125人が本棚に入れています
本棚に追加
私のお腹がなくなってから、ずっと独りで心細かったのだ。
このままずっとこうしていたい。私は生まれて初めて幸福感をいうものを味わった。
次の朝、台所に立つ継母の前に私が現れても、継母は何事もなかったかのように「早く着替えてきてらっしゃい」そう言っただけだった。
継母が私に冷たいのには慣れていたが、この時はもう本当にどうでもよかった。
それまでの私はまだどこかで継母に期待しているところがあった。
継母は私の本当のお腹の持ち主ではなかったけれど、いつか私にもっと優しくしてくれるようになるのではないか?
もしかしたら私を可愛いと褒めてくれるのではないか?
その偽りの微笑みが本物に変わる日が来るのではないか?
そんな淡い期待を捨てきれなかったからこそ、私は継母の陰湿ないじめにも耐え、継母の言いつけをきちんと守っていた。
でも私は昨晩、納戸の暗闇であの温かさに包まれた瞬間、閃きのように分かってしまったのだ。
継母は私を幸せにはできない。
継母のどこを掘り返しても私を幸せにする欠片さえ埋まっていない。
完全なる諦めは逆に私に平穏な心をもたらした。
私の人生は絶望や敗北ばかりだが、人が思うほどそれは悪いことではない。
一番の地獄は絶望の中で一筋の希望を見い出そうとあがいている状態なのではないかと思う。
私は私の中にあった継母という憂鬱から完全に解放された。
そして私にとって継母は人ではなく、動く物になった。
私が継母に何も求めなくなったら、継母は私の前からいなくなってしまった。
私の父を道連れにして。
それに関しては今でも私は継母を許すことができない。
初めて私がそれに触れられた次の夜、私はこっそり布団から這い出して納戸へ行ってみた。
扉を閉め暗闇に身を置く。
うとうとしかけた時だった、私はまた温かいものに包まれた。
お母さんのお腹の中に帰れたのだと思うと嬉しくて仕方なかった。
それから私は暇さえあれば納戸に入り浸るようになった。
が、納戸に行けばいつもお母さんのお腹に帰れるわけではなかった。
それでも私が唯一安らげる場所は、この納戸以外になかった。
最初のコメントを投稿しよう!