ワイルドイケメン

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ワイルドイケメン

病院に迎えに来た父と共に、私は自宅の文具店に帰ってきた。 時刻は午後四時を回っていて、品出しは全て終わっている。 私は、仕方なくレジに座り店番をすることにした。 母は商店街の会合で七時まで帰らないし、父はお得意様への配達に出ていて帰りは何時になるかわからない。 ここは中学校に近いため、学校帰りの生徒が夕方は多くなる。 だけど、その他はこれといって忙しくはなく、足を怪我したどんくさい私でも店番は十分なのだ。 ぼーっと仕入れ台帳を捲っていると、掛け時計が鳴り午後六時を知らせた。 閉店までは、あと一時間。 もう今日は誰も来ないだろうな、と思っていると、入口の開く音がした。 「いらっしゃいませ」 顔を上げて客を見ると、どこかでみたことのあるようなイケメンがいた。 黒のライダースジャケットに、デニムのパンツ。 手にはメタルブラックのフルフェイスヘルメットを抱えている。 その野性味溢れる出で立ちに暫し見惚れていると、イケメンはツカツカとこちらにやって来た。 「あ、何か御入り用ですか?」 「……足はどう?」 あれ?質問に対する答えじゃないよね? 首をかしげる私に、イケメンは大きな溜め息をついた。 「さっき捻挫で病院来ただろう!ほら、オレ、わからないか!?」 「……あっ!」 思い出して、私は小さな悲鳴を上げた。 目の前のワイルドイケメンは、昼間診察してもらった医師だった。 「す、すみませんっ!雰囲気が違うもので気付きませんでした!」 私がビクビクしながら謝ると、医師はあっ、という表情をして慌てて言った。 「ごめん!怒ってるんじゃないんだ!」 「あ、いえ、大丈夫ですっ。ちょっと驚いちゃって……あの、それで何か……?」 文具屋に来たのだから、当然買い物があるんだろう。 たまたま入った店が、診察した患者の店だった……それだけのことだと私は考えた。 「ええと。月城雨沙さん……」 「はい」 「オレと付き合って下さい」 「……はい?」 私は思い切り首をかしげた。 ……少し整理しよう。 ワイルドイケメンと私は、今日大学病院で初めて出会った。 患者と医者として、である。 あれ?それだけだよね? 整理するほどのことがないのに気付いた私は愕然とした。 「どうして!?」 そう叫ぶと、ワイルドイケメンは何故かくくっと笑った。 「どうして……か。あの時みたいだな」 「あの時??」 「いや何でもない……うーん、どうしてかと言えば、もう本能だろうな」 「……本能……」 ワイルドイケメンから、ワイルドな台詞が出てきて、妙に納得してしまった。 この場合の「本能」は……もしや、一目惚れというやつでは!? と、勝手に解釈したけど、残念ながら一目惚れされるような容姿ではない。 そのことは自分が一番良くわかっているのだ。 チビで地味でどんくさい。 それが私、月城雨沙(うさ)(23)なのだから。
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