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ラフを上げて、意見もらって。もう一度通しで踊りを見せてもらって。見ながら気付いたことを補足していく。
ついただの観客として惹きこまれそうになるのをぐっとこらえて、客観的な目で効果的なスタイルを考えた。
ふー!と強く空に向かって息を吐き、頭を振る健太郎の頭から汗の滴が飛び散る。
健太郎はそのままステージ前方まで歩いてきて、縁から足を垂らして座った。
ふと、健太郎が俺の斜め後ろの方に向かってにこやかに手を振った。
何かと思って振り向いたら、7、8人の観客が芝生と野外ステージの境目あたりに並んでいて、こっちに手を振っていた。
「知り合い?」
「いや、知んない」
知らないのかよ……お前のその距離感、な。
目の端に何か動いてそっちをみたら、観客の中の2人組の女の子……制服からして高校生くらいの子たちが、寄り添ってきゃっきゃ言いながらこっちに近づいてきた。
「あのっプロの、ダンサーの方ですかっ?」
2人とも胸の前で手を握り締めて、健太郎にキラキラの眼差しを向けている。
「あーうん、いちおーね!」
「あの!どこかであなたの踊り、見れますか?」
「11月最後の週の日曜日に舞台やるよ」
それ以上は何も言わないでニコニコしてる健太郎に俺はイライラして、
「お前それだけじゃ見に行こうって思ってくださっても調べようがないだろ!」
ヒソヒソ怒鳴りながら、手元の紙に健太郎の名前と公演名、伊織とやってるダンスクラスの名前を書いた。
「ごめんね。この公演名か、ダンスクラスのホームページで分かるようになってるから、調べてもらえる?」
そう言って、紙を彼女たちに渡した。
「あの、あなたもダンサー……?」
俺は渡された紙を持ったまま、紅潮した顔を向けてきた彼女たちに超絶営業スマイルを向ける。
「俺は美容師です。ちょっとここからは遠いけど」
そう言ってカバンから名刺を出して二人に渡した。
ありがとうございました、ってよろめくようにして離れていった二人を見送ると、後ろから「やらしー…」って低い声が聞こえる。
振り向くといつの間にか傍に来た健太郎が目の上をまっすぐにしてこっちを睨んでる。
「やらしい!センパイ!あんな顔して笑って!」
「なんだよあんな顔って。普通だろ」
「好きになってもいいんだぜベイビー…って顔してた!」
……どんな顔だよ!!知らねえよ!
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