死人学級、崩壊中――生き返るのは僕じゃない

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□  ある町で、大きな事件があった。  高校の教師が気化した毒薬を教室の中に撒き、クラス三十人中二十九人を即死させた。自身もその場で死亡したため、動機は不明。  かろうじて廊下に出た男子生徒が、ただ一人命は助かったが、重篤な後遺症が残ることが予想された。  大多数の家庭であれば、必要なケアをしながら暮らしていったかもしれない。  だがこの男子生徒は、義父と母親との下で、長い間あまりにも悪意と暴力にさらされ過ぎていた。  事件の直後、少年は幼馴染であり恋人でもある女子に、病床で泣きながら訴えた。  ――殺してくれ。まだ誰にも言っていないけど、うまく体に力が入らないんだ。これじゃ自殺もできない。お願いだから。五体満足でも死ぬほど辛いあの家での生活に、後遺症のある体では耐えられない。  長年に渡る虐待は、少年の心を底まで侵していた。  ――嫌よ。私と幸せになるんじゃなかったの?  ――僕の望みは、君の幸せだけだ。でももうだめなんだよ、あの家でこの体じゃ、きっと僕は遠からず、今の僕ではなくなる。そうして君に棄てられたら……。怖いよ。気付いたんだ。君の幸せは、必ずしも僕が必要じゃない。君の隣にいるのは、僕じゃなくていいんだ。  ――何を――言ってるの。  ――別れてくれ。でも、あの家でも生きてはいけない。体がろくに動かないと知られたら、何をされるか分からない。これから死ぬまで続く生活の、その恐ろしさに耐えられないんだ。だから殺してくれ。殺してくれ。殺して……  少女は当然、頑として聞き入れなかった。だが、毎日見舞に行き、毎日懇願される内に、少女もまた心を侵された。  魔が差した、と人は言うかもしれない。少女は少年の望みどおり、自殺にしか見えないように、ロープで彼を絞殺した。  少年は、これで全てのくびきから彼女は逃れ、自由に羽ばたいていけると信じて死んだ。  だが少女が少年を想う心は、彼が思うよりもずっと深く彼女の心に根ざしていた。  結局、少女が身の内を焼き焦がすような寂寥感と罪悪感に耐えられたのは、ちょうど三日三晩だった。  四日目の朝、少女は夜明けの頃に、自宅の和室で首を吊った。  そして、次に気がついた時。  あの教室で、転校性として、再び少年の前に立っていたのだった。
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