久しぶりの日常(?)

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久しぶりの日常(?)

俺たちが電車で秋葉原駅についた頃には、すでに日暮れに差し掛かっていた。 なのでどうせならと、みんなで近くの料理屋で一緒に食べてから解散することになったのだが…… 「ねぇお姉ちゃん。私ラーメンが食べたい!」 「良いわねそれ!でも服にシミとかいっぱいついちゃうよ?」 「大丈夫!洗濯物のお手伝いなら仁兄ちゃんのところでシアンちゃんに教わったから!」 「えっそうなの?」 真矢がふと、シアンに顔を向けて尋ねてくる。 「う、うん。まあ私は仁がやってたことを見よう見まねで伝えただけなんだけどね…」 少し気まずそうにシアンが目線を反らせながら話す姿を見た俺は、洗濯が苦手そうな彼女達に助け舟のつもりでとんでもないことを口に出してしまった! 「俺でよけりゃ、洗濯機の使い方を後で教えてやろうか?」 この一言が、再びトラブルの元になってしまったのである。 「えっ!ちょっと仁⁉︎なに血迷った事を口に出してんのよ!」 「な、何を慌ててるんだよシアン?俺はただ、洗濯機の使い方を家にある俺の服でやり方を教えようかと思って……」 「仁さん仁さん!どうせなら私の服と私のブラジャーの洗いかたを是非教えて下さい‼︎ハァハァハァ…」 「なんでそうなるんだよ⁉︎てか真矢どうした!」 「じゃあ私も仁兄ちゃんにパンツを洗ってもらおうかなぁ?(ウィンク)」 「いや佳与…それに真矢‼︎本来そこは恥ずかしがって嫌がる所な気がするんだが⁉︎」 「うん、仁の考えてることの方が正しいのは間違いないわ。でもこの子達…かなりのスケベ娘みたいよ」 「あー…佳与の事はなんとも言えねぇが、真矢の事についちゃあ俺も謝る事しかできねぇわな。 なんたって娘の性欲は母親譲りでとても激しいんだが、それで何度この身に危険を感じたことか…」 「ご主人様、あの時は苦労の連続でしたものね」 「う!……ティーアすまねぇ、今日は徹の所に行きてぇからついてきてくれ。」 「はい、かしこまりました!…と、言うわけで禅内様に皆様。若気の至りで事を立てない範囲でよき交流を心がけて下さいね?」 「「はーい♪」」 「「ちょっ、ちょっとー⁉︎」」 真矢・佳与コンビが獲物を狙う目で俺を見る中、俺とシアンはかなり取り乱しながら抗議するも、店長とティーアは申し訳なさそうに急いで逃げていった! 「「薄情者~~!」」 二人の嘆きにも似た絶叫が、秋葉原の駅構内に強く響き渡り、行き交う一般人も何事かと俺たちの方に振り向いていた。 とりあえず気持ちを切り替えるため、佳与のリクエスト通り駅近くにあるラーメン屋にまず入ることにした。 「「「ごめんくださーい」」」 「おお、いらっしゃい!こりゃまた若い客が来てくれたのう?ささ、好きな場所に座ってくれぃ!」 元気のいい大声で迎え入れてくれた頭の寂しいおっさ…ゲフンゲフン! 昔の古いアニメにも出てきそうなかっこいいはちまきを頭にしていて、上から下の長靴まで届くほどの白くて長いエプロンと、どちらも白い上着とズボンの間に茶色の腹巻きをした江戸っ子口調のオヤジさんがカウンターに立っていた。 「はい!」 『つけめん屋や○べえ』と書かれた店ののれんを潜った俺達は、一緒に冷麺を食べることにした。 「おいしいー!やっぱり夏に食べる麺は冷麺が食べやすいなぁ。」 「うふふ!良かったね佳与。仁さん達は…あれ?冷麺を食べたこと無いんですか?」 「あ、ああ。