第一章 これは夢か幻か?

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第一章 これは夢か幻か?

俺の名は禅内仁(ぜんないじん)…25歳だ。 ここ、アキバこと秋葉原で電化製品店のバイトをして日銭暮らしをしているフリーターである。 「重い~仕事だりぃ!早く帰って携帯ゲームしてぇ~…」 真夏の暑い日差しが照りつける中、俺は文句を言いながら廃棄された重たいブラウン管テレビを一人で抱えて運んでいた。 なんとか一人で所定の場所へ運び終えた俺は、一旦腰を下ろして地べたにどかっと座っている。 「ああ~運んだ運んだ、もう動きたくねぇ……ちきしょうあのバカ親どもめ!もう少しであの冒険ゲームを全クリできるってときにいきなり部屋に怒鳴りこんで、『いい加減お前の面倒見るのはうんざりだ‼︎とっとと家を出てけ!』と言ってゲーム機とテレビをぶっ壊し、挙げ句の果てに無理やり家から追い出しやがって! おかげでこんなしんどい思いをして働きながら安いアパート暮らしをするはめになっちまってよ‼︎」 この時の俺は己の人生に絶望し、両親のすねかじりをしながら生活を送り続けていた。 結果、この[秋葉原]で一人暮らしを余儀なくされた… 俺は以前、優秀な人間だけが集うある有名企業の会社に勤めていた。 そこで全国から集められた一握りの選ばれし人間として働けていたはずだったが、実際は己の理想とは異なっていた。 「クソッ!どいつもこいつも俺の意見は全く参考にならないと突き放して、俺抜きで全て仕事を回しやがって‼︎ 俺の考え通りに動けばもっと簡単に事が済んだかも知れなかったのに……連中の方が無能なんじゃねーか?」 過去に犯した失敗の原因すら分かろうともせず、この時の俺は毎日繰り返し吠え続けながらゲームでずっと鬱憤を晴らしていた。 とうとう両親は我慢の限界を迎えたのか家から俺を閉め出し、両親だけが平穏の日々を取り戻している。 「…ったく!くだらねえ世の中だ。これがもしゲームみたいな世界になってたなら愉快でたまらねえんだけどな」 「ソノ願イ…叶エヨウ。我ガ身ニ、触レルガヨイ。」 「あ?誰だ。どこにいる?」 思わず立ち上がり周りを見渡すが誰も居ない。 ふと視線を足元に向けると、何故か俺の座っていた所…その場所に見慣れない形をしたスマホらしいものが落ちていて、画面の真ん中が小さく赤く光っていた。 俺がなんとなくそのスマホの画面に触れた瞬間、まばゆい光を放ち出す。 「うわぁ!目が、目がぁ‼︎」  おふざけ混じりで叫んでいた俺は、気がつくと真っ暗な空間みたいなところに一人だけ突っ立っていた。 「な、なんだよ今度は!眩しいと思ったら急に暗くなったり‼︎ここはどこだ!」 「…ココハ元素ノ地。アラユル物ノ元素ガココヨリ創造サレルノダ。」 「元素だぁ?訳のわかんねえ言葉言いやがって…お前一体何者だ!姿を見せやがれ‼︎」 「フム、理解シガタイ人間ダ。我ノ語ル言葉ヲ理解スル意志ガ示セヌトハ…」 「分かるわけねぇっつうの!このバカ野郎‼︎」 「ナルホド……ドウヤラブヲ弁エヌ愚カ者ダッタヨウダ。デハ、コウスルシカアルマイ」 「…ッ!があああぁ‼︎」 なんだ?体じゅうが激しく痺れてなんもできねぇ。何が起きた⁉︎ 「案ズルナ。死ナヌ程度二加減ハシテアル…」 「ふざ…けんな!お前は俺に何がしてぇんだよ‼︎」 「心外ナ。ソナタノ願イヲ叶エル前二、簡潔ナ説明ヲシヨウトシタマデ……ダガ、オマエハホエルダケデ何モ知ロウトセヌ、タダノ愚カ者。 ソレデハ聞ク耳スラ無シ二等シイ…」 「ハァ、ハァ……俺のその願いってのと、この原子の地って所の、どう関係があるってんだ?」 急な電撃で息がうまく呼吸もできていなかったが、息が安定し始めた俺は理由を聞こうと尋ねてみる。 「ホウ、マトモ二聞ククチガシッカリアルデハナイカ。ナントモモッタイナキ事ヨ」 「は?ケンカ売ってんのかテメ……アガガガガ⁉︎」 「ヤレヤレ、ソンナ態度デハ話ガ進マヌデハナイカ。 ソナタガ相手ト語ル時ハソノヨウナ言イ方シカデキヌノカ?ソレハ稚拙モヨイ所ダ。」 「へっ…うるせぇや!俺の頭脳はな、他のバカどもにはない程のIQが備わっているとクソ親達から言われて生きてきたんだよ!それを誇って何が悪いってんだ。」 