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お礼と勧誘
「これは困ったな…」
「どうする?私としては、今までの生活の方が楽しいんだけど。」
「そうだよなぁ~」
俺達の協力もあって富士野あかりがフロットの救出に無事成功し、更に二人が同化(?)した姿から元の姿に戻る今に至るまで、やや時間が経過した。
おそらく1時間くらいかかったと思うのだが、彼女が元に戻った後……つまり俺達の現在に至る1時間前までの出来事を少し振り返って見てみよう。
「「……」」
「頼む君達、どうか我らエージェント部隊に入ってくれ‼︎」
「いやいや!俺達は単に仲間を助けるために動いてただけなんだって!」
「そうです!仁さんの言う通りです‼︎」
「そこをなんとか頼む!君達のような連携が取れるグループは、我が組織の中でも滅多にいないんだ。
君達が入ってくれるなら富士野あかりも我らの元に戻せるかも知れない!」
「熱烈な歓迎はありがたいんですが、俺達はみんな秋葉原でそれぞれの好きな時間を過ごしているんです。
正直あんたらの待遇はとても良いかも知れないけれど、今の生活を捨てるわけにはいきません…」
「そうか……本当に、来てくれる気はないのか?」
「「ありません。」」
「…分かった。じゃあせめて、君達やガイダーとの関係性だけでも教えてくれないか?人間とガイダーのトラブルを一つでも減らせるきっかけを知るために!」
「仁、説明の事なら私の方で言えるから多分大丈夫」
「そうなのか?確かに俺の見方だけじゃ不十分かも知れねぇし……じゃあ頼むわ。」
「ぜ、是非頼む!ところで君は、なんと言う名前のガイダーかな?」
「あ…私シアンと言います。マスター・ゼノン様の命令で禅内仁のガイダーになりました。」
「マスター・ゼノン⁉︎す、すまない!説明してもらう前に少しだけ時間を頂けないだろうか?後ほど改めて話を聞かせて欲しい‼︎」
「はい。分かりました」
「ありがとう!総員集合‼︎」
隊員達「サー・イエッサー!」
「これより本部に至急連絡すべき事ができた!上官の命令があるまでこのエリアに待機‼︎
並びに、彼と彼の関係者を丁重に扱え!部外者は誰一人として通すな。以上!」
隊員達「サー・イエッサー‼︎」
「スゲー!戦闘部隊の迫力を生で初めて見れたぜ…」
「そうねー?少なくとも仁にはかなり窮屈な生活なのかも?」
「まったくだ!俺はどうも規律とか規則とか、あまり守れそうにねぇし。」
「ふむ、尚更残念でならないな。正直エージェントだった富士野も独断先攻ばかりで規律を守れたことがないおてんば娘だったが、能力は評価に値していたというのに……まったくもったいない!」
「ハハハ、じゃあ俺も富士野も部隊作戦は無理そうだな!自分達で閃いて周りが考えない事をするやつがたまにいるくらいの方が、俺はちょうど良いんじゃないかと思いますけどね?」
「フフ…確かに、君達がここに来るときなどまさに意表を突かれてあのザマだったからな。そんな部隊を我が組織でもつくってもらえるよう、いずれ頼んでみるか」
「それが良いんじゃないですか?」
部隊の隊長さんと俺らが何気ない会話を楽しんでる間に、おっさんとティーアも合流してきたようだ。
「おお禅内!上から眺めてるとフロットの側に近づく直前までの出来事はまったく愉快だったぜ‼︎」
「おっさん、いくらなんでも距離がありすぎじゃね?真矢と佳与はあのスリルを満足してたみてぇだけどよ、俺は少し怖かったぞ?……富士野ほど怖がってた訳じゃねぇが。」
「あはは!あのときの仁ってば、内側から見てたけど表情が固まってたもんね!でも、なんで真矢と佳与は平気なのよ。」
「あ…私はね!高校の友達とたまに遊園地とかに遊びに行くときがあるんだけど、よくジェットコースターとかに乗ってたからスリル系はかなり好きなの!
