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真矢と幹太
真矢達と別れて帰宅した俺たちは、何かをたくさん話すこともなく再び一緒にお風呂へ入り、そして寝床へ共に潜って眠りにつこうとしていた。
「ねぇ仁…」
「なんだ、眠れねぇのか?」
「うん。ロルの姿を見て私思わず体が勝手に動いて思いっきりあいつの事をひっぱたいちゃったけど、悪くないよね?」
俺の顔を見ようと、シアンは俺が頭をおいている枕の端っこから俺の方に寝返りをうってきた。
「ああ、お前はあの場で正しい選択をしたと思うぞ?そうでなかったら、ロルは元気に病院にすっ飛んでいったりしなかったさ。」
「うん…良かった」
シアンが泣き顔のまま笑顔を向けてきたから、俺も思わずシアンの方へ寝返りをうち、片手でシアンを優しく包み込んだ。
「仁…」
「心配すんな。ロルも今ごろ幹太の無事を知って安心してる頃かも知れねぇぞ?それに真矢も、あいつを今まで嫌ってはいたがこの様子だとあいつの事を意識していくと思う。
歳が近いもの同士なら、会話もきっとしやすいんじゃないか?」
「ふふ!それもそうね。もしかしたら明日にはあなたが声をかけても眼中に無くなってたりして。」
「そ、それはそれでちょっとへこむぞ…」
「あははは!」
「…そろそろ寝ようかシアン。おやすみ」
「うん…仁、おやすみない。」
今夜は二人仲良く、向き合ったまま眠りについた。
そして翌朝、まだ目覚ましがなる前の時間に誰かがチャイムを激しく鳴らしてくる。
「なんだよ、まだ夜明け前じゃねぇか。誰だよ一体…」
「うみゅ?じん~?」
寝ぼけた姿のシアンを見て一瞬顔が緩むが、あまりにも必死にドアを叩く音まで聞こえてきたので、眠い目をこすり扉を開けてみるとそこには血相を変えた顔つきのおっさんが勢いよく入ってきた!
「禅内!真矢を見てねぇか⁉︎」
「うおっ⁉︎なんだよおっさん!一体何があったんだ?」
「いや…今徹とオールして帰ってきた所なんだが、佳与は寝ていたが真矢の姿が見えねぇんだよ‼︎昨日何かあったとか、心当りねぇか⁉︎」
「昨日……あ!あれかも知れねぇ」
「や、やっぱ知ってるんだな‼︎頼む、教えてくれ!」
「わ、分かったから!朝っぱらから外で騒がないでくれよ住民達がみんな見てんだぞ?」
「あ……す、すまん」
「おっさん、話の続きは部屋にはいってからにしようぜ。」
「そうだな…」
「はれ?仁おはよー……なんで店長さんがいるの〜?」
「おおシアンも起きたか…って、また服がはだけそうになってんぞ。」
「…わわ⁉︎」
「お前達は相変わらず朝からお熱いな?」
力なく笑うおっさんに、俺達は即座に否定する。
「これは誤解だ…」
「私はいくらなんでもそんな真似まではしないわよ!それよりもどうしたんですか?」
「ああそうだった!真矢は昨日何があったんだ?佳与の方はちゃんと自宅で寝てたから安心だが、流石に小さい子をこの時間に起こしづらいからな……それで、いったいなにがあったんだよ?」
「実はなおっさん…」
俺は昨夜帰る前にみんなでラーメン屋『つけめん屋や○べえ』で一緒に食べてる時、そこで以前真矢を襲おうとしていた男の端水幹太と再会した事……
並びに、今は改心してそのラーメン屋で働いてて、真矢に謝り和解した後で一緒に帰る途中だった事。
そいつのガイダーが暴走するなか、その攻撃に巻き込まぬよう真矢を俺達の方へと突き飛ばして庇い、重症になってしまった事。
そして、真矢が入院しているあいつの代わりに部活を引退して、そこでバイトすると決めた事を詳しく話した。
「そうだったか……ならこの時間にいなくなるのも納得だな。」
「…そうですね、あそこなら納得です。」
「えっ?どういう事だおっさん」
「ティーア達はなにか知ってるの?」
「知ってるもなにも、あそこの頑固オヤジは俺がいた自衛隊の元教官なんだよ。おまけにあまりにも人を使い潰すくらいこき使うもんで、何人も退職者を出す店だったからなぁ…」
「ご主人様も自衛隊を辞めた後、そこに入った時なんか散々でしたものね。」
「「ええ~⁉︎」」
「まあそんなわけであの子は結構ハードな所で働いてる。真矢め、言ってくれりゃ俺からも知り合いにでも頼めたんだがな…」
「たぶん彼女なりのけじめをつけたかったんだと思う。きっと、嫌ってた相手に命を助けられたから自分なりに何かをしたいと思ったかも……」
「その野郎が真矢を襲ってた事に関しては正直許しきれねぇが、助けたのも事実だって言うんだろ?
