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未華ちゃんは、オイルマッサージのスペースへ行って後片付けしながら、そうそう!と弾んだ高い声を出した。
「今日来た、槇野さん!すんごいイケメンだったよね!も~ちょ~かっこい~~!」
声だけでどんな顔をしてるか分かるよ、未華ちゃん。
「美容師さんなんだって。なんか分かるよね、いかにもって感じ」
各スペースに供えられたゴミ箱からゴミを集めながら返事をする。
そしたら未華ちゃんが、掃除してたスペースからにゅっと顔を出した。
「槇野さん美容師なの!?どこ?どこの美容院!?」
「さあ。聞いてないけど」
俺が答えると、目の上をまっすぐにして声を落とした未華ちゃんが「ちっ 使えねー……」と呟いて顔を引っ込めた。
お口が悪いよっ!もー!
プンプンしてたら唐突にさ、
「駅前のテンペスタスって美容院だって」
レジをしめてこっちにきたシバちゃんが手に持った小さなカードを見ながら答えたの。
覗き込むとそれは『Tempestas Stylist 槙野玲王』って書いてある名刺。
「え、お前これなんで持ってんの?」
担当した俺が持ってないのに。
「あんたが裏に新しいテーピング取りに行ってる時に渡された」
え、なんで?少なくともシバちゃんはおしゃれに関心がありそうなタイプに見えるわけでもないし、何のために渡したのか全然わかんない。
スタッフ全員に向けて「良かったらウチに来てくださいね~」的な意味?かな。
タオルとシーツを丸めて出てきた未華ちゃんが小走りにシバちゃんの名刺を覗き込みに来て、「知ってるー!」と黄色い声を上げる。
「駅前の大きいとこだ!ちょっと高いんだよね~!でも、ぜぇったいに行く!」
こぶしを握り締めて宣言した未華ちゃんは、ほっぺたをほんのり染めてほくほくスタッフルームに入って行った。
「ほんっと、未華子といい、あんたといい……外見だけでよくそんな熱くなれるよね」
未華ちゃんの入って行ったスタッフルームのドアを見つめながらシバちゃんが呟く。なんか俺と未華ちゃん、失礼なこと言われてない!?
「外見だけじゃないっつーの!」
「あんたね。少しは過去を振り返ってみたらどうなの。あんたと出会って3年。俺が知ってるあんたの彼女はみんな同じタイプだよ」
「え、そう?」
「出会いからしてほぼ合コンだし。一目惚ればっかだろ。わっかりやす~いタイプのカワイイ女」
ええーー??そんなこと……そんなことは……
「色白で華奢でさ、これ持てなぁ~い、とか言いそうな女が可愛くていいんだろ」
「うっ……そんなこと……あるかも」
シバちゃんの、ほれみろって顔!くそぅ……悔しいけど言い返せない……
その時、ちょうどピーッピーッっていう電子音が聞こえた。洗濯が終わったよーっていう洗濯機さんの合図。
これを干したら本日の業務は終了!さー頑張って干しますか!
スタッフルームに入ると、部屋の奥のカーテンが張られた着替えスペースから出てきた未華ちゃんが「ではでは、お先!」とにこやかに帰って行った。
彼女は最後まで残らない代わりに、朝少し早く来て院を開けてくれるの。
「ほら、干すよ。ぼーっとしてないで」
ハンガーをこっちへ突き出してきたシバちゃんに「へいへい」と返事をして、カゴの洗濯物に手を伸ばす。
実はこの作業ちょっと好き。殆どがタオルだから、パラソルハンガーにずらっと干してくの、気持ちいいんだよね。
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