佳与も…多分、それに目覚めちゃったのかもね。」
マジか!女の子って度胸半端ねぇなぁ。
「…ちょっと待て。お前はまさか、豪太なのか⁉︎」
「あん?……って、おめぇは徹!鵺雉 徹也(ぬえきじ てつや)か⁉︎20年振りだな‼︎」
「おうよ豪太!お前自衛隊を辞めてから音沙汰無しだっただろう。一体どうしてたんだ?」
「ああ、その辺のつもる話は日を改めてから二人でしようや!」
「ハハハ!良いぜ、今回は俺の奢りだからな?絶対付き合えよ。」
「あったりめぇだ!ほら、これが俺の連絡先だ。忘れんじゃねぇぞ?」
「抜かせ!じゃあお偉いさんの用事が済んで、仕事帰りにはかけるからちゃんと電話に出ろよな!」
「おうよ!」
「…なぁおっさん。部隊の隊長さん、さっきまでの固いしゃべり方から急にフランクな会話をしてたけどよ、どんな関係なんだ?」
「ああ、あいつは俺が自衛隊として働いていたときの悪友だよ!よく規則違反をしては二人で共に罰則を受けていたんだ…へへ、懐かしいぜ。」
「なるほど、どうりで素手で殴って軽々と野郎が吹き飛ぶ訳だ。」
「おうよ‼︎」
俺達男の会話から知らないうちに遠ざかってしまった真矢とミューラ、シアンらの女性陣達はとりあえずまだ同化から戻らない富士野あかりの所へと移動していく。
今彼女のそばには、部隊の女性達がもの珍しげに周りをとり囲んで目を輝かせながら鑑賞していた。
「あ、あなた達‼︎恥ずかしいからあんまりそんな見ないでぇ⁉︎」
「良いじゃんあかり!せっかく会えたんだしこんな色っぽい格好になるヒミツくらい教えてよ~」
「わ、私だってよく分かんないのよ!ただ、フロットとこれからも一緒にいたい…自分の過去と彼の過去をもっとわかり合えたいなって考えて触れただけなんだから~‼︎」
「ほほう、それはつまりラブ!愛ということですかな?あかりちゃん」
「いやあぁ〜‼︎違うし恥ずかしいから、それ以上言わないでぇ!」
「あはははは!」
女性隊員達は楽しそうに、富士野あかりをいじって遊び出していた。
「あ、お姉ちゃんこっちこっち。あかり姉ちゃんが縮こまってるよ~!」
「⁉︎…えっと佳与?あなたシャツがめくれてて恥ずかしい格好になってるわよ。」
「…いやん!」
リオーネに指摘されて、照れ隠しをする佳与。
「あはは…あかりさん、ある意味人気アイドルみたいに注目されてるね。」
「アイドルって言葉は聞いたことはあるんだけど、具体的に何をする人なの?真矢」
「あたいもよくわからないわね。」
「うっそ~!二人とも知らないの⁉︎アイドルはね、大勢のかわいい娘やきれいな娘達がファンの前で歌ったり踊ったりして、たくさんの元気をくれるんだよ!」
真矢は興奮しながらシアン達に熱く語りだした。
「うーん、いまいち何が楽しいものかわかんない…」
「そう……あっ!じゃあじゃあ、秋葉原に戻ったら私の部屋でアイドルがどんなものかテレビで見せてあげる!絶対二人も気に入るから‼︎」
「真矢がそこまで言うのならあたいも気にはなるけれど、シアンはどうする?」
「そうね、ちょっと見てみようかな」
「やった!」
「「ねえねえ!」」
ツンツンと、双子ガイダーのネレとエレが真矢の背中の高さあたりで浮きながら、指でつついて合図している。
「あら、ネレ君にエレちゃん!どうしたの?」
「僕(私)達も一緒にみていい?」
「ええもちろん‼︎」
「良かったね、エレ!」
「うん!ネレ兄ぃ」
「えっと、あなた達?ちょっと聞きたいんだけど今良いかしら。」
「あ、はい。なんですか?お姉さん」
離れたところで俺は、佳与が見知らぬ女性に返事をしている事に気づく。
「あら、かわいいお嬢さんね?私はこの女性部隊隊長の管谷美玲(すがやみれい)と言うの。そこでまだ恥ずかしがって動けないままでいる富士野あかりの元上司よ!