どちらにしても、いっぺんどんな面構えのやつか見ておきたいもんだな。」
「あー、おっさん……間違っても立ち直れなくなるほど痛め付けるのは無しだからな?」
「バカ野郎、そこまでやんねぇよ!ただ見極めておきたいだけだ。あいつが心を許せる相手かどうかをな…」
・所変わって同じ頃、秋葉原近くのとある病院に運ばれ治療が済んだ端水幹太は、ひとまず一命をとりとめ静かに眠っていた。
その横顔を一人、心配そうに眺めて見守っているロルの姿があった。
「幹太、こんな事になってしまって本当にごめんな?俺もお前が頑張るようになってたのはずっと気づいてたんだ。
でも、我慢してた気持ちをどんな風に解消すれば良かったのか分からなくてずっと沈んでいた…
だから今お前が目を覚ましてくれたなら俺もお前に謝りたいし、お礼も言いたい!
そして…これからもそばにいてぇんだよ!」
ロルがそう訴えた時、幹太の体とロルの体がうすく光り始める。まるで、仁とシアンがそうだったように…
「えっ?な、なんだよこれ…なんで俺と幹太の体が光ってんだ?」
ロルが考えてる間に光はなくなり、元の状態へと戻っていく。
ここに、3人目の新たな覚醒に近づくものが誕生しようとしていた。
・もう一方の方では、早朝からここ…『つけめん屋や○べえ』にて、朝の5時からラーメンの作り方や具材の切り方。
更に、接客の作法と店内の掃除場所などを詳しく教わっている、真矢の姿があった。
彼女の側には、眠そうな顔をしながらも仕事の様子を見守っているミューラがいた。
「良いか真矢!俺は女だろうと仕事を教えることに関しちゃ手は抜かねぇ性分だ。
今日この一日の間に大抵の事は教えといてやる!だから気合いいれて覚えてけ‼︎」
「はい!親父さん‼︎」
「おし…良い返事だ!なるほど、あの犬吹の小僧が育てただけあって大した度胸じゃねぇか。」
「え?お父さんの事知ってるんですか!」
「あたぼうよ!なんせあいつが今のお前さんと同じような歳から知ってんだからな!
当時のあいつは跳ねっ返りな癖に頑固なバカ隊員だったが、仲間思いないい奴ではあったな?」
「す、すごいお父さん‼︎」
「おうさ!一応一度家に帰ったらちゃんとありのままを話しとけ?そうすりゃ奴も納得はしてくれるだろ。」
「う、うん。」
「それはそうと、ずいぶんべっぴんなガイダーを真矢は連れてるじゃねぇかぁ!
見るだけでも男をいっぱい食えるくらいの勢いを感じられるぜ。確かミューラつったな?」
「ええそうよ。あたい、これでも結構男にはうるさいわよ?親父さん」
「わっはっは、愉快愉快‼︎こりゃまた楽しいバイトが増えたもんだぜ!端水の驚く顔が目に浮かぶな。」
「端水君…大丈夫ですよね?」
「大丈夫だ真矢。あいつならそのうち何事もなく戻って来るさ!さあ、もう少し教えたら一旦帰れ。
今夜からとことん使ってやるから、覚悟しとけよ?」
「は、はい‼︎」
「ふぅ、やれやれ…真矢も思いたったら一直線のタイプか。頑張ってね?真矢」
真矢とミューラは登校時間になる前に帰宅し、ちょうど仁のいるアパートから帰ってきた父親と鉢合わせた。
二人でぎこちなく朝の挨拶を済ませて店内へと戻り、既に起きて店出しの準備をしていた佳与達を交え、今朝まで考えていた事を打ち明けてバイトを頑張る決心を強く伝えたのだった。
「…さてと、俺たちもバイトに行くかシアン。」
「オッケー仁!」
出発の準備を整えて、俺たちは今日もバイトに出かける。移動しながらシアンは、昨日の話をさりげなく持ち出した。
「結局どうしたら良いのかな?私たちも生活を守る面においては、できる範囲でガイダーの暴走は止めて行きたいかなぁと私も思ってるんだけどね…」
「それは俺もおんなじだシアン。かといって、今のバイトを急に辞めたって向こうで俺が自由に動ける保証はないだろうし、できればここを離れたくねぇな」
「そうねー…」
まだどんな答えを出せば良いか、俺たちは決めかねていた。
「とりあえず、今少し心配なのは真矢と幹太だな。あの二人がどんな関係になるにしても、険悪になって欲しくはねぇし正直フォロー仕切れねぇ…」
「確かにね。今は目の前の事を落ち着いて見ていきましょ?」
「そうだなシアン。」
二人が犬吹電器店にたどり着くと、なぜか行列がたくさんできていた。