「悲シイ者ヨ…真ノ価値ヲ教ワルコトナク、無知ノママ生カサレテキタカ。ナラバコノ世デソナタノ価値ガヨク分カルヨウ、ソナタノイル世界ヲ創リ変エヨウ。」 「?何を言って…」 「管理者権限発動…全ての存在の情報が可視化されました。このときより全ての生きとし生けるもののステータス閲覧が可能となりました。」 何やら急に機械音のような女性声が聞こえてきたが、なんって言った? 情報を可視化…ステータスが見れるだと? 「おい、何が起こったんだよ⁉︎」 「大シタ事デハナイ。ソナタノ真価ヲ正シク知ル為ノ仕組ミニ、コノ世界ノ[理]ヲ変エタマデノコト。 ソノナカデ己ガ真価ヲ知ルガヨイ…ソノ事実ヲ信ズルカ否カハソナタ次第ダ。」 「ま、待ってくれ!あんたは一体…」 「我ハ現世ノ管理者ナリ…」 「現世の管理者だと?」 疑問を口に出すと同時に、俺はいつの間にか元の場所に戻っていた。 「…ハッ!な、なんだったんだ」 我にかえって周りを見渡しても、先程の光景に繋がるものが一つもない。 初めに触れたあの変わった形のスマホも、見当たらなくなった。 俺はさっきまでの光景が、夢とは思えないとはっきり感じている。何故なら、手足にあの電気で痺れたような感覚が残っていたからだ。 「もし本当にステータスが見れる世界になってるってんなら、ちと店に戻る前に試してみるか……よし。」 周りに誰もいないのを確認する俺は、深呼吸で集中しカッコ良さそうなポーズをとって叫んでみた。 「ステータス…オープン‼︎」 カラス「……アーホー、アーホー。」 「…⁉︎」 なんかもう、恥ずかしいあまり顔から火が出るほど真っ赤になってしまうほどの気持ちだった。 「クソッ‼︎騙しやがったなあのクソ管理者がぁ!」 別次元から眺めている管理者こそ、とても理解できないと言いたい様子であった。 「何故アヤツハアンナ言葉ヲ叫ンダノダ?開キカタガ分カランノカ?」 「(嘘でしょ!あんなだっさい奴を私見なきゃいけないの?)」 一人の女性らしき人影が、管理者と同じ別次元にて辛辣な心の声を漏らす。 「くっだらねぇ。やってられるかよ…」 俺は更にやる気を無くしながら、店までトボトボと歩いて戻っていく。 「おいこら禅内!たかがブラウン管テレビを運ぶだけでどんだけ時間を潰してやがる‼︎」 「アー、サーセンッシター…」 「チッ!このクソ野郎が。そんなんだから今まで誰にも雇って貰えなくなって俺の兄貴であるお前の親父が、無理やり頼み込んできたから仕方なく雇ってやったんだろうが! ちったぁ感謝の言葉一つくらいまともにいってみやがれ‼︎」 アー、ウルセェウルセェ。 親父も余計な真似をしやがって。俺がその気になりゃなんだってできるっつの! 「…ったく、いつ見てもかわいくねぇ野郎だぜ。もういっぺんてめぇの[ステータス]でも見て自身の非力さってもんを知りやがれってんだ!」 ハイハイ、ソウデスネソウデス…ん?今ステータスって言ったのか? 「えっとおっさん…今ステータスって言ったか?」 「…あ?言ったがそれがなんだってんだ。」 マジかよ!確かに最初ブラウン管テレビを運ぶ日まで、誰からもそんな単語なんざ聞きもしなかったぞ! 「悪いんだがおっさん、その……ステータスの開きかたってのを教えてはくれねぇかな?」 俺自身も意外と思えるほど素直にステータスの開きかたを聞いた瞬間、おっさんの怒り顔がみるみる真っ青に変わっていき、慌てて俺を心配し始めた! 「おいおいおい⁉︎やる気の無さすぎでかは知らねえがそれは正気じゃねえだろ! お前だって幼稚園から習って来たはずだろ?それすら忘れちまうほど頭が悪くなっちまったのか? それとも仕事ができないって思って苦しんじまったせいなのか?なあ⁉︎」 「えっ?えっ?え?」 何でそんな話になってんだ?俺はただ聞こうとしただけだっての。 「禅内!今日の仕事はもう終わっていいからさっさとかえって寝ろ‼︎そんでいっそ明日の朝まで爆睡してろ‼︎」 「ちょ、おっさん…」 「フラフラなやつが口ごたえなんかすんじゃねえ!さっさと帰れ‼︎」 「は、はいぃ~~‼︎」 俺はおっさんの剣幕に押されるかたちで、慌ててその場を後にした。
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