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オオカミさんとウサギさん
月日は流れ……。
私と大神さんは結婚し、今は商店街の近くに家を建てて住んでいる。
あの天空の城(タワーマンション)はもともと大神さんのお父さん所有の物件だったので、私達は心機一転、新しい場所で生活を始めることになったのだ。
その大神さんの選択を、ありがたいと思っている。
あんな高い所で生活を続けるなんて、高所恐怖症の私には毎日が修行に等しい。
きっと、そんな私の心配を理解した上での決断だったのだと、改めて大神さんの優しさに感謝した。
更にもう一つ、結婚へ向けての準備で驚いたことがある。
大神さんのご家族への挨拶は、当然こちらが行くものと思っていたけど、何故か向こうが海を越えてやって来た。
陽気なお父さんに、美魔女なお母さん。
大神さんに良く似たイケメンお兄さん達に、女優みたいなお姉さま方。
マリアさんも可愛い弟くんも家族全員がプライベートジェットで来日したのである。
前世でのオオカミさんの事情。
それをある程度聞いていた私は、この大神ファミリーの結束の固さを感慨深く思った。
一つの群れのような家族は、前世でオオカミさんが救えなかったもの。
でも世界は、今度こそオオカミさんに切れることのない家族の絆(群れ)を与えた。
そう思うと、何か計り知れない力にちっぽけな私達が流されている気もした。
大きな力は常に世界中を取り巻いて、数多の輪廻を繰り返してる。
ほんの些細な出来事も、偶然も、輪廻に関わる歯車になっている。
だからこそ、私達……わ、私は……ぐぇぇぇー!
「雨沙!!頑張れ!頭が見えてきたぞ!もう少しだっ!」
「うぅーん……ふぅーっ……」
回想や難しいことで意識を紛らわそうとしていた私は、痛みで一気に現実に戻ってきた。
そう、私は出産中である。
分娩室には大神さんも入ってくれて、手を取り励ましてくれるけど、この痛みの前にはあまり意味がない(ごめん!)
1分ごとだった痛みは、押し寄せる怒涛の波の如く……。
「今です!いきんで!」
お医者さんの声に、私は渾身の力を込める!
「あ!」
次の瞬間、大神さんの大声に被さって元気な泣き声が聞こえてきた。
「はい。元気な男の子ですよ!」
お医者さんの言葉に、安心して全身の力が抜けた私の頭を、大神さんが満面の笑みで撫でる。
力強く泣く赤ちゃんは助産師さんに連れられて、私の腕の中に収まった。
「あー……やり遂げた感が……すごい……」
私が言うと、大神さんが笑って答えた。
「頑張ったな!凄いよ雨沙は!ありがとうな!」
「ふふ。まだまだ、これからよ……」
そう、子育ては大変だし気力も体力も使う。
でも、私には更なる野望があったのだ。
「あと10人がんばろうね!」
「……え」
大神さんが間抜けな声を出した。
私は、誰もいないのを見計らって大神さんに囁いた。
「ウサギは多産なんですよ?アメフトチームくらいは作れるはずです!」
「ア……メフト……」
唖然とした大神さんに、私は意気揚々と言いきった。
「アメリカと言えば、アメフトですよね?あっ!チーム名も決めてます!」
「い、一応聞こうか?」
「ロサンゼルス・ウルフ&ラビッツですっ!」
その大声に、未来のスター選手は驚いてワンワン泣き、反対に大神さんは大きな声で笑ったのである。
~おわり~
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