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両親との決別
皆と一緒に禅内仁のステータス閲覧を共有したあと、しばらくなんとも言えない間が空いてしまった為、一度仁のいる病室から離れて本当にフロットを助けられる方法がないか、それぞれが考える時間を設ける事にした。
「どうするシアン?禅内仁が更におかしな存在になっていくんだけど。」
現在、シアンとミューラが二人だけで屋上にきて話し合っている。
「うーん、こうなったらどこまで変わるのか見届けようかなって私は思ってる。」
「…なんか、シアンの言い方だと嫁にしか聞こえないわよ。」
「えぅあ!」
顔を真っ赤にして変な声を上げるシアン…
「気持ちが全部顔に出るのねあんたは!まあ良いことじゃない?それほど彼を意識してきたんだから、告白のタイミングなんていくらでもつくれるわよ。」
「み、ミューラ~!」
「もう、情けない声を出さない!あたいはただフロットを助けたい。そこにはあんたみたいな恋愛感情なんて無いけれど、あたいは彼に生きててほしいから!」
「……あいつの知恵なら私たちで協力して向かえば助けられるかもしれないけど、きっとあいつは今こう考えてる。『純粋に力が足りない』ってね」
「 シアン、いっそもうあたいたちの目なんか気にしないで禅内仁にまっすぐ“好き”と言ったら?
案外あんた達なら、それでなんとかできるんじゃないかしら。あ!言っとくけど、ただのカンだからね?」
「ふふふ…何よそれ。でもありがと!ひとまず仁のいる部屋に戻ろ?フロットは助ける方向で決まりだしね!」
「ええ、ありがとうシアン!」
二人が病院の屋上から仁のいる病室へと戻る間に、彼のいる部屋で意外な人物が対面していた。
「…今さら親面して見舞いに来たのかあんたら。確か俺はあんたらに愛想つかされてたんじゃなかったっけ?」
「「………」」
どういうわけかここに、俺の両親が見舞いに来ていた。
「ああ、そうだな仁…お父さん達はお前に失望したんだ。こんな病室に入院してしまうほど下らん生活を送っていると思うと情けないわ。」
「…相変わらず俺の気持ちを一度も知ろうとしてくれてないよな、クソオヤジ達。」
「誰に向かってものを言ってる‼︎お前がワシらのメンツを潰したから、惨めな生活をおくるはめになったんだぞ!」
「そんなことを言いたくてわざわざ俺のいる病室に来たのか?顔も見たくないのはお互い嫌いなのに。」
「くっ!……お前はワシらの悲願だった大学に入り、エリートとしてあの有名な会社に入ってくれたことを心から喜んだ‼︎だが結果はどうだ?
そこの会社で働いている知り合いから『お前の子供はゴミか?』と言われてしまったんだぞ⁉︎ワシらは、そんな恥さらしの子供に育てたのではないのだ!」
「いや、あんたらが十分恥さらしだ。なぜ俺が友人との付き合いも、楽しみもあんたらが望む通りに捨てて生きなきゃいけなかったんだ?
誰かと話し合える楽しみも、一緒に遊ぶ時間も…あんた達が俺から奪い続けてきた結果がそうなんじゃねーか‼︎それなのに俺のせいばかりにしているあんたらのどこが正しいってんだよ⁉︎」
俺とクソ両親の対立をすでに全員が外で集まり聞いていた。その中には、富士野あかりの姿もあった…
「子供のぶんざいで親に逆らうな!」
「ゴフッ!…ガァ!」
クソ親父が俺を殴ってる所をあのクソ母は、はまるで俺をゴミでも見てるかのような目でその光景をじっと眺めている。
みんな「…⁉︎」
「なにやってんだこのクソ兄貴!」
「豪太か。なんだ?お前が俺にたてついて良いの…ガァ‼︎」
「お、お父さん?」
「いい加減にしろよなクソ兄貴‼︎お前の息子はな、都合通りに動く人形なんかじゃねぇ!ちゃんと間違えたら直せるだけの器量は持ち合わせてんだ‼︎
確かにあんたが最初送りつけてきた時のこいつは最悪だったさ。だがな、今とあっちゃあ文句を言えねぇくらい真面目に働くバイトスタッフなんだよ‼︎
あんたは俺が一度電話でその話をした時、俺になんと言った⁉︎『そんなもの下らん』と言いやがったじゃねぇか‼︎」
「と、とうぜんだ!そんなことなど一流の附属学校の子供でもできることだろ⁉︎」
「そうよ!私たちは常にトップがふさわしいのよ‼︎それ以外の成果をあげられない奴はみんな“使えない”連中なのよ!」
「⁉︎わ、わたし。もしかしてあんな気持ちで他のエージェント達に言ってたの?」
「あかり…」
シアンがふと、隣で自らの発言を思い出し悲しんでいる富士野あかりを切ない目で見ていたのを、俺は一瞬だけ見た気がした。
「ああそうだ!ワシらの考えが正しいのだ‼︎だと言うのに、この[役立たずなガイダーども]がたびたび息子の教育を邪魔しおってからに!」
なんとあの親父は、後ろにいた母親が手渡してきたバッグから、長い間しまわれて瀕死状態のガイダー二人を乱暴に外へと投げ出した!
