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それから三日ほどした雨の日のことだった。
学校の帰りにまた同じ空き地で私は薫兄を見つけた。
薫兄の顔は見えなかったけど、茶色の傘で薫兄だと分かった。
薫兄は三日前と同じ犬のうんこを見ていた。
「この前よりすごいよね」
薫兄の声は嬉々としていた。
雨で溶けかかった犬のうんこは全然すごくなかった。
なぜ薫兄はこんなものが好きなのか、子どもの頃の私はいつも不思議に思っていた。
そういう時、私は家に帰って自分の集めたきれいな石を眺めて過ごした。
石だけではなく自分がきれいだと思うものを集めて大事に箱にしまっていた。
貝殻やきれいな色の消しゴム、キラキラシール、お祭りで買ってもらったガラス細工などが入っていた。
服もレースやスパンコールのついたもの好んで着た。
おもちゃの指輪をはめ、髪にはたくさんのリボンをつけた。フランス人形は私の憧れだった。
私は自分が醜いぶん、美しいものへの執着が強かった。
それとは反対に美しく生まれた薫兄は醜いものを愛する変わった美的感覚の持ち主だった。
薫兄が私を溺愛する理由がそこにあると知ったのは私が中学生に上がる頃だった。
ひどくショックだった。
裏切られた気分だった。
薫兄が好む毛虫や雨で溶けかかった犬のうんこと自分が同列に並べられているのだと思うと、ひどく自尊心が傷ついた。
お母さんのお腹に帰りたい。
毎晩のように納戸で寝た。
その時それは毎晩私に寄り添ってくれた。
金木犀のような甘い香りに包まれた暗闇の中のそれはいつものように温かく私を包んでくれ、私が泣き疲れて眠るまで、それは私の髪を優しく撫でてくれた。
休みの日はずっと納戸にいた。
お母さんのお腹から出たくなかった。
このまま一生ここで暮らしていきたかった。
薫兄が信じられなくなってしまうと、私が生きていられる場所はお母さんのお腹しかなかった。
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