ゴーストタクシードライバー

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「B社宅A荘まで」と正雄が告げると、タクシードライバーはうんともすんとも言わず無言の儘、タクシーメーターの賃走ボタンを押してタクシーを発車させた。  真夜中で而も大雨の中を走るのだから視界が悪いはずなのに猛スピードで飛ばすタクシードライバーの醸し出す危険な不穏な不気味な雰囲気に三人は黒い雲に覆われた空のようにすっぽりと呑み込まれてしまった。  そんな中、三人は恐る恐るルームミラーを覗き込み、タクシードライバーの顔を見ようとするのだが、闇夜に(カラス)でよく分からないでいると、タクシードライバーが出し抜けに口火を切った。 「この辺りで轢き逃げ事件が起こったことを御存じですか?」  三人は思わず顔を見合わせ、正雄と翔太はきょとんとしたが、孝志だけがどきりとした。  その様子をルームミラーで見ていたタクシードライバーはどすの利いた低い声で言った。 「真ん中の方はご存じのようですね」  すると、正しく真ん中に座っていた孝志はひやりとして、また、どきりとした。  その気色を見てタクシードライバーは丁度いいと低く呟いたかと思うとブレーキペダルを思い切り踏み込んでキキキキーという金属的なブレーキノイズを伴ってタクシーを急停車させた。  と同時に左右のリアドアが開いてタクシードライバーが落ち着き払って言った。 「お降りください」
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