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そんな私を納戸から引きずり出したのは、当の本人である薫兄だった。
「エイミー、最近はどうして納戸にずっと籠ってるんだい?日の当たらないところにいると体に悪いよ。僕の大切なエイミーの顔を見せてくれよ」
私は想いのたけを薫兄にぶつけた。
「薫兄なんて大キライ、薫兄が私を可愛がってくれるのは私が醜いからなんだ」
薫兄は驚いた顔をした。
「それのどこがいけないんだ?」
薫兄は自分の美的感覚が他人と違うことをしっかりと自覚していた。
「確かに僕はみんなが美しいと思う物が美しいとは思わない。僕が美しいと思うものはみんなが醜いと思うものだ。でもそれって悪いことなのか?みんなが美しいと思うものを美しいと思わないことがそんなに悪いことなのか?」
「兄さんは分かっていないと思うな」
いつからそこにいたのか、銀太郎だった。
「恵美はただ可愛いって言ってほしいだけなんだと思うよ」
私は正直とても驚いた。
なぜ銀太郎なんかに私の心が分かるのだ。
私は相変わらず薫兄にはべったりだったが、銀太郎とは最近、昔のように一緒に遊ぶこともなく、ほとんど会話をすることもないというのに。
やはり同じ醜いもの同士、気持ちが分かり合えるというのか?
ああ、嫌だ嫌だ。
「分かってないのはそっちだ。みんなが醜いと思うエイミーを素敵だと思う僕の愛情がなぜ分からない?」
「ひどい薫兄、誰もこんな醜い私を愛してくれないから同情で私のことを可愛がってくれてるんだ」
「それは違うエイミー、エイミーも犬のうんこも僕にはどちらも同じくらい素敵なものだんだ」
「い、犬のうんこ」
狂ったように泣き出した私の声を聞きつけた父親によって私たちの喧嘩はここで終わりになった。
あの時の銀太郎の絶望的な目が印象的だった。
この頃ぐらいからだろうか?
銀太郎は私とだけではなく薫兄ともあまり話をしなくなっていた。
別に仲が悪いわけではなかった。
ただ二人はあまりにも違いすぎた。
光と影、生まれて来た時からの勝者と敗者。
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