あなた達は、あかりの友達って事で良いのかしら?」
「まあ、友達でもあるし…」
「彼を巡るライバルでもあります…ジッ」
「ヒャッ!な、なんか急に悪寒が…」
シアンは否定はしないつつも複雑な顔をし、真矢はあかりを睨み付ける。
あかりはその視線の正体を探していた…
「フフフ!青春で良いわねぇ。実はあかりの事で聞きたいんだけど……あの子、リストカットしてなかった?」
「「あっ……はい」」
「そう…まだあの子は続けてるのね」
「あっ!でもさっきフロットと意志の共有をしてあの姿になったから、リストカットを繰り返していた理由も自分の口で話せていたみたいだし多分その行為は減ると思う……えっと、言い忘れててごめんなさい!私は禅内仁のガイダーでシアンって言います。」
「私は犬吹真矢です!仁さんのお嫁さん候補です‼︎」
「真矢…あなた本当に揺るがないわね。」
「もちろんだよシアンちゃん!告白勝負ではシアンちゃんに負けちゃったけど、隙をついて仁さんにとことん抱きついて占領しちゃうから‼︎」
「ダーメー!」
「…若さねぇ。あなた達の仲が良いのは今のを見てはっきり分かったわ。
あかりはまあ、仲間はずれにはしないであげてね?彼女は誰とも分かりあおうとしたがらなかったけど、今日久しぶりに見て彼女達に遊ばれるほど雰囲気が柔らかくなった!
これもあなた達がいてくれたからあの子は変わることができたと思うので、今とても感謝してる。」
「いえいえ、私達よりも仁さんの存在が大きいです。私たちはみんなあの人のおかげで助けられたのですから!」
「そう!私の暴走も、たった一人で遠くから止めに来てくれた…」
「え?遠くから一人で止めに……彼、どう見ても生身の人間よね。」
「「あー…はい」」
「彼は化け物級に強いわよ。あたいは絶対隣につきたくないくらい!私はミューラ……最近犬吹真矢のガイダーになった者よ」
「ミューラね?よろしく…ガイダーが人間を化け物呼ばわりなんてあまり聞かない話なんだけど、それはどうしてなの?」
「見てもらった方が早いですし、ちょっと待ってて下さい……仁~!悪いんだけどこっちに来てくれる?」
どうやら俺に用があるみたいなので、シアンの呼び掛けに答えて彼女達の所へと駆け寄ることにした。
「どうしたシアン、この人は?」
「えっと、この人は管谷美玲さん!あかりの元上司でエージェント女性部隊の隊長さんだって。」
「あっ、どうも初めまして…禅内仁です」
「「じーー…」」
きれいな大人の女性を前に思わず緊張する俺を見ていたシアンと真矢が、俺を蔑むような目線を向けてきた!
「お、お前ら呼んでおいてそれかよ⁉︎」
「「プイ!」」
「フフフフ!あかりが気になるのも納得ね。ミューラ、彼の何が化け物じみてるの?」
「えっとそうね、分かりやすく見てもらうんなら……禅内仁!ちょっとやってもらいたい事があるんだけど」
「お?どうしたんだミューラ。」
「この人にあなたの能力を見てもらいたいかなって思ってるんだけど、何かできない?」
「そうだな。試しにこんくらいの小さいサイズで作る氷なら、あまり迷惑はかからねぇかもな…」
俺は氷の塊を作るイメージを掌に集中し、更にその塊へ今のシアンと同じ色をした雷を纏わせてみせた。
「……へ?」
全部隊達「…は?」
「あ、あんな真似も出来るんだ…禅内クン」
恥ずかしがっていたにも関わらず、富士野も俺の行動を見ていたようだ。
あまりじっと見てるとまたシアン達にやな目で見られそうなので、視線は戻しておこう。
「あかり、今のあいつはなんでもアリだから気にするだけ無駄よ」
富士野あかりとシアンは、まるで遠くを見るような目で俺の事を見ている…そんな気がした。
「ふぅ…一応作ったけどよ、これでどうすりゃいいんだミューラ。」
「そうね。この場所以外誰もいないなら、周りにまったく木が生えてないあの広場に向かって投げてみて」
「なんか分からねぇがわかった…いくぜ!」
一歩半くらいの助走をつけて、俺はこの小さい氷雷塊をミューラの言ったところに投げつけた直後ーー
バン!っと、強く弾ける音と共に纏っていた雷が解放され、そこに雷が落ちたかのような焦げあとが、くっきりとついてしまった!
それどころか草が火種となってしまい、燃え広がりかけている。
「やっべ‼︎」
高く跳躍してから今度は凍らせて燃えかけていた所の進行を完全に止めたので、大事には至らなかった。
一同「………」
「…ね?化け物級って言った意味わかってもらえました?」
「…すごいわ。彼は本当に超人としか言えないわね」
「へぇ、あの小さい塊であの強さなんだな。」
俺は周りの目は気にせずに、自分の今出せる力の制御を確認してひと安心していた。
「まったく、仁はどこまで人間やめていくんだか…」
「シアン、俺だって意識してこうなった訳じゃねぇからな?」
「尚更とんでもないわよ」
女性部隊達「…キャッ!」
突然、富士野達がいる場所が光り始めた!