俺はこの秋葉原に来るまではインスタント食品ばっかだったからな?こうも美味しそうな麺は見たことねぇ…」 「へぇ!あんちゃんどっから来たんだい?」 「俺は…文京区から来ました。」 「こいつはすげぇ‼︎文京区つったら東大がちけぇ場所じゃねぇか。わしもそんな所に住んでみたかったぜ…」 「ははは…あんまりお世辞にもいいとこじゃないと思うっすよ?」 「仁……」 俺が家族の事を思い出した途端、顔に陰りが出始めるのに気づいた店主のおやじさんが気を遣ってきた。 「おっとすまねぇ。あんまり人様の事は聞くもんじゃねぇわな?忘れてくれ!さぁ、あんちゃんも早く食った食った!」 「そ、それじゃあ遠慮なく…お、うめぇ‼︎つけめんうめぇ!」 「へへ、あったりめーよ!」 「良かった!仁兄ちゃん気に入ってくれたねお姉ちゃん。」 「そうね佳与!」 「あれ?ねぇ仁、あの男どっかで見たことない?」 「んお?…誰の事だシアン」 「ほら、今調理に入ってる金髪の男とか…」 「ん?なんだガイダーの嬢ちゃん、あいつと知り合いかなにかかい?」 「うーん、知り合いと言うか見たことあるかなぁって気がするの。」 「そうなのか?よし、ちょいと待ってな!おおーい端水(はやみ)‼︎少しこっち来てくれや!」 「なんですかい親父さん。俺はまだ盛り付けの具を…」 「構うこたねぇさ!今いるお客さんはこの人達だけだかんな。ちとお前さんっぽいやつを見たことあるってガイダーちゃんがいんだよ」 「は、はぁ…分かりやした。」 厨房から出てきたその男は、金髪で肌の色は白いがやや日焼けしたのか部分的に黒く見えている。 俺よりも少しだけ若い感じの男だった…って、こいつはまさか⁉︎ 「仁の……兄貴?」 「お、おう!なんだお前、ここで働いていたのかよ⁉︎」 「へ、へへへ!まあ、あのあと正直に白状してみたら交番で捕まることは無かったんですが、こっぴどく注意を受けちまいましてね。 今は心を入れ換えてこうやって日雇いバイトをしながら暮らすようになったんすよ!今さらですが、俺は端水幹太(はやみかんた)19歳でただのフリーターっす!」 「嘘…あなたがここで冷麺を作ってたの?」 「あっ!あん時のかわいこちゃん…」 「……仁さんごめんなさい。私もう帰ります!」 「ち、ちょっとお姉ちゃん⁉︎」 真矢が不機嫌な顔をしながら、まだ食べている最中だった佳与の腕を強引につかんで立ち上がろうとする。 「待ってくれっ‼︎俺は…君に謝りたかったんだ!」 「怖い人の話なんか聞きたくないよ!」 「お、お姉ちゃん落ち着いてよ!せっかくこんな美味しい物を作ってくれてるんだよ?残すのもったいないよ‼︎」 「佳与も、嫌がってるのにそれを無視して突っかかってきて、怖い思いをさせた相手のこと簡単に許せると思う⁉︎あなたもそれを味わってたじゃない‼︎」 「で、でも…うぅ」 「…真矢、お前の気持ちはもっともだよ。だからといって相手が必死に謝りたいと訴えてるのに聞く耳や見る目をそらしてたら、誰が相手だって絶対分かり会えたりはしないんだ! 俺の家族の姿をお前も一緒に見ただろ?もっとも俺の家族が俺に謝るとはまず思ってねぇがな。」 「……」 「すぐに仲直りできるとは当然思ってねぇ。でも謝りたいと思うのは本気だ!あのときはひどいことをして、本当にすまなかった‼︎」 「端水、おめぇ……」 「親父さんすまねぇ。店に迷惑かけた」 「まったくこのバカ野郎は……しゃあねぇ、今日のところは先に上がれ!どっちにしてももうじき上がりだろう?」 「あ、ありがとうございます!」 