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高梨が手を挙げた。髪がショートカットで体つきもアスリートらしく引き締まっている彼女は、目つきも勇ましい。
「全員魂が消滅したら、生き返れる人間はいないわけですね?」
「当然そうです」
今度は原田が立ち上がった。黒い縁の眼鏡がきらりと光る。
「二人以上生き残った場合は?」
「放課後に全員消滅します。もういいですね。では、開始」
そう言って、常滑は教室の前側にある教師用のデスクに着席した。
クラスの誰もがまだ戸惑っているうちに、僕はみことのもとに駆け寄った。
「みこと。僕が分かるか?」
「ええ、陽太くん。……私たち、死んでるのね?」
そうだ、彼女は昔からこんな風にクールだった。
物憂げなみことの目を見ていたら、胸が締め付けられるような愛おしさが込み上げてきた。
「陽太くん、生き返りたい? ……生き返りたいわよね?」
そうだ、家に帰りたいに決まってる。家族だっているはずだ。だが。
「なぜだろう。家族にはあまり……会いたくない、気がする。それに、一人しか生き返れないなら、僕と君は――」
その時、大きな声が教室に響いた。
「ぐわあああッ!?」
原田の声だ。振り向くと、原田は首から噴水のように血をしぶかせていた。
相対している男子は鴻巣だ。手にはカッターナイフが握られている。
「ハハハァ、こうやって生き残ればいいんだなァ!」
茫洋としていた先ほどまでとは別人のように哄笑を上げる鴻巣の口は、しかし、すぐに霧のような血を吐いた。
「ガハッ!?」
赤城が、後ろから箒の柄で鴻巣の腹部を貫いていた。
「早速やるなんてな……鴻巣、危険だぜお前。早めに始末しとくな。しかし俺はそれなりに腕力に自信があるが、いくらなんでも『現世』ではこんな真似は不可能だろう。ここでの俺たちの体は、壊れやすく、死にやすくできてるみたいだな。……これなら、素手でも殺し合いができるぜ」
バキッ。
そんな音を立てて、赤城の首が床に落ちた。
「本当だ――」
赤城の首をもぎ取った高梨が、ショートの髪を返り血に濡らして辺りを見回してつぶやく。
「――ま、ざっと三十人かな」
僕は思わず叫んだ。
「高梨、何するんだ!?」
なんとなく、さっきの五人と氷室、それにみことは、冷静に意思の疎通ができると思い込んでいた。だが、高梨は不意打ちしようと後ろから忍び寄ってきた沖島の肩口にカウンターで拳を振り下ろし、心臓の辺りまで粉砕する。
「私は、どうしても生き返りたいの。皆もそうでしょう」
高梨のその言葉をきっかけに、教室のあちこちで咆哮が上がった。
そして、手の届く範囲にいるクラスメイト同士が、互いに体を破壊し合う地獄絵図が始まる。
まるで赤い竜巻が吹き荒れるように、血と臓物が教室の中を舞った。
「桜里、それとその彼女! 隅に逃げろ!」
叫びながら駆けつけてきたのは、氷室だった。
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