するとだんだん光が弱まり、真ん中から富士野あかりとフロットが姿を現す。
「も、戻ったぁ~‼︎」
「はは、なんか不思議な感じだったね?あかり。君の中にいる感じに似てるけど、不思議と完全な一体感を覚えたよ。」
二人が元に戻ってから数分後、上空から軍用ヘリみたいな乗り物が降りてきた。
「な、なんだぁ~⁉︎」
ヘリの回転しているプロペラ風が、下にいる俺達に届くほどの風圧を生み出した。
「うぅ…あっ、仁見て!上から誰か降りてくる‼︎」
「本当だ!それもワイヤーアクションでかよ⁉︎」
軍用ヘリ出入り口の左右から2本ワイヤーが垂れて、それぞれから二人ずつ降りてきた。
「なんだなんだ‼︎徹、この人らは誰だ?」
「落ち着け豪太、この方々こそ俺らの上司だ!」
戦闘用の服にヘルメットを装備している3人が降り立ち、まさに特殊部隊を連想してしまう。
そのうちの一人がヘルメットを取る。見たところ年配男性のようだが、どこかで見たことがあるような…
「お待ちしておりました‼︎」
すっげぇ、流石軍隊!一人の声と同時に反応して、ビシッと揃ってる!
「うむ!苦労をかけたな。おや、キミはもしやあのとき私の会社に入社してきた者ではないか?確か…」
「俺…じゃなかった!私は禅内仁です。その節はご迷惑をおかけしました!」
全員「‼︎⁉︎」
「まさかそんな……あのときは周りの社員には一切思慮の欠片も見せなかった君が、何故こんな大人びた態度を取れているのだ?」
「あ、ははは…まあ色々ありまして」
「じ、仁がすっごくまともな敬語を使ってるぅ~⁉︎」
「う、うるせぇなシアン⁉︎俺もおっさんやお前のおかげでやっと言葉遣いや礼儀も覚えてそれをいかしただけじゃねぇか!」
「だってだって!いきなり『私は』なんて聞いたら、こっちだってすっごい驚くに決まってるでしょ?このバカ仁!」
「なんだとシアン~⁉︎」
「く、く…ははははは‼︎」
「「!」」
年配男性はあっけにとられたかと思うと、いきなり高らかに笑いだした。
「ふふふふ…いやぁ急に笑ってしまいすまない。こんな形で再会したのもそうだが、あの酷かったキミがここまで大人の接し方をする日が来ようとは思いもしなかったものでな」
「…仁、どんだけ酷かったのよ」
「う、うう~…」
ぐうの音も出ねぇ。
「鵺雉隊長、あなたが報告した例のガイダーとは彼女の事なのか?」
「は、はいっ!その通りであります‼︎」
「そうか……彼をここまで変えてくれたことに感謝すると共に、[あの方]に近い存在であるあなたに対して自己紹介をさせてもらおう。
私は、表向きでは全世界に拠点を構える電子工学株式会社総合取締役の光風浩平(みつかぜこうへい)だ。
そしてもう一方では、特殊部隊『ガーディ』の指揮官を行っている。」
俺達「ええっ⁉︎」
「まずは皆さんに改めて感謝を……元部下ではあるが、富士野あかりのガイダー・フロットの暴走を止めてくれてまことに感謝する。」
「「いえいえ‼︎」」
「…それで一つ訪ねたいのだが、マスター・ゼノンと関わりが深いあなたの名前を聞いてもよろしいかな?」
光風さんはシアンを見つめて、そう尋ねてきた。
「あっ、はい!私はシアンと言います。」
「そうか!それでシアンさん。こんな聞き方をするのは彼には申し訳ないのだが、何故マスター・ゼノンがわざわざ彼にあなたを遣わしたのかな?」
「それはえっと……仁」
「ああ、言ってもらって構わないぞシアン。俺もあんまり隠せる自信がねぇし」
「それもそうね!……私は、ゼノン様からのお目付け役として仁のガイダーになりました。きっかけは彼がゼノン様との対話の前に『現実がゲームのような世界になったら楽しいだろうな』と呟いたのが発端との事です。
そのためゼノン様はおっしゃいました。『己の真価を知ることができるように、世界の仕組みを創り変えよう』と……こうして、私たちガイダーが人間と共存できる世界に変えてくれた存在がこの仁です」
「なんか、本当にとんでもない世界観に変えてしまって申し訳なく思ってます。
ただそれとは別に、シアンを通してここにいるおっさ…犬吹店長達とこうして関わることもできて、嬉しいとも感じました。」
「……そうだったのか。ならば私は、かえって感謝をしなければならないな禅内君。
君のその考えをマスター・ゼノンが聞き入れてくれたおかげで、私達人間はガイダーという生涯を共に過ごせる相棒を持つことができ、絆とも呼べるものを知ることができたのだから!本当にありがとう」
「え?いえ!俺はそんな大したことしたつもりは…」
なんか逆に感謝され始めたんだけど、良いのか?