「お客さんらもうちの若いもんがバカな真似してたみてぇですまなんだな?良かったらまた来てくれや!」 「「「はい!」」」 「………」 「かわいこちゃん…」 「…真矢」 「え?」 「私の名前は犬吹真矢!かわいこちゃんなんて呼ばないでよ」 「あ、悪い!じゃあえっと……犬吹」 「…うん。」 なんか、形だけかも知れないが少しずつ和解はできそうな感じだな。 ちょっとだけ安心した俺は改めて目の前の冷麺を食べることにしたので、真矢も今だけは一旦落ち着いて佳与と共に一緒に食べ始めた。 「ごちそーさま!よし、じゃあ幹太。途中まで一緒に帰ろうぜ?」 「は、はい仁の兄貴!」 「わははは!男ってなぁこうでねぇとな!」 「親父さん!先に失礼しやす‼︎」 「おう!また明日もちゃんと来いよ?お客さんらも是非またよってくれい!」 みんなで一緒におじぎしてから、着替えてきた幹太と共に店を出た。 「しっかし、あの時真矢を襲ってたあんたがこうもすっかり改心できるなんてね?仁、あなた教師か何かになっちゃえば?」 「シアン、教師なんて俺は勘弁だ!子供にただ勉強を教えるだけの学校ばかりがありすぎて退屈でしかねぇし、何より生徒として見る限りでも楽しそうな教員なんてほぼいなかったぞ?」 「あー……私の通ってる学校もそんな感じの先生は確かにいましたね。」 「お姉ちゃん。私も小学校に通ってた時でも、先生達が毎日必死なのに楽しそうに見えなかったよ?なんでかな…」 「そりゃ、学校の中で立場が一番下に追いやられるのががんばり屋な教師だからだろうな」 「か、幹太?どうしたんだよ…」 「「?」」 「えっ端水、君…どういうこと?」 「犬吹、俺の苗字呼んでくれるのか!……あ、すまん疑問には答えるからよ。 学校の教員なんざ下手にならない方が幸せだ。利権にしがみつく一部の古参老がい教師が我欲を満たそうと、学校の教員にのみ暴言を吐き続ける。 そんな窮屈な所だが、確かに探せば中には真っ当な学校もあるだろうよ」 「幹太、やけに詳しいな?」 「そりゃあそうですよ兄貴!俺は一度非常職員って扱いで一時臨時の教師になってたんすから。」 「「「「ええ⁉︎」」」」 「そ、そんな髪の色をしたまま非常職員になったのか?」 「なにいってんすか兄貴⁉︎これは後からですよ!」 「「び、びっくりした…」」 「だ、だよな⁉︎」 「私、一瞬仁以上にある意味度胸あるかと思ったわ」 「当たり前ですよ!これはなんつーか…グレてなってただけです。それよりもずっと気になってたんですが、犬吹の肩に座ってずっと寝てたそのガイダー二人は?」 「あっ、この子達は…」 「…俺の両親に殺されそうになってたんだよ。」 「はぁ⁉︎頭おかしいんじゃねぇんですかいその両親……あっ!すんません、兄貴の家族なのにひでぇことを言って。」 「いや、ありがとよ!だがもう俺にとってあの二人は二度と両親として見てはいない…ただの他人として接する事にしたんだ。実際、ひどい真似をこいつらにしてたしな」 「「むにゃむにゃ…」」 「…兄貴も本当にとんでもない人生を送ってたんすね。」 「まあな。そうだ、もし時間があるなら家に来ないか?実はこの二人に洗濯機の扱い方を教えるつもりだったんだがよ…」 「ああ、そんくらいなら俺も教えられますよ?こう見えてもグレる前はよく家族の家事手伝いをしてましたから、大抵は扱えますし!」 「そ、そうか?そうだな……俺も簡単なやり方しか覚えてなかったから詳しくはねぇし、ちと頼もうか。場所は俺の家でも良いのか?」 「全然構わねぇっすよ!