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ステータスを開く
おっさんに必死な顔で責められ、慌てて帰宅した俺。
自室で一旦腰を下ろしてから落ち着く事にした…
「おいおい、あの管理者が言ってた通りこの世界は作り替えられたってのか?にわかには信じられねぇが事実としか言えないよな。」
「…ふふ、ようやく我がマスターの言葉を信じるようになったわね。」
「ああ。こうもはっきりと現実にステータスって単語が一般的に使われるようになってるとな……って、なんだ?このちっせぇの。」
「コ、コラ触んな!服引っ張るなぁ~‼︎」
いつの間にこんなミニサイズの女が現れたんだ?
「えーっと…お前は誰?」
この子は俺がさっきさわっていた青い服と黒いスカートを素早く整え、銀髪ショートヘアを片手でかき上げながら不機嫌な態度で話し始めた。
「ふんっ‼︎いきなり女の子の服に手をかける最低男の癖に失礼しちゃうわ!……まあ、しばらくは嫌でも絡まないといけないし、一応自己紹介だけはしてあげる!
私は雷ガイダーのシアン。我がマスターである[管理者]ゼノン様の僕よ!あなたがどこで悪さをしていようが必ず探しだして、私の雷をぶつけてあげるよう監視しとくから感謝しなさい♪」
「んなもん感謝できるかぁ⁉︎てか、下手して死んだらどうしてくれんだよ!」
「大丈夫大丈夫。あなたが死んだってゼノン様が存在を消してくれるし、全ての人間の記憶からきれいに消されるもの!だから一人もあなたの事に心をとめたりなんかしないわよ?」
「物騒すぎることを言うんじゃねぇよ!お前は結局、俺に何をする為ここに来たんだ?」
「んー強いて言うなら……あなたが悪い行動を取るかどうか、監視する為の存在って思ってくれると良いかな。」
「俺を監視してなんになるんだよ?」
「なんにもなるわけ無いじゃない!バカなの?アホなの?
ステータスの開きかたすら知らずに恥ずかしい決めポーズつくって大声で叫ぶあんたの監視なんて、マスターの命令が無かったら絶対やんなかったわよ‼︎」
「み、見られてた⁉︎」
なんだろう、怒りよりも羞恥心と悲しさでへこみそうな気持ちになってるんですけど。
「ふん!…それより早くステータス出す練習でもしなさいよ。このダメ男!」
「お、おまっ!人が黙ってりゃズケズケと言いやがって〜‼︎」
「は?何よ文句あんの?じゃあ私も遠慮なく…えい‼︎」
「アババババ⁉︎」
本当に雷攻撃みたいなのをしてきやがったぞこのアマ!
「良い気味ね。もう1本イッとく〜?」
「い、いやま…待て」
「ほい!」
「アガガガガ‼︎⁉︎」
「あははは!楽しい~‼︎」
「まっ、待ってくれ…ギャーー⁉︎」
「キャハハハハハ‼︎」
「お、お願いします…もう、やめて」
「チェッ!これから楽しくなりそうだったのに残念…」
こりゃ命がいくらあっても足りん……今はせめて、ステータスの開きかただけは死ぬ前に知っておかねば!
「お願いです。俺にステータスの見方を、教えて…下さい。」
ちきしょう!敬語なんて面接でも使った事なんかねぇし、いざ使うとなるとなんかスゲーむかついてくる!
「そうそう。ちゃんとそうやって敬語を使って、相手に頼むのを忘れたらダメよ~?それが共通認識なんだから!」
「くそ!性悪女が…」
「ん?今なんてった?」
彼女…シアンの指から小さくて黄色い稲妻がたち始める!
「ス、スイマセン!ナンデモアリマセン。」
「ふん!……とりあえず開きかたは教えるわ。やり方は簡単だしすぐに慣れるからよく見といてよ?まずは顔の前に指を持ってきて、まっすぐ前方に押してみなさい。」
「こ、こうか?」
ポチッ…ヴォン!
