佳与を引き取る。

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佳与を引き取る。

「毎度、ありがとうございましたー!」 ふぅ、今朝の客もそこそこ多いが、今はその方がとても感謝したい。 昨日の事を考えるよりは…な。 本当は思い出してしまうとまた気が滅入るのだが、昨日はあの危ない連中を警察に引き渡した後も散々な目に遭った。 シアンと真矢に、その後も何度か佳与に俺が口にキスをされたことをいつまでも責められ続け、当の本人である佳与は気まずそうに先に帰っちまいやがった。 だがもっとも大変だったのはその後だ。 なんか俺達の部屋に佳与が居候する事になったらしいく、その日まで電気代・ガス代・水道代を家賃込みであいつの両親が払って来なかったせいだと。 「くそっ…佳与の両親が顔を出した時は一発ぶん殴ってやる!」 「おいおい、人の店で働いててそんな物騒な言葉を口にすんじゃねぇよ。」 「あっ、おっさ……じゃない店長!」 「ったく、俺から見たらちったぁマシにはなってきたんだがなぁ……なかなかその目付きまでは治せそうにねぇか。」 ため息混じりにおっさんがダメ出ししてくるけど、こればかりは簡単に治らないっての! 「…目付き悪くてすいませんね。」 「すねんなすねんな!ははは。」 俺はやや機嫌を悪くしながらも品揃えの作業を再開し、昨日の気になっていた事を店長にも聞いてみることにした。 「そう言えば店長。昨日警察に引き渡した連中なんですが、あれって……」 「ああ、あれはドラッグ。もとい覚醒剤の一種だそうなんだが、正直不明な所が多いって話だ。」 やはりか…シアンからも少しだけ聞かせてもらっていたが、打ち込んだ瞬間に体が異常なまでに強くなってしまうらしいな。 「しかも店長、俺もこの店の宣伝用テレビでたまたまニュースを見たんですが、頻繁にガイダーの暴走らしき話が多いみたいっすね。なんかきな臭い気が……」 「言いたいことは分からなくもないが、下手な勘繰りをしてると巷の情報を鵜呑みにしやすいから信用しすぎないようにしとけ?」 「はい…」 「おう!それよりも佳与ちゃんの方だ。本当のところ、お前んちで大丈夫そうなのか?」 「全然大丈夫じゃ…ありません。」 できればあんまり思い出したくねぇよ! 「禅内様、少し中で休まれてはいかがです?」 「それもそうだな禅内、お前はちょっと横になっていろ。」 「はい、ありがとうございます。」 俺はおっさん達の言葉に甘えて、中の畳がある部屋でしばらく寝かせてもらう事にした。 「今日はシアンが自宅の中で佳与の近くにいてくれているはずだし、久しぶりに小休憩できそうだな…」 眠ってからどれくらい時間が経ったのだろうか、心なしかすごく圧迫間があると言うか囲まれてる感覚がしてならない。 そんな違和感の正体を探るつもりで、重たい目を開けてみると…… 「「…ん~」」 「…え?」 「「あ」」 シアンと真矢が、寝ている俺にキスをしようとしていた……のか? しばし数秒俺達は見合ってから、認識すると同時にお互いの顔が赤くなった! 「な、ななな⁉︎お前ら!俺にキスを…」 「「してないしてないしてない‼︎」」 「いま、やろうとしたよな?」 俺は、きわめて落ち着いた態度で尋ねてみる。 「そそ、そうよ!あんたがいつまでも起きようとしないから起こそうとしてただけじゃない!する前に起きるあんたが悪いのよ!」 「ええ~⁉︎」 「そうです!せめてしてから起きてくださいよ‼︎」 「お、男としたらすっげぇ嬉しいシチュエーションだけどよ!責められ方が理不尽すぎだろ⁉︎」 「「知らない!」」   「お兄ちゃん修羅場ねぇ…ふふっ!」 「こーら、茶化しちゃダメだろ?おませな佳与ちゃん」 「もぉ、おじちゃん!私はこれでもちゃんとしたレディーなの‼︎」 「「ふふ!」」 ティーアとリオーネは、佳与のふて顔を眺めて微笑ましそうに笑っていた。 シアン達に振り回されるやり取りがしばらく続いたせいで満足に寝付けなかった事に悪態をつきつつも、店の片付け作業を手伝って帰ろうとした所を店長に呼び止められた。 「待った禅内。」 「どうしたんです?店長」 「今真矢とも話し合ってたんだが、佳与ちゃんをうちで面倒見ようかと思う。」 「「えっ!」」 「良いんすか!」 「…仁兄ちゃん、そんなに私がいるの邪魔だった?」 「え⁉︎いやいやそんな意味じゃねぇよ!」 思わず俺はシアンを見たら、俺の視線に気づいたシアンが真っ赤な顔をしてそっぽを向いてしまう。 「そっか、やっぱりシアンちゃんとイチャイチャしたかったんだね…」 「い…イチャイチャって佳与⁉︎」 「むぅ~」 そして真矢も、ほっぺを膨らませながら俺を睨み付けてきた。 ふくれた顔も割とかわいかった事は、あえて口には出さないでおこう。 「そんなんじゃないっつってんだろ…」 「「じゃあ何⁉︎」」 「はぁ……俺は男だから、女の子のどこに気ぃ遣えば良いか全く分からねぇんだよ。 シアンからも『もっと気を遣えないの?』と昨日言われちまったが、俺はまともに他人と会話した事ねぇんだぞ?せめてどう接すればいいか教えてくれよ。」 「「「あー…」」」 佳与・シアン・真矢の三人は、気まずそうに顔を背けだした。 「まあ、そうだわなぁ…」 唯一おっさんだけが味方してくれたのはなんか嬉しかった。 「男の方では分かりようがない話でございますね…」 「ごめんなさい仁兄ちゃん…」 「ああいや、そこまで深く謝ることじゃねぇだろ。それに佳与も女の子と一緒に過ごした方が気は楽なんじゃねぇのかって俺は思うぞ?」 「仁…」 「仁兄ちゃん、ありがと…」 「おう。ちゃんと良い子にできるのか?」 「で、できるもん!」 「上等だ!いずれ学校に行けると良いな。」 「…うん!」 涙を少し流しながら、親子の元にかけよる佳与。 「じゃあ今日はこの辺で失礼しますよ?店長」 「おう!また明日な。」 俺とシアンは犬吹家から離れて、自宅のアパートに帰っていく。 「あんた、本当は女の子には優しいのね。ならせめて私にも優しくしてくれたって良いんじゃない?」 「お、俺は別にそんな事意識しちゃいねぇよ。てか、まさかとは思うけどシアンがそんな事を言ってくるのって、俺の事本当は好…」 「ちがーーう⁉︎」 バリバリバリバリバリ! 「アギャ~~!」 久しぶりの雷攻撃⁉︎ 「ああ、あんた⁉︎何自惚れてんのバッカみたい!そんなわけ無いでしょ……私は見張り役なんだから一緒にいるの!ついでにあんたに悪いムシ(意味深)がつかないよう、目を光らせてあげてるだけなんだからね‼︎」 「わ、分かったから。せめて外では雷をあまり使わないでくれよ!」 「ふ…ふんだ!変なことを言う仁が悪いんでしょ?ほらほら、さっさとしないと置いて行くわよ。」 「へいへい…」 全く…どうして女ってこうなんだか、訳わかんねぇ。 俺が悪態をつきながら駆け足気味にシアンを追いかけている時、気のせいかあいつは一瞬笑っていたようにも見えた。
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