あっ、でも犬吹はやっぱ俺がいると落ち着かねぇか。」 「そりゃあすぐには落ち着きませんけど……だからって、私が追い返す真似して仁さんに嫌われるのはもっとやだし!ゴニョゴニョ…」 「そうか。そいつは良かった…妹ちゃんも良いか?」 「良いよ~…って言うか妹ちゃんと呼ばないで!私は御柱佳与って言うの。だからそのまま佳与って呼んでね?端水お兄ちゃん!」 佳与の屈託のない笑顔を見て、自然と端水幹太の顔も緩んでいく。 「おお!よろしくな佳与」 「「私たちも自己紹介させて~‼︎」」 「あっ!ごめんなさいミューラにリオーネ。えっと端水君、この子が私のガイダーでミューラって言うの。」 「そっ!あたいがミューラで水属性のガイダーよ!ふーん…禅内仁とは違う意味でいい男じゃない。」 「ってミューラ…なにそんなに体をくねくねして端水君を誘ってるの?ひょっとして気があるとか」 「んふふ、どうしよっかなぁ?ちょっと味見してみようかしら!チラッ」 色気ムンムンな目線を送ってくるミューラに、幹太も思わず狼狽えてしまったようだ。 「⁉︎い、犬吹のガイダーって男を見るとこうなのか?」 「うーん、仁さんには違うかな」 「あはは!ミューラは昔から男を狙うハンターみたいな性格だからね!あたしはリオーネ。佳与のガイダーで火属性よ?」 「へぇ……仁の兄貴は美女にいっぱい囲まれてて、なかなか羨ましいっすね?」 「い、いやまあ。俺は時々接し方が分からなくて戸惑う事の方が多い訳なんだが…幹太のガイダーはいないのか?」 「いるっすよ?オーイ[ロル]!起きて出てきなよ。」 幹太の中から出てきたのは、ゲームのしすぎなのか目の下に大きなクマをつくっていて、おまけに死んだ魚の目をした奴だった。 野球選手のような丸頭の茶髪で上はヨレヨレの白Tシャツ、下は黄土色の長ズボンを履いた男だった。 「んあ?なんだよ幹太〜…こちとらゲームしすぎて眠いんだっつの!」 「お前、また俺がバイト中にスマホで遊んでたのか!…って、それよりも自己紹介してほしい人たちがいんだよ。」 「あー、どーも初めまして。俺の名前はロルで土属性のガイダーでーす…」 みんな「やる気なさそー」 「なんか…すげぇガイダーがいるもんだな。」 「いえ、こうなったのは半分以上俺のせいですから。これでもだいぶんマシに戻ってくれたほうなんすよ?」 「これでか‼︎」 「仁、私なんか少し苦手かも…」 「んあ?……んんん⁉︎」 「うぇ⁉︎何、私の顔に何かついてんの!」 「…か、かわいい」 「「……は?」」 あれっ?後ろからミューラとリオーネがどういうわけか不機嫌なオーラ出してるんですけど。 「ねぇあんた、ロルって言ったよね?あたい達だってそこそこいけてるのに真っ先にシアンを見てかわいいとはいい度胸じゃないの。」 「そうよそうよ!」 「仁!なんかヤバそうなんだけど?」 「みてえだな……」 俺はなるべく関わらないようにと、遠くを見るような目でこの光景を眺める事にした。 「えっとミューラ⁉︎ひとまず仁さんの家へ先に行こ?ここだとみんなが見てるし!」 「そ、そうだよリオーネ!まずは落ち着いて話せる所に行こ!ね?」 「「女のプライドを…なめんな~!」」 「ふぎょわぁ~⁉︎」 二人によるダブルキックで、ロルはやや近くにある横断歩道横の電信柱にぶち当たった! 「ろ、ロル~⁉︎」 「「フン‼︎」」 「「あちゃー…」」 「…冗談じゃねぇ」 「…ロル?」 「俺だって幹太みたいに誰かと恋してみたいし、一緒に遊べる相手が欲しいに決まってるだろ⁉︎いつも幹太を優先させて生きてきたんだから、俺だってそんな一時があったって良いじゃねーか! 