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父には兄が一人いて、その叔父夫婦が全てを取り仕切ってくれた。
通夜と葬儀は葬儀場で行われた。
父と継母が死んでしまったことを実感する間もないほど慌ただしい数日間だった。
仏壇の祖父母の写真の横に父と継母の写真が並べられてもなお、二人が死んでしまったという実感が湧かなかった。
それは薫兄や銀太郎も同じようだった。
私たち三人が両親の死を実感したのは、これから先私たち三人の身の振り方を迫られた時だった。
叔父夫婦が私とあともう一人くらいだったら引き取ってもいいと申し出てくれた。
継母にも二人兄がいて、それぞれが一人だったら面倒を見ると申し出てくれた。
ありがたいことだ。
でも幸い父は私たち三人が成人するくらいまで必要な蓄えを残してくれていた。
父は普通のサラリーマンであったが、若い頃から当時の日本人にしては珍しく、投資に興味を持っていて、少しづつ堅実な優良株を買い続けることで着実に資産を増やしていた。
「恵美と銀太郎のことは僕が責任を持ちます」
薫兄の威風堂々とした態度に大人たちは承諾せずにはいられなかった。
普段から大人たちからも一目置かれている薫兄だったが、この時の薫兄は惚れ惚れするほど頼もしかった。
それに比べ銀太郎はまるで子どもだった。
薫兄の横でただへらへら笑っているだけだった。
薫兄のおかげで、私たち三人はバラバラになることなく、今まで住んでいた家で同じ生活を送ることができるようになった。
私は内心、銀太郎だけもらわれていけばいいのにと思った。
でもそれはあり得ないことだった。
私は気づいていた。
叔父夫婦や継母の兄たちが欲しがったのは薫兄なのだ。
本当は叔父夫婦だって薫兄だけが欲しかったに違いない、でもさすがに血の繋がっている私を差し置いて薫兄だけをもらうわけにはいかない。
だから私ともう一人と言ったのだ。
継母の兄たちの一人だったらの一人は薫兄であって銀太郎ではない。
恩を何倍にもして返してくれそうな薫兄を大人たちが欲しがったのも無理はない。
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