3章 覚醒

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3章 覚醒

俺とシアンが相思相愛となって初めての夜が病院の中という、とても危険で甘い展開になってしまった!当然落ち着かなくて、未だ寝付けていない。 そしてどうやら富士野あかりも俺達の行動が気になって仕方ないのか、なかなか寝付けないでいるようだ。 「どうしよう仁、あなたの中に入って寝ようとしても全然寝付けないんだけど。」 「シアンもか……俺もやたらと目が冴えちまって。」 (あーもう!焦れったいわねこの二人は‼︎一緒に起きてて聞いてる私も変だけど!) 「シアン、明日俺はフロットを助ける。力は劣るだろうけど、昼の時みたいにみんなと連携する方法を掴めばきっと無力化できるはずだ」 「(フロット…)」 「そうね!じゃあ、あかりも連れてってあげない?本人の口で伝えたい事だってあるだろうし……チラッ」  (シアン…ありがとう。) 「…そうだな。だったら尚更、本人の口から言ってほしいものだな?富士野~」 「ふぇ⁉︎」 「「やっぱ起きてた…」」 「あ、あははは…なんかいろいろ落ち着かなかったから……あの、禅内クン!私も一緒にフロットを助けに行く!もう決めたから‼︎ 今の私に何ができるかなんて全然分からないけど、もう逃げない!今日禅内クンとご両親とのやりとりを見て、自分自身の見るべき所を改めて知ったから!」 「よく言ったぜ、そうでなきゃな!」 「うん。明日からよろしくね!」 「おう!じゃあそろそろ寝ようぜ。明日はみんなにも伝えろよ?」 「絶対フロットを助けようね!あかり。」 「うん!もちろんよ」 富士野あかりが寝る前に見せたあの笑顔が、本来の素顔なんだろうな。 「仁!私もうこのまま外で一緒に布団で寝る~。」 「正直すっごく恥ずかしいんだが……まあ良いや。おやすみ」 「(チッ…クソッ!リア充めがぁ⁉︎)」 布団にくるまりながら、心の中で妬みの叫び声を上げる富士野あかりであった。 翌朝、俺の傷は完全に癒えていた。シアンと富士野が朝から人の体をペシペシしながら感心してるところを、間が悪い所におっさんと真矢が先に顔を出してきたので、俺は一瞬だけ固まる。 先程までペシペシしてた二人は「あわわわ⁉︎」と同時に慌てて弁解しようとしたんだが、それを無視して真矢が急接近してきた! 「ずるい‼︎私も仁さんの体を触る~!」 真矢までも人の体をスリスリと撫で回すのを見たシアンが怒って止める。 その二人を落ち着かせようと慌てる富士野といった、変な図になっていった。 「…禅内、分かってるんだろうなぁ?」 おっさんの拳から関節をならす感じの音が聞こえる‼︎ 「ヒィィィ⁉︎」 お、俺にどうしろと‼︎ 朝からそんなやりとりがあった後で、富士野あかりが改めてフロットを助けに行く為に手伝う事を告げた。 「それが良いよ!あかりお姉ちゃんのこと、フロット君もきっと待ってると思うから。」 「ありがとう!」 「…それで?あたい達はこのテレビに映っている特別部隊みたいな連中に包囲されているフロットに、どうやって近づけば良いと思う?」 「フロット⁉︎」 「こりゃあまた、地上が厳重に包囲されていやがるな。」 「お父さんどうしよう…」 「俺一人だけなら上空から奇襲を仕掛けるまではできるが、周りの連中だって黙ってられんだろうな。」 下手したら俺だけ、両方から警戒されそうだし…… 「それって以前禅内クンが氷の橋を作りながら、浅草を離れていったあれのこと?」 「ああ。やっぱりフロットと一緒に見てたんだな?」 「うん。改めてお礼を言うけど、あのときは助けてくれてありがとう。頼ってばかりで申し訳ないけど、もう少し力を貸して下さい!」 「おう!任せとけ。」 「仁。