気に入った相手と仲良くなりたいって思っただけなのにこんなの……アンマリジャネェカヨォ~!」 「‼︎ロル、待て!」 「キャー!ガイダーの暴走よー⁉︎」 「に、にげろ~~!」 秋葉原の往来が混乱に満ちていく! 「ロル止めてくれ!俺がお前の事をほったらかしにしちまって、本当にすまない‼︎だから頼む…正気に戻るんだ!」 「あ…あたいたちがあいつを蹴ったから、暴走状態になっちゃった?」 「ど、どうしようミューラ~⁉︎」 「違う!あいつはずっと、更正して俺が生きていけるまで我慢してそばにいてくれてただけだ。 いつ暴走するかわからないほど我慢してくれてたお前の為に、俺は新たな人生を歩む姿を必死に見せてやりたかったんだ! だから、これからは大丈夫だって所を見せたくて会話らしい会話もできてなかっただけなんだよ……お前をそこまで追い込んだのは俺のせいだから、攻撃をすんなら俺一人にしろ! この秋葉原の人達にまで手を出さないでくれ‼︎」 「ウガアァ~‼︎」 ロルは突然俺たちの真上まで飛び上がり、成人の人間一人分くらいの重さはある量で作られた土玉を落として来た! 「端水君、上⁉︎」 ネレとエレを両手で抱えながら、真矢は叫んだ。 「くっ…犬吹すまん‼︎」 「…え?」 ドン‼︎ 幹太が真矢を俺達の所まで突き飛ばしてきたと同時に、あいつはロルの出した土をまともに食らって埋もれてしまった! 「いやぁ⁉︎端水君…端水君‼︎」 真矢は必死に叫んだが、土からはみ出た右手は動く様子はない。 「うそ、うそ⁉︎」 「ア、ア…」 「ロル~‼︎」 「おい待て、シアン!」 俺が制止するのも聞かず、シアンは上空にいるロルの元へかけていく。そして… パアァン‼︎ 全員「……」 「ア…あ、お前…は」 「私はシアン、雷属性のガイダーよ。あんた!自分の主を殺すような真似して呆けてなんかいないで、早くあの邪魔な土を取り除きなさいよ⁉︎今ならまだ間に合うかも知れないじゃない‼︎」 「お、俺は‼︎なんで…」 「反省する暇があんなら今は先に動く!ほら、早く急ぎなさい‼︎」 「あ、ああ‼︎」 二人が急いで降りてきて、幹太の上に被さった土を一生懸命払おうとしている真矢の元にたどり着いた! 「さぁ早く急いで!」 「お、おう!…フン‼︎」 かなりな量の土が徐々に取り除かれていくが、まだ引きずり出せるほどの量じゃない。 「見てられねぇ…シアン手を貸してくれ!電気で砂を集めるんだ!幹太ごと巻き込まないようにとるぞ‼︎」 「了解‼︎」 真矢の腕から離れて地面に軽く尻餅をついたネレとエレが目を覚ました。 「な、なになに⁉︎何が起こってるの?」 「ネレ兄ぃ、あの人土に覆われてるよ!」 「助けよう!いくよエレ‼︎」 「うん‼︎」 「お姉ちゃん、みんなが手伝ってくれてるよ!一旦離れて!」 「う、うん!」 「あわわわ…」 「…っ!」 リオーネとミューラがなにもできずに後ろで事が済むまで待っていると、ようやく幹太の体が引きずり出せるほどの量になってきた。 すかさず近づいてきた姉妹は引っ張り続けるも、なかなか動かない。 「二人ともお願い!端水君を助けるから手を貸して…早く‼︎」 「「…ええ!」」 みんなで力を合わせて無事に救出は成功。そして救急車もタイミングよく来てくれたので、幹太は救急車の担架に乗せられ救急患者として病院に運ばれて行った。 「端水君…」 「お姉ちゃん…」 「真矢、今は無事を願うしかねぇよ。」 