Mr.スモーク

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 田所が立ち去る美樹の後ろ姿を見ながら煙を口から吹き出す。  まあ仕方のないことだ。美樹は年収数千万円を手にする女だ。金に困っていない彼女が男を外見だけで選んだとしてもそれは当然のことなのだろう。  漂う白い煙を眺めながら田所があることに気がつく。  気のせいだろうか? 今、煙がテーブルの上のタバコを動かしたように見えたが……。  田所がもう一度タバコの煙を吐き出す。  間違いない。タバコの煙がタバコの箱をしっかりと掴んで持ち上げている。どうやら田所の意志でタバコの煙が自由に動かせるようになったらしい。  どうやら自分は特殊能力に目覚めたようだ。  それにしてもすごいな。さっき数分練習しただけで動かせるようになるとは、自分は天才なのかもしれない。いや、違うな。たぶん世間からの喫煙家に対しての厳しい仕打ちと、いまの美樹の気持ちの悪い男に対するようなその態度から受けるストレスのせいで、身体の中に眠っていた能力が目覚めることになったのかもしれない。  まあ、それはどうでもいい。今はこの奇跡に感謝するべきだろう。  そうだ。今から”Mr.スモーク”と名乗ろう。まるで正義の味方のようでいい響きだ。  いずれはこの力を使って困っている人々を悪から守るのこともあるだろう。しかし、今はこの力は別のことに使うべきだ。 「佐藤美樹!!」  田所の大声に美樹が立ち止まって振り返る。 「やあ、お嬢さん。私の名前はMr.スモーク」、本来ならそう名乗るべきだろう。しかし自分は今怒っている。屈辱を味合わせられたのだ。傷つけられた名誉に対しては相手に対する罰で償われなければならない。  パンツだ。パンツを見せてもらおう。  いずれはその身体すべてをもって償ってもらう予定だが、とりあえず今はそれで我慢してやろう。  美樹の短いスカートを新しく手に入れた能力でめくってやるのだ。  よしやるぞ。  ちょっと遠いな……、まあいい、全力を出せばおそらくギリギリ届く距離だ。Mr.スモークの初任務だ。しくじることは許されないぞ。  田所が大きく息を吸い込みタバコの煙を吐き出した。  ぶちっ!! と音がした。  田所の口から出ていたのはタバコの煙ではなかった。エクトプラズム、霊体と呼ばれるそれは田所の身体から切り離されてしまった。  パタリと倒れる田所の姿を見て辺りの人間たちが何事かと訝しむ。  Mr.スモークはその生涯を閉じた。    
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