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大神マナブ
「あのぅ……本能っていうのは、一体どういう……」
結局考えがまとまらず、私は尋ねた。
「これだ!って思ったんだ……いや、君だ!かな?」
「……まさかとは思いますが、それは……俗にいう《一目惚れ》というやつです?」
いや、ほんと、まさかとは思いますけど、確認のためなのですみませ……
「そう!それ!」
「お……おぉぉぉぉ……い……」
私の腹の底からは、信じられないくらい野太い声がでた。
ワイルドイケメンはそれを聞いて豪快に笑い、優しい目をして私を見る。
「本気ですか……あなたのような、(イケメンエリート)医師が……寂れた商店街の小さな文具屋の店番を……?え?ドッキリ?」
「ドッキリじゃねーよ。本気で言ってる。オレと付き合って下さい。月城雨沙さん」
ワイルドイケメンは、レジ前に身を乗り出して、食い入るように私を見た。
そして、何故かくんくんと鼻を嗅ぐ仕草をする。
「臭います!?私臭いですか!?」
急いで自分で袖口を嗅いで確認した……が、よくわからなかった。
焦る私に、ワイルドイケメンは飄々と言ったのだ。
「いや?確認しただけ」
「……何のです?」
私のその質問に、彼は答えなかった。
代わりにニコニコと爽やかな笑顔を返し改めて尋ねたのだ。
「付き合って下さい。そして、ゆくゆくは結婚して下さい」
ちょっとぉー!何か増えてませんかぁ!
お付き合いから、いきなり結婚まできましたけど!?
今日初めて会いましたよね、私達。
「……あの、あまりにいきなりなので、少し時間を貰えないかと」
私はやんわりと言った。
かつてない好条件のワイルドイケメンである。
あまり無下にもしたくない。
だけど、いかにもモテそうな職種にもかかわらず、こんな地味チビに声をかけるなんて、ひょっとしたらド変態かもしれないじゃない?
「ああ、いいよ。じゃあ、明日また来る」
「明日!?は、早くないですか?」
「早くない。それ以上待てない」
「待てない?……わ、わかりましたよ……がんばって考えてみますので……」
答えた私は、大変なことに気付いてしまった。
ワイルドイケメンの名前、知らないわ!
診察してもらった時、確認すればよかったけど、もう会うことないと思ってたんだもん、仕方ないよね。
目を泳がせた私を見て、ワイルドイケメンは、ポケットから一枚の名刺を取り出した。
『T大学病院 整形外科 医師 大神マナブ』
名刺にはそう書かれていた。
「オオカミさん?」
「そう、オオカミさん」
ワイルドイケメン、改め、大神さんは目尻を下げて微笑んだ。
《オオカミさん》そう頭で反芻するとポッと暖かいものが沸き上がる。
でも、その正体に私はまだ気付くことは出来なかった。
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