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クラスの女子たちはトロンとした目で小沢君を見つめ、それからまだ私の前に突っ立っている山田と川口に侮蔑の視線を投げると、教壇に立った教師の方に向き直った。太った大山と私に視線を止める者は誰もいなかった。
私はその日の授業中、ずっと小沢君の背中を見つめていた。
小沢君は薫兄ほどじゃないにしても、たくさんチョコをもらったに違いない。
だから今日もたくさんの女子にお返しをするのだろう。
小沢君の持ち物を観察したが、お菓子が入った袋のようなものは持っていない。
どこか別の場所に置いているのだろうか。
どんな女子が小沢君にチョコをあげたのだろう。
きっと自分に自信がある子だ。
じゃないと桜ヶ丘のエースにチョコなんてあげる勇気なんて出ない。
私はずっと前に薫兄以外の人にチョコをあげるのを止めてしまった。
小学校のとき三人の男の子にあげたことがあるが、一人は受け取ってもらえず、一人は受け取ってはくれたが、お返しのお菓子はなかった。
最後の男子は、
「冗談だろ、冗談だよな」
と顔を引きつらせながら、猛ダッシュで私の前から走り去り、それ以来私と目を合わせなくなった。
だから私が小沢君にチョコをあげるなんてことはあり得ない。
クラスで女子一番人気の伊集院さんが小沢君のことが好きだと聞いたことがある。
伊集院さんは小沢君にチョコをあげたのだろうか?
伊集院さんだったら小沢君とつり合う。
伊集院さんは東京に行った時芸能事務所にスカウトされたという噂がある。
私も伊集院さんくらい可愛かったら小沢君にチョコをあげるのに。
私の机を掴んだ小沢君の手は大きかった。
さっき小沢君が触れた箇所にそっと手を這わせた。
チクリと私の胸が軋んだ。
私だって他のクラスの女子みたいに堂々と小沢君がカッコいいって言ってみたい。
私だって小沢君と話しただけで飛び跳ねて喜んでみたい。
私だって、私は……。
ずっと前から小沢君のことが好きだった。
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