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その2.立派な大人を感じろ!
「てなわけでさ。みんなにとって、大人を感じる時って、どんな時?」
所変わって、沙弥の自宅。
チームSATOさん(※ただし佐藤さんはいない!)こと、お決まりの四人が集っていた。週末ということもあって、沙弥の両親は毎度のごとく旅行中。
余談だけど、沙弥の両親はとても旅行が好きなのだった。
沙弥が中学生になり、もう立派に留守番を任せることができるようになったので、これ幸いとばかり、週末になるたびに小旅行を繰り返しているのだ。
沙弥も沙弥で、各地のお土産が楽しみで仕方がない。それに、仲良しな友達を気兼ねなく家に呼べるということで、両親と極めて理想的なウィンウィンの関係を構築していたのだった。
「大人の瞬間か。そうだなあ」
沙弥の問いかけに、明穂が口を開く。自分なりにイメージを膨らませているのだろう。
「待ちたまえ明穂くん!」
が、すぐに沙弥が待ったを入れる。
「ふふん。明穂が一番大人を感じる瞬間のことは、あたしがよく知っているよ。だから、これを授けよう」
沙弥は明穂に、紙袋を手渡した。
「何これ?」
「とてもいいものだよ。明穂が泣いて喜ぶような、ね」
「そうなんだ! 楽しみだよ~」
明穂は純粋だなと、智夏と緒美は思うのだった。
ああきっと、そんなわけないんだ。ないわね、と。
明穂はこのようにして毎度毎度、沙弥に騙されているはずなのに。それでも、好きな人の事を信じてしまう。とても純粋な、真っ直ぐした心の持ち主なのだ。
「じゃ、早速着てきてね。……ちなみにちゃんと着替えてこなかったら、おやつ抜きだから!」
「そ、そんなっ! うぅ……。わかったよ。ちゃんと着替えてくるから。だから、おやつ抜きだけは勘弁して……」
「可及的速やかにね!」
「急かさないで~~~!」
沙弥の口ぶりから、どうやら袋の中身は衣服のようだ。このようにして、明穂は部屋を出ていった。
「さてと。話を戻して、と。大人を感じる瞬間なんだけどさ」
智夏と緒美は、少し考えてから、口を開いた。
「私は……。お母さんが買ってきた週刊紙を読んでるときかな」
一房の三つ編みと、黒縁眼鏡の智夏がそう言った。
「お~。なるほど」
「あは。大人というか、おばさんくさいかな?」
照れて笑う智夏に、緒美はゆったりと首を振った。可愛い。じつに可愛いわと、内心思っているのだろう。
「そんなことはないわよ。読書好きの智夏らしいわ」
「ありがと」
「おみおみさんはどうなので? ってか、おみおみさんは既に大人っぽいから、意識することもないのかな?」
「見た目が大人っぽいのと、実際は違うわ。……そうねえ。例えば、お茶を点てているときかしら?」
「あ、それわかる!」
沙弥はピンときた。頭にイメージが浮かんだようだ。緒美は茶道部に所属しているのだ。
「緒美ちゃんはね。お着物がすごく似合うんだよ~」
智夏は嬉しそうに、緒美のことを語る。
「うんうん。前に見た事があるけど、綺麗だったよ」
好きな人が素敵な着物を着て、もてなしてくれる。心地の良い静けさと落ち着いた雰囲気に、智夏は大人を感じた。
と、そんな時だった。
「さ、沙弥ぁ~」
ドアの外から、とても情けない声が聞こえる。着替えるために出ていった明穂の声だ。
「あーい。明穂~。ちゃんと着替えた?」
「き、着替えたけど。でも、何これ……うぅぅ」
「じゃーみんなにお披露目しなさーーーーい! そりゃ!」
「ま、待って! 開けちゃダメ! あああっ! み、みんな見ちゃだめえええっ!」
明穂が止めるのも気かず、沙弥はドアを強制的に開いてしまった。
そこにいたのは……。
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