「そこで急なんだが、二人に提案したいことがある。わが社のアイデアマンスタッフとして、共に働いてはもらえないか?」
「「エエ~~⁉︎」」
「おいおい禅内!すげぇ出世コースじゃねぇか⁉︎」
「ええ⁉︎仁さん秋葉原を出ていくの?」
「仁兄ちゃん行かないでよぉ!」
二人の姉妹からは悲しそうな声が聞こえてくる。
「す、すみません。さすがにいきなりでは決められないのですが…」
「ああもちろんだとも!なので3日ほど考える時間を与えよう。君が良いと判断する答えをこちらに連絡してから、まずは私たちの所に来ていただきたい。」
「は、はい…」
「ありがとう!良い返事を期待しているよ?禅内君」
光風社長は部隊の仲間と共にきびすを返し、事前に平坦な場所に止まっていたヘリの方向へと去っていった。
「またあとでな、豪太!」
「おう!またな徹‼︎」
「あかり、あなたも今日は私たちと一緒にいらっしゃい?少しお話したいから。」
「えっ?で、でも…」
富士野はやや戸惑っていたが、それを後押しする声が同志だった仲間からかかる。
「「あかり(ちゃん)、一緒に話そ!」」
「あ…う、うん。ごめん禅内クンにみんな、私先に帰るね?」
「分かったわあかり。また会おうね!」
「‼︎……うん!」
シアンの言葉が届いたからか、どことなく嬉しそうな顔をして彼女らについていったあかりとフロット。
俺達は彼女の姿が見えなくなるまでその場に立ちすくんでいた。
そして、現在へと至る…
「禅内が今の生活を送ろうと連中との生活に変わろうと、俺は特に口出しはしねぇ。むしろ、良い選択を見つけるだけの時間がもらえて良かったんじゃねぇかと俺は思うぜ?お前はどうしたい?」
「すいません店長、俺としてはあっちの生活も確かに見てみたい……でも今日まで色々あったが今の生活も結構気に入ってるんだ。簡単には決められねぇよ」
「それもそうか!まあ昨日と今日はみんなと遊びに来てるだけの時間に過ぎねぇ。自宅に帰ってからでもよーく二人で話し合ってみな!」
「はい。」
「仁さん!絶対に行かないでよ?」
「仁兄ちゃんと一緒だもん!」
「二人とも…ありがとな。」
真矢と佳与からそんな上目づかいで見つめられたら、なおさら反対意見なんか言えやしないなぁ。
「ふふ!まさか禅内様にこんな機会が訪れる日が来たなんて想像もしなかったです。」
「ははは!ティーアもそう思うよな。なんにしても今日はみんな疲れただろう?今日はさっさと電車に乗って秋葉原に帰ってから寝ろよ!」
「「は~い」」
「…分かりました」
みんなで丘から降りて市街バスを使って駅に着いたあと、電車の中で眠ってるみんなの横でまだ考えてる俺に向けてシアンが話しかけてきた。
「じ~ん!いつまでそんな考え込んでんの?」
「シアン……いやまあ、こんな不思議な繋がり方があるんだなぁって感じてな?まさか俺がクビになった会社の社長が、富士野達エージェントの指揮官でもあったなんて。」
「そうね。まあ残りは帰ってからゆっくり話そ?流石に私も疲れちゃったし!仁も疲れたんじゃない?」
「まあな。じゃあ秋葉原に着くまで少し休んどくか…」
俺達の遊ぶ時間が少し騒がしくなってしまったけど、おかげでシアンの気持ちを聞くことができた。
俺もシアンに言いたかった事が言えたので、今日はとても気持ちが晴れた日となった。
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