そうは言ってもこれでどうやって進むの?山の上に登ってから滑り落ちてみる?」 「し、シアン。それはあまりにも無茶じゃない?普通のソリなんかじゃこんな草の多いところ進まないもの」 リオーネが思わず思い留まらせようと意見を出すなか、二人のガイダーが会話に参加してきた。 「「あ、あのー。」」 「あっごめんなさい!二人は確か昨日あの両親についてた子達…なの?」 「はい!僕はネレ」 「私はエレ」 「「双子のガイダーです‼︎」」 [ネレ]と名乗った彼は一晩のうちに着替え直したのか、緑のベレー帽に上から下まで緑一色の半袖上着と短ズボン、白の靴下に緑の靴を履いたアメリカ人みたいにスラッとした顔立ちをしていた。 [エレ]と名乗った彼女もネレみたく、上から下まで黄色の服だった。 顔立ちがそっくりなことは除けば、上は頭からレディーキャップ、服は薄手のカーディガンで少し丈が短い程度のスカートに白の靴下と黄色のハイヒールだ。 「「わぁ!かわいい‼︎」」 シアンとあかりが同時に声をあげている。確かネレとエレはいったん俺の中に入って回復してたんだった… 「へぇ、本来はこんな姿してたんだなお前らは。」 「はい!昨日は僕たちを庇ってくれてありがとうございました。」 「私たち、もう少しであなたのご両親を殺してしまうところだったわ。本当にありがとう!」 「二人があんな気持ちになるのも分かるわよ。ところで、さっき何を言おうとしてたの?」 「はい!僕は草属性だけど周りの目に留まらないように草でトンネルを作って、皆さんを案内することならできますよ。」 「私も、雷属性だけど地面の土に電気を流して、こっちの意志で地中にいるいろんな生き物を地上に追い出すことができるわ。攻撃力はいまいちだけど…」 「へへっ、そいつはちょうど良いや!それなら近づける方法が見つかりそうだぞ。」 「何か考えがあるのか?禅内」 「ああおっさん!ちょいと部隊の人たちを驚かせてもやろうぜ?」 俺はこの場にいるみんなに、今から行う作戦の説明を詳しく伝えた。 「アハハハハ‼︎禅内仁…あんたほんとに面白い事を考えたものね!良いわ、協力しようじゃない。」 「ありがとよミューラ。みんなもそれで頼む!」 「全く仁ってば、だんだん変な方向に知恵を使っていってない?まあ確かに面白そう!少しムカツク事はあるけれど…チラッ」 「えへへへ!仁さんと…仁さんと!」 「お姉ちゃん、鼻血鼻血。」 「…まったく、しょうがねぇ娘だな真矢。」 「どうしよどうしよどうしよ…」 「ほらあかり様、気を確かにもって下さい?あなたがメインなんですから。」 「う、うん……(高すぎる所は嫌いなのにぃ〜!)」 「まあ、俺とティーアは遠くからバックアップしてやるから安心して行ってこい!」 「禅内様。あの姉妹を頼みましたよ」 「わかった、任せておけ!」 「もし仁様がうっかり佳与に変ないたずらなんかしたら、私がきれいに焼き上げてあげるからね♪」 「物騒すぎるわ!」 「仁兄ちゃんになら、別に構わないんだけどなぁ。」 「「「ダメぇ!」」」 「…ん?」 なにやらもう一人分の声が聞こえたぞ。 「あ、あかり?」 「…はっ!わわ、私は小学生の女の子にはまだ早いと思っただけよ‼︎」 「そうなんだ。でもなんとなくライバル…」 「…かなぁ?」 真矢とシアンがにこやかに、しかし威圧を込めた雰囲気を醸し出して富士野あかりを見据えている。 「ち、違うってばぁ⁉︎」 「とんだ修羅場ねぇ?禅内仁。あたいはそんな関係には興味はないから、せいぜい頑張ってね~」 「…なんか先行きが不安になってきた。」 とにもかくにも、作戦の変更はできそうにないので、覚悟は決める。 一度病院の院長にお礼を済ませ、早速移動の際に使えそうなレンタル用のシェアカーに全員が乗車した。 ・所変わって、エージェント部隊に取り囲まれながら暴走を繰り返しているフロットは、心の中ではずっと過去の事や、富士野あかりと出会った思い出に心を寄せていた。 (また僕は暴走している……前回は本当に、たくさんの人間やガイダー達に迷惑をかけてしまった。 あのときは周りに謝ろうともしない主人が自分の都合が悪くなった時、あろうことか僕を代わりに盾にして逃げちゃったけど、結局その人は捕まっちゃったんだっけ。 でも何故かその人に裏切り者呼ばわりされ、当時は僕もショックが大きかったからか野良ガイダーになってメチャクチャ荒れてたなぁ) 「ア、カ、リ…」 先週まで勤めていたエージェントの人達にあの時暴走を止めてもらえたおかげで、僕は組織の中で保護されるようになった。 多くの人間が他のガイダーを選んでいく中、僕を新たに選ぶ人はなかなかいなかった。 それは当然だ。あんな暴れ方もしてたし、何よりも無属性。 でもただ一人、そんな僕を初めて選んでくれたのは他でもない[あかり]だけだった。 (あかり大丈夫かな?また不安に負けて、手首切っていないかな?) 部隊の人に今も銃口を向けられ攻撃されてはいる。けれど、今の僕にはびくともしない… 「~~!…~~~⁉︎」 もう、どうせだれも僕を殺せやしないんだから好きな所で暴れてみようかなと考えかけていたが、山上からこの丘まで急速に降りてくる“何か”に気づく。   「「キャーーー♪」」 「うおぉ~~⁉︎」 「怖いよぉ~~‼︎」 (…なんだあれーー‼︎) 僕がその“何か”に気づき振り返って見上げてみると、昨日の昼間に会ったあの禅内仁と他の女の子達……更にどういうわけかあかりも彼と一緒にいて、泣いたまま降りてきた! どうやら草のトンネルを作りながら、水を使って滑り落ちて来ているみたい。 「お前達、人払いは行ったのではないのか!」 「もちろんです隊長!誰一人入れぬよう、この区画に入るルートは封鎖済みです‼︎」 「ではいったいどこから声が⁉︎」 (うん、この人達の目線では見えにくいかもね。あれ?彼らの足元に何かがうごめいてる?) モコモコモコモコ! 「うおわぁ⁉︎なんだって急に地面から大量のミミズが出てきてんだ‼︎」 「た、隊長!ミミズどころかありとあらゆる虫の幼虫やもぐらまでも出てきてます!足元が定まりません‼︎」 「キャー‼︎ブーツにミミズが入ってきたぁ⁉︎」 「み、皆落ち着け!一旦後退し、こいつらが沸いてこない足場に移動するぞ‼︎」 「了解!……って、うわぁ‼︎隊長、こいつら俺たちを追っかけて来ます!」 「一体どうなってんだぁ~~⁉︎」 フロットを包囲していた組織の部隊達は、エレの能力による技・[地場響鳴(じばきょうめい)]で地中にいた全ての生き物を外へと追いやられていく。 更に草のトンネルを作ってくれているネレと、水を操るミューラが連携してまさしくウォータースライダーのようにして、俺達は接近して来たのだ! 「そろそろ止まるぞ!」 全員「了解ー!」 「は、早く終わってぇ~‼︎」 草のトンネルが終わると、今度はネットのように頑丈に伸びた草達が俺達をクッションのようにゆっくり優しく受け止め、無事にフロットの所で止まることができた! (なんて方法で降りて来るのこの人達⁉︎) どうやら流石のフロットも暴走していたのを忘れてしまうくらい、唖然としてしまうような光景だったようだ。 「ごめん。私、腰抜けちゃった……」 「もうあかりったら情けないわね!フロットが目の前にいるでしょ⁉︎」 「シアンは良いじゃないの!ずっと禅内クンの中で避難してたんだから‼︎」 「二人ともギャーギャーうるせぇ!この姉妹なんかもう落ち着いてんだろうが。」 「エヘヘヘ…」 「ニャハハハ…」 「「それは昇天してんのよ⁉︎」」 「??」 はて、そうなのか? 