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うさちゃんと妹
玄関で暫し待ち、大神さんの横に立っていると、勢い良く扉が開き、続いて高い声が響いた。
「やっほー、久し振りぃ!」
声の主はやたらとスタイルの良い美人である。
長い髪を横にゆったりと結い、お値段の高そうなキャップを被り、肌もつやつやだ。
どこかお忍びの芸能人の格好に似ている、そう思っていると、彼女は大神さんを見て抱きついた。
「そんなに久し振りでもないぞ。2か月前に会っている」
大神さんは表情を変えずに言ったけど、どこか楽しげだ。
「そうだっけ?細かいことはいいじゃん!っと……あれ?誰?」
彼女は私を見た。
「月城雨沙と言います!今、大神さんとお付き合いしていて……」
「うっそ!!」
「え?」
彼女は手に口を当て、信じられないと言うように私を凝視した。
うっ……この反応はアレだよね。
地味でチビなクセに、大神さんと付き合うんじゃねーよ!ってことよね……。
私がガックリと肩を落とすと、大神さんが慌てて彼女を窘めた。
「お前、名乗りもせずに失礼だぞ?日本ではそういうのは無礼になるといつも言ってるだろう」
「あっ、そうだった。ごめんなさい」
と言って笑うと、私を見て申し訳なさそうな顔をした。
「初めまして。私、大神マリアです。マナブの妹よ。よろしくね!」
「あ、妹さんですか。どうぞよろしくお願いします」
私がペコリと頭を下げると、マリアさんはわぉ!と叫びいきなり抱きついてきた。
「んなっ、ど、ど、ど……」
「うさちゃん!?USAだね!いい名前!可愛いねぇ!」
マリアさんは力任せにぎゅうぎゅう抱き締めてくるけど、純日本人の私はどうしていいかわからない。
これが挨拶と知っていても、アワアワしてしまうのだ。
その様子を側で見ていた大神さんは、怒ったようにマリアさんを引き剥がし困惑していた私を引き寄せた。
「ダメだ。雨沙はオレの。触るなよ」
「えーーーずるーい、マリアも、うさちゃん触りたーい!」
口を尖らせて拗ねるマリアさんは、ムーッと威嚇する大神さんと睨み合う。
何故……何故この人達、私を取り合うの?
意味がわからないんですけど。
「触らせるか!ほら、上がれよ。そして、早く帰れよな!」
「ぷーん。マナブのケーチ」
マリアさんは大神さんをつつきながら、私達に続いてリビングに上がった。
それから3人で夕食を取り、その話の中で、マリアさんの職業を聞いて私は御飯を吹いてしまった。
だって、モデルさんだっていうんだもん!
スタイルも良く、美人で、オシャレ。
何で最初に気付かなかったのかと、自分の鈍感さに呆れ返る。
「すごいなぁ。モデルさんかぁー」
しみじみと言う私に、マリアさんが言う。
「レクシィっていう化粧品ブランドの専属で世界中を回るんだ。だから、日本に来た時はマナブの所に寄るんだよね」
「日本に来ることは多いよな。後はフランスとかイタリアとか?」
「そうね」
マリアさんは頷きながら、カボチャの煮物を口に放り込み、幸せそうな顔をする。
その場が一瞬静かになった時、テーブルの上で大神さんのスマホがブーンと鳴った。
「……おっと、悪い。病院から電話だ。ちょっと外すよ」
「あっ、はいどうぞ!」
急いでスマホを取ると大神さんは自室に籠り、リビングにはマリアさんと私だけになった。
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