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「っち、違います!! 乗り換えたとか、そんなんじゃなくて」
「俺よりも腕のいいイケメンの美容師見つけちゃった? とか」
何でそんなイジワル言うの?!
違います、違います、違いますー!!!
泣きたい、せっかくちょっと前向きな気持ちになれたのに。
「これは、その、二ヶ月も髪を切らずにいたらストレスで。どうでもいいからスッキリしたくて、会社から出て一番最初に目についた美容室に飛び込んで切ってもらって、それで」
乗り換えたとかじゃないの、違うから。
「本当は鈴木さんに切ってもらいたかったんです」
鈴木さんにしか切ってもらいたくなんかない。
最後はもうほぼ涙声だったかもしれないけど、かろうじて堪えた。
泣いたらばれちゃいそうなんだもん、気持ち全部溢れちゃう。
「そっか」
ありがと、て微笑んでくれた、そのすぐ後で。
「ごめん、ね」
そう言って一瞬。
一瞬後ろから抱きしめられて頭を撫でられた……。
「里穂ちゃんが来てくれなくて寂しかったから、イジワルしちゃいましたー! 妹のことも彼女とか思ってたんでしょ? だから彼女いるかとか聞いてきたんでしょ?」
頷くしかない私に鈴木さんはまたカットを始めて。
「オレも里穂ちゃんに彼氏がいなくて良かった」
微笑んでそんなこと言われちゃうと。
ドキドキしてるの聞こえちゃいそうだよ。
あんな風に抱きしめられたの初めてだし。
何だか勘違いし始めてるよ。
こんなかっこいい人が私のことを、好き、なのかも?とか。
自惚れるな、自分!!
鈴木さんは私のことをお客さんだと思ってるだけ!!
うん、きっとリップサービス!!
そう思い込もうとしてるのに、時折首筋に触れる指先がいつもより熱をもっているようでピクンとしてしまうと。
微笑むその目がいつもとは少し違う感じがして。
腰のあたりがゾクンとなる。
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