きらきらのトンネルをくぐったら

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 風がささやけば、花の笑い声がきらりと光ります。きらきらのトンネルを抜けた先、生い茂った草むらをかき分けたら、きっと出会えることでしょう。チューリップの花びらとおんなじ背丈、色とりどりの葉っぱの帽子をかぶった彼らに。彼らの笑い声は花といっしょ。きらきら、きらきら、と笑います。彼らが笑えば、葉っぱの帽子がひらひらと揺れます。きらきら、ひらひら、きらきら、ひらひら。みんなみんな、とってもとっても幸せそう。  けれどもどうしたことでしょう。いちょうの葉っぱをかぶった男の子からは、きらきらの笑い声が聞こえません。彼の名前はジョーヌといいます。ジョーヌはいっつもひとりぼっち。今日ももちろんひとりぼっち。  きらきらの笑い声が飛びかうなかを、ジョーヌはひとりぼっちで歩きます。みんな、ジョーヌを知らんぷり。ひとりぼっちで、ジャムにするためのクサイチゴをさがしていたら、咲いたばかりのたんぽぽが、ジョーヌに話しかけました。「かなしい顔をしてるわね。なにかあったの?」って。ジョーヌは目をほそめて、ぎゅっとむすんだ口を横にひっぱります。せいいっぱい笑って、ぺこりと頭をさげました。でも、「心配してあげたのに」とたんぽぽはおこります。せっかく声をかけてあげたのに、ジョーヌがなにも言わないから。  本当は、「心配してくれてありがとう」ってジョーヌは言いたかったのです。けれどもジョーヌには言えないのです。ジョーヌの声を聞いたら、みんながこわがってしまうから。  ジョーヌの声は大きくてつよくて、地震のひびきみたい。それか、雷のうなりみたい。みんなみんな、ジョーヌをこわいと言いました。そのたびに、ジョーヌはひっそりと泣きました。泣き声さえも、みんながこわいと言うから、声をころして、ひっそりひっそり泣きました。  だからジョーヌは、言葉を封印しました。誰とも話さないように。ぜったいに、話さないように。
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