ステータス表示
禅内 仁(25歳) レベル1
体力(HP)170 スタミナ60
攻撃力50 精神力(MP)20
防御(忍耐)力20 器用さ150
賢さ(ズルさ)1000 魅力5
:スキル
責任転嫁 嘘八百 状態異常耐性+
悪口 ステータス閲覧 詐欺トーク
ゲームプレイスキル超
謝罪放棄 (不屈の意志)
:称号
ゼリーメンタル 無責任
堕落の極み 異常耐性所持者
廃人 初級詐欺師 閲覧者
「「……」」
「あんた、想像以上のクズね。よくそれでエリートだとほぞいてこれたもんだわ」
「……」
「まあ、生活力ゼロな暮らしだって私にも分かる有り様だものね?あんたの部屋」
ガラッ…
「ん?風に当たりたいの…って!なにしてんのよバカ⁉︎」
「……え?」
俺は、自身が二階の部屋窓から落ちる準備をしていたのを必死に止めようとする、宙に浮いてるシアンの存在に気づいた。
「確かにあんたは口では言いあらわせないくらいのダメ人間よ!でもね、事実を知っただけでそれから逃げるために死ぬなんて人生何の意味も無いでしょ!
足りないところが分かったんならそれを減らす努力の一つくらいしたらいいじゃない!
あんたも良い学校に入るために頑張ってたことくらいはあるんでしょ?だったらそれを思い出してみなさいよ‼︎」
シアンに全力で蹴りつけられ部屋の中に倒れこんだ俺は、力なく上体を起こしながら弱々しく口を開き始める。
「うるせぇ…何が努力だ。あんなの俺の知ってる努力じゃねぇ!お前の言う努力ってのは些細なことでもひたむきに頑張り続ける気持ちの事を言ってんだろ?」
「そうよ。それ以外になにが…」
「俺は!実際それをしてきたんだよ‼︎親の期待と言う重荷を背負いながら小っせぇ頃からずっとなぁ⁉︎」
「‼︎」
「ただ親の期待に応える為だけに友達との遊びも捨てて全てを犠牲にしてきた!
親から勉強以外は許さないと言われて、学校から帰ってすぐ部屋に閉じ込められた‼︎
ただひたすら親の理想通りの高学歴の学校に入る為に、汚いことも何でもしてきた‼︎」
「……」
シアンは今日まで俺の溜めていた思いを、黙って聞き入っている。
「高校・大学ともにトップで卒業して、エリートしかいけないと言われている念願の会社に入ってこれから順風満帆な生活が待ってると信じてた!…だが、結果はボロボロだ。
俺が一番だと思う提案を何度も出しては、『参考にならない。使えない』と毎日吐き捨てられ、すぐ退職させられた……それが今の俺だ。」
「だから、ただ努力をしただけじゃ何の意味なんてねえって最近分かってからは、二度と親の助言も命令も聞かなくなり頑張って生きれなくなったんだ…」
「…ぐすっ!」
「シ、シアン?」
「ごめんなさい、そこまでの事があったとは知らなくて…ヒック」
「なんで…シアンが泣くんだよ。」
「だって!私は最初、あんたはただのクソ野郎としか見てなかった。
何もかもが堕落して、なんにも取り柄がないヘタレだとしか思ってなかったから‼︎」
今さらっともっとも傷つく事を言われたけれど、こんな風に気持ちをくんでくれる相手がいてくれるのって嬉しく感じるものなんだな。
あれ?俺の手の甲が濡れてる。
「…あんたも泣く事があるんだ。なんか意外かも」
「べべっ!別に泣いてなんかいねえし⁉︎目にゴミが入っただけだし!」
「ぷっ!なによそれ、ちびっこみたいな言い訳にしか聞こえないわよ?」
「う、うるせぇ!ぐぅ…」
「しょうがないなぁ……今回だけだからね?」
「?」
シアンが俺の近くまで飛んできたと思ったら、急に俺の頭を撫で始めた。
「シアン…」
「泣けるときは遠慮せず泣いときなさいよ。あんたはしっかり頑張ってきたんなら、もう強がらなくても良いの…」
そんな……優しくされたことなんか無いのにされちまったら、我慢できなくなるじゃねぇか!
「う、うわあぁぁ‼︎」
初めて俺は大声で泣いた。一度も見てもらえなかった悲しさと、頑張っても振り向いてくれなかった両親の姿。
誰かと親しく会話できなくなった寂しさと悲しさ。
気持ちの限り出せる想いを、シアンのおかげで俺はこの日ぶちまける事ができた。
「……気はすんだ?」
「ああ…ありがとうなシアン。気持ちがかなり軽くなった」
「あら!あんだけ憎たらしい言葉しか言わなかった人間とは思えないくらい、素直なお礼だこと。」
「う、うるせぇ!」
「フフッ」
決めた。俺は今日から自由な生き方を見つけてやる!
家族の事は全て無視して、悔いのない人生を歩んでみせる!そのためにはまず、ちゃんと稼いで下準備していかなければ。
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