死人学級、崩壊中――生き返るのは僕じゃない

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 次の日。  僕はやはり、ぼんやりと窓の外を見ていた。  時刻はよく分からないけど、朝のようだ。授業中ではないのに誰もしゃべらない、異様なほど静かなクラス。  クラスメイトは見覚えのある顔だし、一人一人の名前も分かる。赤城、鴻巣、今井……  僕は、前の席の男子生徒に話しかけた。名前は、氷室だったか。 「ねえ……氷室、だよね」 「なんだよ、桜里?」と彼は振り返る。 「この教室、何だか変じゃないか? 僕、家にも帰ってないし、授業の記憶だってろくにないんだ」 「そりゃ家には帰れねえし、授業だってねえよ。ここで何の勉強をするんだよ。……え、もしかしてお前、ここがどこだか分かってないのか?」  うなずく僕に、氷室は小声で告げてきた。 「まあ、俺もなぜかそうだと分かるだけで、別に詳しいわけじゃないし、クラスの中には違和感に気づいてすらいないっぽい奴もいるからな。いいか、ここは俺たちが暮らしてた『現世』じゃない。同年代の死人だけが集められた『死人学級』だ。俺もお前も、こいつらも皆、死人なんだよ」  次の日も授業はなかった。  氷室が振り向いて話しかけてくる。 「桜里、お前、自分がなんで死んだか覚えてんの?」 「はっきりとは……でも、縄かな、絞殺……されたような気がする。氷室は?」 「俺もあんまりよく覚えてねえ。ただ、えらく息苦しかったような覚えがあるな。なあ、そこのお前は?」  氷室が、真横にいた女子に声をかける。確か名前は押野だ。だが、彼女はこちらを向こうともしない。  氷室が僕へ向き直った。 「意識のあり方とか現世での記憶は、結構個人差があるみたいだな。どうする、クラス中の意識がある奴確認して、友達でも作ってみるか?」 「そうだね……することもないしね」  そうして、何人かに話しかけてみて、まともに会話ができるクラスメイトを五人ほど見つけた。  サッカー部員の赤城、文学好きの原田、生徒会書記の沖島、この三人が男子。女子は美術部員の白石と、陸上部の高梨。 「私、変な学校に転校してきたなって思ってたの。でもずっと頭がぼんやりしてて」と白石がため息をつく。 「同世代の死人が集まるっていうなら、基本的にこのクラスの全員が転校生なんだろうしね。でもなぜか、皆の名前は分かるんだよな」と僕。  原田と沖島は互いの死因を言い合っていた。 「なあんか、息が詰まった覚えがあるって言うか。首でも吊ったのかな、俺」 「あ、俺も俺も。まあ、死人学級ってんだから、首吊り自殺はクラスでも多いんじゃね? 日本で刃傷沙汰で死ぬって珍しいだろうし」  続いて赤城が、首をかしげながら言う。 「でもよ、俺たち、もう死んでるんならいつまでこうしてるんだ? まさか永遠に」  その時、教室の引き戸が開いた。  そして、銀縁眼鏡をかけた痩せぎすの中年男性が入ってくる。 「先生がいたのかよ!?」と氷室が声を上げ、僕たちは急いで席に着いた。 「今日は転校生を紹介する。水無月みことさん、入りなさい」  僕もこうして紹介されたのだろうか。全然覚えてないけれど。待てよ。……水無月みこと?  先生に促されて教室に入ってきたのは、黒髪のロングヘアを揺らす、ほっそりとした女生徒だった。 「みこと!」と僕は思わず立ち上がる。  氷室が驚いて振り返った。 「桜里、知り合いか? 俺はあの女、顔も名前も覚えがねえけど」 「みことは僕の……彼女だ」 「マジか!?」  みことは僕とは反対の廊下側の席を示され、そこに座った。  先生が「もう一つ連絡事項があります」と冷たい声で告げてくる。  そういえば、この先生にも見覚えがある。常滑(とこなめ)といったか。担当科目は確か化学だ。相変わらずどこで名前を知ったのかは覚えていないけど、そんなことは分かる。 「今日、教室がやっといっぱいになりました。ですので、死人学級のルールに基づき、この中で一人だけ生き返ることができます」  それを聞いて教室中がざわめいた。今までゾンビのようだったクラスメイトが次々に顔を上げる。 「選出方法は『生存』です。この教室内全員でサバイバル――はっきり言えば殺し合い――を行い、今日の放課後まで『生存』できた一人だけが生き返れます。皆さんは既に死人ですが、生体にとっての致命傷と同程度の損傷をここで受けると、魂が消滅して完全に死にます。なお、教室からは出られません。……ここまでで、何が質問は?」
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