二人の兄

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薫兄と銀太郎、私の三人の生活は最初こそ違和感もあったが、すぐにそれは日常になった。 子どもは適応力が早い。 それでも私はまだ中学二年生で、夜になるとふと父が恋しくなることがあった。 そういう時は父が使っていた部屋に行き、父が着ていたカーディガンに顔を埋めて泣いた。 そのまま眠りこけてしまうことも多かった。 そんなある夜だった。 それは現れた。 今までは納戸のお母さんのお腹だったそれは、その夜お父さんの胸の中に形を変え、私の前に現れた。 金木犀のような甘い香りがした。 月の出ていない真っ暗な夜だった。 次の日は大きな満月が夜空を照らす明るい晩で、私は父の部屋でそれを待ったが、その夜それが現れることはなかった。 次の日も明るい夜だった。 私はある実験をしてみた。 お父さんの部屋に行った私は自分の目を黒い布で覆ってみたのだ。 視界が真っ黒に塗りつぶされる。 しばらくするとそれは現れた。 ああ、やっぱり。 それは完全な暗闇でないと現れないのだ。 それからお父さんに会いたくなった時は、私は自分で目隠しをしてお父さんを待った。 両親のいなくなった三人の生活は思った以上に快適で、何よりも食事が全て子ども向けなのがよかった。 それまでは継母が家族の健康や父の嗜好に合わせて煮物だの焼き魚だのが食卓に上っていたが、今はハンバーグやカレー、デリバリーのフライドチキンやピザのオンパレードだ。 ただそれらを薫兄がぐちゃぐちゃにして食べるのが難点ではあったが。 私は美しいものに囲まれて暮らすべく自分の部屋を模様替えした。 子どもの頃から集めていたきれいな物を飾り立てカーテンは白いレースの物に変えた。 窓際には花を飾り、さながら少女漫画の主人公の部屋のようになった。 私の部屋は世界で一番快適な場所となった。
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