激烈イケメン

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「お仕事行く前に来られれば、テーピングして行ってもらえるんですけどねー」 ベッドから受付へ向かいながら、自分の手を感心したように撫でている槇野さんに言うと、「ここって何時からですか?」と言いながらどこかに書いてないかキョロキョロした。 「9時からなんですけど、早い患者さんは8時過ぎには並んでらっしゃいます」 「げー無理。すんません、俺、朝苦手で」 舌をちらっと出して苦笑いしたその表情は最初よりずっと砕けてて、施術を通じて心を開いてくれたのがしっかり伝わってくる。 「じゃあ……今日教えるんで、覚えて帰ってもらえますか?」 「あ、はい。あの、動画撮ってもいいっすか」 「いいですよ!えと、シバちゃ……小柴先生!」 シバちゃんが手が空いてるのが見えたから手招きした。 「テーピングするとこ、撮ってくれる?」 槇野さんがお願いします、とスマホをシバちゃんに渡して、自分の右手を俺の方に差し出してくる。 なるべく動作をゆっくりにして、口での説明も入れながらテープを貼って……シバちゃんは角度を微調整しつつ、じいっとその様子を撮ってくれた。 テーピング後に動かしてもらうと槇野さんは「うわ、マジ全然違う」と嬉しそうで、こっちまで嬉しくなっちゃうくらい。 「痒くなったらすぐ外してくださいね。肌が荒れちゃいますんで」 テープを片付けながら言うと、槇野さんはシバちゃんからスマホを受け取って……何故か穴が開きそうなって表現がピッタリな強い目線をシバちゃんに向けた。 「槇野さん?」 不思議に思って声をかけたら、はっとしたように「すんません」とスマホをカバンに仕舞う。 何?知り合いとか? 会計を済ませて診察券と初めての患者さんに読んで貰うリーフレットを渡したんだけど、その時もチラっという感じでシバちゃんを見てて……なんか俺の方が気になっちゃった。 槙野さんはまた来ます、と響く低音で言って、会釈をして自動扉の向こうに消えた。
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