二人の兄

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私は美しいものが大好きだった。 誰彼となく自分の世話をやいている蝶の話をして回った。 大人たちはそれなりに私の話を聞いてくれたが、薫兄だけは違った。 その蝶の前身である毛虫を採って来て育てた本人であるにも関わらず、薫兄は全く蝶に興味を示さなかった。 薫兄は少し変わったところがあった。 薫兄はいつも誰も選ばないようなものを選ぶ。 色鉛筆の中から好きな色を選ばせると、普通男の子は青や緑、黄色などを選ぶ。 ちょっと大人ぶった子でも黒だろうか。 薫兄はいつも茶色を選んだ。 ケーキを選ばせても、いつも一番地味なものを選んだ。 そしてそれをフォークでぐちゃぐちゃにして食べる。 ケーキだけではなく薫兄はいつもきれいに盛り付けられた料理をぐちゃぐちゃに崩して食べた。 薫兄に甘かった継母は薫兄の好きにさせていたが、さすがに私の父は厳しく薫兄を叱った。 それから薫兄は父がいる前では大人しく盛られたものをそのまま食べていたが、いないときはやはりぐちゃぐちゃに崩して食べていた。 その崩し方が半端なかった。 崩してかき混ぜる。 これでもかと言うほどかき混ぜる。 ものによっては嘔吐した物のようになる。 見てるこちらがおえっとなるような物を薫兄は美味しそうに口に運んだ。 ある日私は空き地で薫兄が一人突っ立っているのを見つけた。 「薫兄、こんなところで一人で何してるの?」 「エイミー、ほら見てごらん」 薫兄の指差す先には犬のとぐろを巻いたうんこがあった。 それもかなり大きい。 「すごくないかい?」 「うん、すごい……」 本当はすごいなんて思わなかったけど、薫兄に合わせてそう言っただけだ。 犬のうんこのどこがすごいのだ。 「ねえ、薫兄もう行こう」 「僕はまだここでもう少しこれを見てるよ」 結局私は薫兄と小一時間ほど犬のうんこを見ていた。
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