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「氷室、君はあれに参加しないのか?」
「……そりゃ、俺だって生き返りてえよ。でも……なぜだかこのクラスの奴ら全員、死人で他人のくせに顔と名前が分かっちまうだろ。それで殺し合いしろってのはよ」
「それにしても、ほぼ全員が我を失ったように殺し合うなんて……どうして……」
「え、桜里、お前は違うのか? そういえば、なんだか平気そうだな」
「それは氷室だって」
「いや、俺は今にも理性が吹き飛びそうだ。それくらい生き返りてえし、本音はそのためにこいつらを皆殺しにしたい。……お前も含めてだぜ? そこまでの衝動が、お前にはなさそうだって言ってんだ」
確かに、当たっていた。僕は少なくとも、我を忘れるほどには生き返りたがっていない。
「俺たちはきっと皆、理不尽な死を迎えたんだ。だから死に対して憤っていて、生き返るためには理性も無くす。……お前はそうじゃないなら、もしかしてお前、納得ずくで死んだのか?」
ほんの束の間、意識が過去に飛んだ。
父親には、一日中殴られ、蹴られ、子供ながらのプライドさえ奪われたことしか思い出せない。
母親も味方ではなかった。父親と一緒になって僕を痛めつけて笑っていた。
何度も死にたいと思った。
そんな毎日に、一筋の陽光のように差し込んだ笑顔。
――大丈夫よ、陽太くん。私がいるから。
みこと。
ただ一つの、僕の生きる希望。
いつも冷静で大人びた幼馴染。彼女の優しさは何度僕を救ってくれたことか。
中二の時に交際を申し込んで、彼女は少しだけ顔を赤らめながらうなずいてくれた。
僕の人生をみことに捧げようと誓った。
なのに――
「陽太くん?」
はっと気付くと、みことが僕の顔を覗き込んでいた。
「ご、ごめん。こんな時にぼうっとして」
混乱の中で横倒しになった机の陰に身を隠しながら、みことが訊いてくる。
「ねえ、陽太くんはなんで自分が死んだか覚えてる?」
「それがあまり……」
「そう」とみことが、ほっとした声を出す。
待てよ。みことこそ、どうしてここに。
訊こうと思った瞬間、目の前に白石の生首がゴトンと落ちてきた。
「うわあっ!?」
その叫び声を聞いて、残っていたクラスメイトの目が一斉にこっちを向いた。既にその数は、当初の半分ほどに減っている。
僕とみことは、漁夫の利を狙って隠れていた卑怯者。そう見えたのだろう。返り血で全身が赤黒く染った彼らが、揃って僕たちに殺意を向けてくるのを感じた。
背筋がぞくりと冷える。
十五人ほどのクラスメイトの包囲の輪が、じりじりと縮まってきた。
ふと、その奥でデスクについている常滑先生の姿が見えた。
その瞬間、頭の中に、ある光景がフラッシュバックした。
「あっ……!?」
集団の戦闘に立った高梨が、
「どうしたの? 現世での死に際でも思い出した?」と笑いながら言ってくる。
「……そうだよ。思い出した。なぜ、このクラスの皆、顔と名前が分かるのか。なぜ、皆の死因が似ているのか」
「は? 何?」
「僕たちは生前、皆同じクラスだったんだよ。そして、まとめて殺されたんだ。あの、常滑先生に。強毒性の化学薬品を教室中に撒かれて!」
正確には、隣のクラスだったみことだけは違うけれど。
生徒たちの目が、一斉に常滑を向いた。そして皆も記憶が蘇ったのか、「そうだ……」「思い出した……」「常滑……担任の」とざわめきが走る。
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