見知った町を抜け、再び街へと行くのだろう。 そして、この電車すら、明日のためにと眠りへ向かう。 真っ暗な車庫の只中で、微動だにせず、ただ眠る。 僕は窓辺に頬杖をついて、そんな事を考える。 再び、涙が溢れ出す。 僕は流れに任せたままで、車窓を、町を、灯りの消えた家を見る。 コトコトという、車輪の音を聞いている。 不定期に揺れる、車両の振動に身を任せ、僕はただ、闇夜の中を行く。 次の駅は、まだ遠い。
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