全員「⁉︎」
「こ…の!クソ親父どもがぁ‼︎」
こっちの世界で俺とあいつらがどんな関わり方をしてきたかは知らない。
だが、あんな姿を見せられたらもはや我慢できなくなって、思わず親父を殴り付けた。
「ゲボァ‼︎この…よくも父親を殴ったな!」
「「う、怨めしい…」」
「⁉︎」
「ボク(私)達を物としか見てくれない。そんな人間なんか……イナクナレ!」
「おっさん離れろ‼︎」
「禅内!」
両親の元から俺達は急いで離れ、外で隠れていたみんなと合流する。
振り返って病室を見てみると、腰を抜かしていた両親が二人のガイダー達に草で閉じ込められ、ひたすら殴るけるなどの物理攻撃を受けていた!
「…救えねぇ両親だ」
「仁、一応助けておこう?」
「シアン……あんな親を助けても今度はお前が後悔しかしないと思うぞ?」
「分かってるけど、私たちと同じガイダー達が人間を殺してしまったらゼノン様も心を痛めながら彼らを殺さなきゃいけない。私はそんなところ、二度とみたくないから……あんたの両親については悪いけど、正直どうなろうが知ったことじゃないけどね!」
「ははっ、ありがとよシアン!そう思ってくれるだけでも嬉しいぜ。」
「うん!止めよう?みんなで一緒に。」
みんな「おお!」
「まずは私の番ね!」
リオーネが窓に突き抜ける方向を選んで絡み付いてる草を焼ききった。少し両親にも当たってたようなので、すかさずミューラが消化してくれた為大事には至らない。
「ジャマスルナ!」
「ワタシタチ、その人タチヲユルセナイ‼︎」
二人の攻撃を両親との間に入って止めながら、俺は語りかける。
「…すまねぇなお前ら、こんなになるまでほったらかしにされちまってよ。
謝れない両親に代わって俺が謝る!だからもう暴れないでくれ…」
「ウ、うう……」
「悔シイ…」
「お前達さえよけりゃこの両親の元から離れて、俺たちと一緒に来いよ。ちったぁ楽しめると思うぜ?」
「ほ、本当?」
「…ウソじゃないの?」
「もちろんだ。お前らも、こんなダメ親のそばにいてくれてありがとうな?もう自由で良いんだ」
「「うん…」」
「ま、まだ終わってな…いぎゃ!」
もううるさいから、軽く親父の頭を殴る俺。
「もう終わってんだよクソ親父…俺はこの場であんたらにはっきりと伝えておく。
俺達はすでに他人だ!金輪際俺の親だと二度と言うな!名誉なんざ手前で何とかしろ」
「「ああああ…⁉︎」」
嘆く両親は捨て置いて、二人のガイダーを連れてみんなの元に戻った俺達。
「まったくあのクソ親父め、こっちが怪我を負ってたとこを殴り付けてきたせいでまた痛くなったぜ。」
「…君、殴られたとは誰にだい?」
「そりゃもう、そこの病室で嘆いてる親達に…って!あのときのお巡りさん‼︎」
「やぁ!あのとき迷子になってた君か!私はその二人を逮捕しに来たんだよ?」
「えっ?あ、あの…うちのクソ両親が何か?」
「ああ、病院の院長から被害届と君を含めた患者への暴行容疑も兼ねててね。」
「なにやらかしてんだあんたらは⁉︎」
「「……」」
「君落ち着きなさい…あとは我々が彼らを連行してから、じっくり調所をとるよ。」
「は、はい。」
「おい仁!この父を裏切るのか‼︎」
「私たち、あれほどあなたに理想的な生き方を伝えてたのに!」
「…このガイダー達が恨むような真似をしてるあんた達が、よくもほざいてくれる。
今この時まで周りに一番迷惑をかけていたのは他でもないあんたらだ‼︎
本当に子供を思う親なら、過ちを認められるはずなんじゃないのか!」
「ふざけるな!そっちがその気なら弁護士を雇ってお前を訴えてやる‼︎」
「…親御さんがた、そんな真似をする前にあなた方のお話を署でお聞かせいただきますが構いませんよね?」
