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大神さんの探している人
「それにしても、マナブが一所に長居するなんてねー」
「長居?」
頬杖をつくマリアさんの呟きに、私は敏感に反応した。
それは気になっていたことでもあったからだ。
「昔からさ、マナブはいつも何かを探してた。アメリカにいても常にね。医者になってからは世界を転々として……でもどこにも一ヶ月といなかったから……」
「そ、そうなんですか?」
この殺風景な部屋はそのせいか。
何もない部屋、使ってないキッチン。
人の気配がどこにも感じられない部屋。
それは、大神さんが居着かなかったからだ。
「でも、どうしてなんでしょうね?」
私はマリアさんに尋ねた。
本来なら大神さんに聞いた方が早い。
それなのに彼女に尋ねたのは、答えが怖かったのかもしれない。
「それ、昔聞いたらね、ある人を探してるって言ったの。絶対見つけて、幸せにしてやりたいって。昔約束したんだってさ。愛が深いねー」
マリアさんは、私を見て微笑んだ。
でも、私はまったく笑えなかった。
「へ、へぇ……」
言えたのはそれだけ。
目の前で溢れるように微笑むマリアさんを、私は真っ直ぐ見れなかった。
「マナブの探してたのって、うさちゃんでしょ?素敵ね、マナブ、とうとう見つけたんだ」
「……いや、どうかな?」
目を逸らしながら言うと、マリアさんはそれを勘違いした。
「もう!照れちゃってー」
「……あはは……」
笑うしかなかった。
だって、大神さんの探している人は……好きな人は私じゃない。
それは自分が一番良くわかっている。
大神さんと、私は、何の約束もしてないんだから……。
大神さんは私と約束の人を間違えてるんだ。
キスより先に進まないのは、なんとなく「違う」と思っているせい。
そう考えると全て辻褄が合う。
私じゃない、って言えば、大神さんはまたどこかに約束の人を探しに行くんだろう。
ここから去り、海を渡り、違う土地へと。
悲しくて、寂しいけど、黙っていられるほど私の面の皮は厚くない。
本当に彼と約束した人は、この世界のどこかで今も待っているかもしれないんだから。
私はそう決意すると、今度はしっかりマリアさんに笑って見せた。
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