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サツレン
会いたすぎて死にそうだったから、スマホ片手に家を出た。
外は春の陽気。さらさらと降る柔らかな陽差し。川沿いの桜の枝先は赤みを増して、今にも蕾を弾けさせようとしている。
早く咲いて、そして散ればいい。
その花びらと一緒に、この心も散らしてくれればいい。
どこから来たのか大きな鳥が一羽、この川に棲み着いている。
川沿いを歩きながら見かける度、写真に収めようとするけれど、遠くてなかなか上手く撮れない。
その鳥が目の前に羽ばたいたので、私はスマホを向けた。パシャリと切れたシャッターは、鳥をとらえてはくれなかった。
「全然撮れてないじゃん」
そんな、聞こえるはずのない声が、いつも見ていた笑顔とともに頭の中を通り過ぎていく。
反射的に震えそうになる胸を、私は唇を結んで抑え込む。
初めて入るカフェには、あの人の影なんてどこにもない。
オープンテラスのオシャレなお店。こだわりのコーヒーに付いてきた一口サイズの厚焼きクッキーは、ほろりとほどけて優しい甘みをくれた。
幸せだ。そう思えるひととき。
こういう時間で、どうにか紛らせる日々。
部屋に戻ったら、趣味のデザイン画をPCでしゃかしゃか作り。
新しい作品は、今の私がたどり着きたい、穏やかで明るくて何の憂いもない世界をイメージしてみた。
気がついたら五時間も作業に没頭していた。
うん、順調に時間が過ぎた。
私はホッとする。
立ち止まってはいけない。
振り返ってはいけないのだ。
あの人はもういない。
私が好きでいられるあの人は、もうこの世のどこにもいない。
だから時間を進めるしかない。
できるだけスムーズに、できるだけ速く、あの人の記憶に追いつかれないように。
結婚は殺恋だ。
世界中の幸せをすべて手にしたような笑顔で、一片の悪意もなく、しかし確かな手つきで、この恋を絶望へと突き落とす。
選ばれないならいっそ、トドメを刺していってくれれば良かったのに。
誰のためにもならない想いを棄てきれないままの私は、今もまだ、ふいに力をなくす胸に苦しみ続けている。
あの日からずっと、恋しくて恋しくて恋しくて、苦しくて苦しくて苦しくて、気を抜くと震える胸を、震える喉を、歪む頬を、熱を持つ瞼を、あの人を探す心を、抑えて、抑えて、生きている。
もうどこにもいない独身のあなたを、探さないように今日も必死で生きている。
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