お巡りさんが鋭い目付きで両親を一瞥すると、急に大人しくなっていく。
「……」
ほどなくして二人は捕まり、病院の院長と看護師さん達から俺達の身を心配してもらえた。
そして、俺もすでに自由に動き回れるのを見て初めは戸惑っていたが、明日には退院して良いと言われたのでその意見に従った。
「あ、え~と…私達が彼らを止めるために力を使っちゃったんですけど、やはり弁償ですか?」
シアンがおそるおそる院長に尋ねてみたが、答えは意外な形でかえってきた。
「まさか!最小限に被害を押さえてくれた方々にそんな真似はいたしませんよ?先ほど捕らえられた二人に全て、賠償請求をする考えですから。」
院長達は俺が新しく寝る部屋へと通してくれたのだが、一つだけ大きな問題がおきた。
「な…何で私と相部屋になっちゃうのよぉ⁉︎」
「俺に文句言うんじゃねぇよ…」
「じ、仁には近づかせないかんね‼︎」
「ね、狙ってなんかいないわよ!」
そう、富士野あかりと同室になってしまったのだ。
院長が言うには、「二人とも明日には退院できるわけだから、相部屋で我慢して欲しい」との事だった。
「仁さんと一晩、仁さんと一晩……」
真矢は、なぜかショックを受けながらおっさん達と一緒に近くの安いホテルで泊まることになったらしい。
「真矢……なんかごめんなさい。」
「シアン、何を謝ってるんだ?」
「う、うるさいわね?こっちの話よ…」
「へいへい(またか)」
「……」
俺達二人のやり取りを見てか、富士野あかりは少し考え込んでいるようだ。
「あの、禅内…クン。ちょっとシアンと二人で話したいことがあるから、先にそこの空いてるベッドで休んでてくれるかな?」
「あ?ああそうさせてもらうわ。さっきのでちょっと疲れちまったし……シアン」
「な!なによ仁。」
「他人に雷攻撃は無しだからな?」
「わ、分かってるわよ…じゃあちゃんと寝てなさいよね!」
「あったりまえだ!」
二人は病室を出て誰もいない屋上の建物裏に移動したのはいいが、何をするでもなくあかりは座り、シアンは宙を浮かんでいた。
「…で?私と話したいことってなに?」
「うん……私ね、フロットと初めて会ったときからあなた達みたいに言い合いできた事なかったの。私がいつも彼の言葉を聞き流してたから」
「…なんで聞き流してたの?もしかして嫌いだった?」
「そうじゃない!彼と出会えたおかげで孤独にならなくて済んだもの。
でもね?私は禅内クンの家族関係と同じだったんだなぁって、今日のやり取りを見てて分かったんだ。
今思えば、家族の意見に従うばかりだった私がフロットの言葉に耳を貸すことができなかったのって、彼のようにそばにいて話しかけてくれるガイダーが幼稚園に入る前からいなくなってたからだと思う。」
「え…それって!」
「うん、シアンの考えてる通りよ。中学生になる頃に勇気だして両親に聞いたら二人が殺したんだって……とても悲しかった。」
嫌な気持ちを思い出したのか、あかりの目から涙が出てきた。
「あかり…それじゃ、その手首の傷は昔から何度も?」
「そうよ。家族の価値観だけに振り回されて私の気持ち分かってもらえない、どこに辛い気持ちをぶつければ良いか分からないってなってたから、自然と手首から流れる血を見て『私はまだ生きてる』と感じるようになっちゃったの…だからなかなか直せないんだ。ごめんね?こんな嫌な愚痴話をして」
「…その事、フロットには話したの?」
「ううん。ほとんど彼と話し合いらしい事もせずに私の勝手で振り回してばかりだったから…」
「じゃあもう、あんたも一緒にフロットを助けに来なさいよ!そこで今私に話したことを洗いざらい喋れば良いでしょ?