「「賑やかだね~」」 「「あははは…」」 ネレ・エレ兄妹の感心した姿に、リオーネやミューラも苦笑いしてしまう。 「…ア、カ、リ?」 「はっ!フロット、私が分かるの⁉︎」 「アブナイ…カラ!ハヤク…ニゲ、テ‼︎」 フロットが暴走を止めきれずに、あかりに向けてパンチを仕掛けてきた! 「⁉︎……あれっ?」 だがフロットの攻撃があかりに届くことはなかった。何故なら、俺が氷で何層も頑丈にして作った盾で守ったからだ! 「大丈夫か富士野‼︎」 「あ、ありがとう禅内クン……フロット、今まであなたの言葉に耳を貸せなくてごめんなさい。 私が自分の思いを言わなかった時も、ずっと一緒にいてくれて本当にありがとう!」 「あ、あかり…」 「私が何でいつも、あなたの言葉に耳を貸せなかったのかようやく分かったの! 昔中学生の頃に親から聞いたんだ。私が幼稚園にあがる前、私と一緒にいてくれたガイダーを殺してたってこと。」 「ッ⁉︎」 「ほんと、なんでって思うわよね?私も禅内クンとおんなじで、親の価値観に従って生きてきたから口答えも一切許してもらえなかった! おまけにさっきの話に出したガイダーを親が殺したって事実を知ったその日から、リストカットを繰り返すようになってたの。 “自分はまだ生きてる”そう感じたいが為に私はしてたけど、今まで理由も分からずリストカットする姿を見てとても辛かったんだよね?フロット、本当にごめんなさい‼︎」 「僕は…あかりともっと一緒にいたいし、いっぱい仲良く話がしたい!」 「私もよフロット。これからも一緒にいようね?」 「フロットの暴走が収まった?じゃ、この氷はしまおうか。」 「ありがとね禅内クン!私とフロットの為に」 「気にすんな。ほら、ちゃんと行ってこい!」 俺は軽く富士野あかりの背中を押して前に行かせた。 フロットも彼女の目線の高さまで降りてきて、二人で抱き合ったその時……激しい光が二人を包む。 「「きゃっ!まぶしいー‼︎」」 「ねぇ仁!この光りかたって…」 「ああ、俺とシアンが体験したのと似てるよな。」 「フ、フロット!これはどうしたら良いの?」 「大丈夫…多分大丈夫だから。」 「う、うん。」 とうとう抱き合う二人の姿が見えなくなるほど輝くと、退却していた組織の部隊達が様子を見に上ってきていた。 「た、隊長!あれはいったい…」 「わ、分からん。何が起きたんだ?」 「おい富士野、フロット!二人とも無事かぁ⁉︎」 「富士野……それにフロットだと⁉︎」 俺は思わず叫んでいた。それを聞いた部隊が、ひどく混乱していた姿も見えた気がする。 「大丈夫禅内クン。私たちは無事よ?」 富士野の声が聞こえてきて、強かった光りも収まり始めてきたのだが、そこには信じられない姿をした富士野が立っていた‼︎ 「富士野?その格好は…」 光の中から現れたのは、某SFアニメに出てきそうな体の曲線美を忠実に表現された、半透明のバトルスーツ姿に頭部分からヘッドギア(?)って表現が近い被り物をつけた富士野あかりの姿だった! 全員「……」 「どうしたの禅内クン達、そんなに見つめられると私もちょっと恥ずかし……ん?」 誰もが驚きのあまり言葉が言えなくなったのを見て不思議に感じた彼女は、今本人がまとっている格好をまじまじと見てみる。 「キャアーー‼︎えっ?えっ?なんで私こんな恥ずかしい姿に変わってんの⁉︎やだやだ、誰も見ないでぇ~⁉︎」 「僕もこんなことが起きるなんて知らなかったよ。これはいったいなんなんだろう?」 羞恥心に耐えられなくなって体を屈んでしまった富士野あかりと、彼女の中で何故こうなったのかを冷静に考えているフロット。 この出来事は、人間とガイダーによる『絆の覚醒』とのちに呼ばれることとなる。
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