「う、ぐ!ううぅ~…」 幹太のガイダー・ロルは、自分のしたことをずっと悔やみその場で泣き崩れていた。 「ロル、今は無事を祈ろ?私も一緒に祈るから。」 「シ、シアン……」 「ごめんなさい仁さん。今日はやっぱり帰るね…」 「ああ…それが良いな」 「なんじゃなんじゃ‼︎これは一体何があったんじゃ⁉︎」 「おじさん!」 「オヤジさん!実は幹太が…」 「端水がどうしたってんでい⁉︎」 俺は事の次第を、できるだけわかりやすく説明した。 「そうか、あいつがこの嬢さんを庇うために……あいつ立派に男のつとめを果たしやがったな!」 「あの、でも!」 「心配すんな嬢ちゃん達!ここで働いてる以上あいつもタフな方だからな?その程度の事で死にゃせんわい」 「そ、その程度って⁉︎かなりヤバそうに見えるんだが、オヤジさん!」 「バァロォ~!俺のつけめん屋で働いてる限りはちょっとやそっとのトラブルなんぞで潰れやしねぇんだよ‼︎」 「「え⁉︎」」 「あーでも……バイトに入ってくれてる奴はあいつ以外にいねぇんだよなぁ~。どこかのツテでも当たってみるか」 「あ、あの親父さん!私が彼の…端水君の代わりにバイトします‼︎」 「真矢!」 「お姉ちゃん⁉︎」 「仁さんに佳与、大丈夫だよ!だって私も就職活動を来年から本格的にしなきゃいけないから、部活も後輩たちに任せて引退する身だしちょうどお金稼ぎもしたいもん。」 「まあ、こちとら一人でも若ぇもんが入ってくれたらありがてぇがよ?あんたにワシの仕事が耐えられるってぇのか?」 「耐えます!なんだってやってみせます!」 真矢の意志が、どうやら親父さんに届いたらしい。 「はっはぁ‼︎こいつは大した上玉だぁ!まだ世の中にこんな強気な啖呵を切れる娘っ子がいたとはよぉ……よっしゃ良いぞい?早速明日から働いてもらおうか! 帰って落ち着いてからうちに電話をしてくれ!どの時間なら働けるかを確認したい。」 「はい!明日からよろしくお願いします!」 「こりゃすごいもんを見ちまった気がするなシアン……シアン?」 「あ、ごめんなさい仁。ちょっと昔のことを…ね?」 「…思い出しちまったのか」 俺はシアンをゆっくり掬って近づけた。 「うん。なかなかすぐには吹っ切れないものね…」 「まあそんなもんだろ?誰だってしこりは残るもんだし、今俺達に大事なのはゆっくり休むことだけだろうからな。」 「ありがと…」 「ごめんなさい仁さんにシアンちゃん。今日はこの辺で帰りますので、またね?」 「仁兄ちゃんおやすみ~!」 「ああ、二人とも気を付けて帰れよ~!」 「ま、待ってくれ!俺はどうしたら…」 「今はあいつが運ばれた病院に行ってそばにいてやれば良いさ。その方があいつも安心するだろ?」 「分かった……シアン。」 「えっ?な、何よ。」 「ありがとな、目を覚まさせてくれて」 「…良いから早く行ってやんなさいよ」 「ああ‼︎」 ロルは、急いで救急車の向かった方角へと飛んでいった。 「俺たちも帰るか。オヤジさんまたな?」 「おうよ、いつでも待ってるぜ!」 こうして、俺たちはそれぞれの思いを胸に帰路についていった。 己の身を犠牲にして守ってくれた、端水幹太の為に働く決意をした真矢と今日はいったん別れ、かつて自分の主を殺してしまった負い目からなかなか立ち上がれてないシアンを抱えて帰宅する俺。 ただこの日から、幹太に対する真矢の感情に少し変化がおき始めていた。
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