言いたいこと言えない辛さ持ってるのはあんただけじゃないの。仁だってそうだったし今の私もそうよ!」
「!」
「私が暴走したとき仁は私を本気で助けに来てくれた!あなたにもきっとできる事が必ずある‼︎だからもう、逃げずに現実と向き合って。」
「シアン…ありがとう。」
「ええ!そうと決まったら、あんたもフロットを助けるのに力を貸して。あんたがけりをつけなきゃいけない問題でもあるんだし!」
「分かった、よろしくねシアン!みんなや禅内クンにも言っとかないと…ね。あなたも彼に何か言いたいんでしょ?」
「も、もちろんよ‼︎今度こそアイツに…」
「…まだ夕方にもならないし、私はここでもうしばらく風に当たってるわ。だから言うなら今よ?」
「うう…うん!行ってくる。」
シアンはあかりに見送られながら、禅内仁のいる病室へと戻っていく。
その後ろ姿を富士野あかりは、羨ましそうな表情を少しだけしていた……
「仁~……あれ?」
こっそり覗きながら病室に入っていくシアンだが、当の本人はベッドにいなかった。
「何こそこそ入ってきたんだ?気にせず入れば良いじゃねぇか。」
「ひゃあ⁉︎仁!冷蔵庫の前で何してんのよ!」
「ああ、院長さんから飲み物もらってな。流石に病院の中ではビールはダメだろう?」
「な、なんだそっかぁ…」
「ん…まあ、な。」
二人とも、なんとも言えない雰囲気になっていたが、先に口を開いたのはシアンだった。
「えっとね!仁にずっと言いたかった事があるの。怒らずに聞いてくれる?」
「あ、ああ…」
息を飲んで、禅内仁はシアンの言葉を待つ。
「私、仁のことが好き。」
「‼︎シアン…」
「本当は、この言葉を言うのはすごく怖いの…昔私が初めてそばについた男で『ギル』って言うんだけどね?
彼とささいな喧嘩をして、感情が爆発して仁の時みたいに暴走した事があったのよ。そして、暴走した私はその人を殺してしまった…」
「そうだったなのか…」
「そう……だから最初は嫌いだったあんたの悪い所が徐々になくなって、遠慮なく言ってくれたり口喧嘩はしてもすぐに収まる。
そんな生活を送るのが楽しくなって、自然とあなたの事が気になっていったの!
今まで無茶苦茶な態度ばかりしててごめんなさい…」
「お、俺も…シアンが来るまではお前を含めて、周りはみんな責めてくるだけのやつだと感じて生きてた。誰をも信用したくないと感じはじめてる中で初めてシアンが俺の話を聞いて泣いてくれた…
そしていつのまにか、思ったことをたくさん言い合える存在になっていった。それがどんなに嬉しかったか今でも忘れられねぇ!
だからシアンさえ良かったら、ずっと側にいてくれ…俺も、シアンの事が好きだから。」
「仁!」
シアンは、泣き顔のまま嬉しそうに俺のもとへと飛んできて、初めて俺にキスをした。
だが突如、俺達の体がいきなり紫色に光だし、まるで二つが一つになるような雰囲気に変わっていく。
「「⁉︎」」
俺達は何が起きたのか分からないまま戸惑っていると、光はゆっくり弱くなっていった。
「な、何があったの?」
「俺にも分からねぇがなんつーか…あったかい感じだったな。」
「……きれい。」
仁とシアンの二人がキスをし、直後二人に現れた光が一つになる瞬間を彼らにばれないよう離れた所から見ていた富士野あかりは、その光景に見入っていた。
「私ももしかしたら、フロットに自分の気持ちを言うことができて彼の気持ちも理解できるようになった時、あんな感じになれるのかな。」
彼女としてはあの二人みたいなキスをしなかったとしても、お互いの気持ちを受け止めてあいたい。
そんな想いを覚えながら、二人がベッドに入って行くのを見計らって、自身も二人がいる病室へと見なかったふりをしながら戻っていった。
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