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桜ヶ丘のエース
学校が休みの日はひたすら洋服作りをした。
洋服作りと言っても、既製の服にリボンやレース、スパンコールをくっつけるだけだが。
私が素敵だと思う市販のきれいな服は私の体に合わなかった。
大人用は丈が長すぎ、子ども用はてんで小さすぎて入らない。
私が着られる服は地味で野暮ったい服ばかりだ。
そこで私はそれらを装飾することにしたのだ。
バックや帽子といった小物類も、靴も全てきれいに装飾を付け加えた。
子どもながらなかなかの出来だったと思う。
中学の制服は何の変哲もないブレザーで校則が厳しく髪にはリボン一つつけられない。
その分休みの日は自分自身を思いっきり飾り立てて楽しんだ。
夜はヒラヒラのネグリジェを着て寝た。
私はここではプリンセスだった。
きれいな物、美しい物だけが私を満たしてくれた。
その日学校に行くと、私の席がなくなっていた。
もともと一番後ろの席ではあったが、見回すと教室の角に追いやられている。
私は大人しくそこに座った。
クラスの女子の何人かが私を見てクスクス笑っている。
黒板の前では男子たちがふざけていた。
「おまえ今日クッキー持って来てんだろ、誰にあげるんだよ」
「そんなの持って来てないよ」
「嘘だ、なんか甘い匂いがする」
今日はホワイトデーだった。
男子たちがバレンタインにチョコをくれた女子にお返しする日だ。
学校での私には全く関係のない日であるが。
今年も薫兄は大量のチョコをもらって来て、その半分を破棄し残りは全部私にくれた。
薫兄は私がチョコを溶かして型に入れ直しただけの手作りチョコを美味しそうに食べてくれた。
バレンタインにこっそりチョコをもらった男の子はホワイトデーに同じようにこっそり返さないといけない。
人目のつくようなところで返そうものなら、相手の女の子を傷つけてしまう。
と言うのもあるが、ほとんどは男の子が恥ずかしいからである。
自分がチョコをもらったことも、その相手にお返しすることも、周りに知られるのが恥ずかしいのだ。
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