「「…えっ⁉︎」」
「な、何が起きてんだこれ?とにかく急ぐぞシアン‼︎」
「う、うん‼︎」
「おはようございます店長!」
「おはようございます!」
急ぎ足で店内に顔を出すと、佳与達がすごい泣き顔の状態で俺たちを出迎えてくる。
「うわぁ~~‼︎仁兄ちゃんよがっだぁ~⁉︎」
「遅いよ二人ともぉー‼︎」
「うおお‼︎二人ともよく来てくれた!早速だがおかしいくらい忙しいんで今すぐ速攻で入ってくれ⁉︎」
「お、お願いします!助けて下さい~‼︎」
「な、何が起きてんのか分かりませんが了解っす‼︎行くぞシアン!」
「ウン‼︎」
時間に余裕を持たせて早く着いたつもりだったが、なんなんだよこの行列‼︎
心のなかで毒づきながらも、この客の行列を解消するためにこれまで経験したことがないほどに、俺達は全員死ぬ気で働き続ける。
そして夕方になり客の波がやっと収まった頃、俺たち全員の心は燃え尽きかけていた。
「な、なんだったんだよあの数…」
「「「「………」」」」
返事がない。気絶しているようだ…
「お、俺も長年この店を構えていたがこんなの初めてだ。お前らが来てくれて本当に助かったぜ…
だがいつの間にあんな素早く動けるようになってたんだ?」
「俺は今雷属性もついてるんですよ?だから、地面の地場をうまく調整して動くコツをやっと身に付けたおかげで、今回みたいに速く動くことができたんです。
でも……はぁ~、ギリギリだった‼︎」
「…ごめんくださーい?」
「嘘だろ!閉店間際なのにまた客の第2波が…」
おっさんですら弱音を吐いてしまうほどに疲れ果てている。多忙なら誰だってこうなるに決まってるだろ…
「お、俺が動きます。店長達はもう少し休んでて…」
「す、すまん禅内…」
「…はい、いらっしゃいませ~」
「きゃあ⁉︎どうしたの禅内クン、すごい顔じゃない‼︎」
「え、富士野~~!」
「えっ?あかり(ちゃん)‼︎」
後ろの居間から、ドタバタと慌てて来る感じで女の子達が復活した!
「み、みんな元気…じゃなさそうね。どうしたのよ?」
「なんかすっごく疲れ果てたような顔をしてるね」
あかりとフロットは戸惑いながら、俺たちを見てきた。
「実際死にかけてたんだよ。異常な数の来客対応でな…」
「私たちもう無理~!」
「なんか、そんな大変なときに来ちゃってごめんね?ちょっと任務の帰りがけに立ち寄っただけだからあまり気にしないで休んでてよ。」
「あれっ?お前どうして…」
「「「無職だった気が…」」」
シアンと佳与、リオーネの言葉がかぶった。
「う、うん。そうだったんだけどね?……禅内クン、フロットの件で女性部隊の隊長がいたのは覚えてる?」
「ん?ああ、あの人の事か…それがどうかしたのか?」
「実は私、再雇用してもらいました~!」
「「「おめでとう~~!」」」
「そいつは良かったじゃねぇか‼︎」
「うん。これもみんなのおかげかな?だから本当にありがとう!フロットを元に戻すために力を貸してくれて。
でも真矢は?もう学校終わってそうな時間だと思うけど」
「ああ、その事なんだがな…ここじゃなんだし、一旦中で話さねぇか?」
「うん、良いけど…」
俺たちは富士野あかりとフロットを犬吹家にあげて、寝転んで動けないおっさんとティーアを、それぞれ起こしてから楽な所で座らせた。
「うわぁ…かなりの疲労ね。」
「そりゃそうだぜ嬢ちゃん…この店ができてからここまで人が来たこと無かったんでな」
「は、はい…時々多く感じる日はあったのですが、今回は別格です……」
「まあ今日はなんとか乗り越えたが、明日もこうならちと自信がねえな。そういや、真矢の事なんだが…」
俺は二人に昨日の出来事を詳しく話した。
「そう…そんなことが起きてたのね?ごめんなさい、私たちの方でも個別で当たってはみてるんだけど、暴走事件の頻度があまりにも多くて。
私も昨日は部隊に復帰した直後に対応に追われていたわ。」
「そ、そうか……なんか一番大変な時に戻ってしまったようだな。」
「まあね。でもなんだかんだ言っても私はこの仕事が好きみたいだし、大抵の事は覚悟してた。
それよりも真矢よ‼︎助けた男の為に頑張る!きっとかなりの良い女になるわよあの娘……フンスフンス!」
「富士野、なんかすげぇテンションたけぇな?」
「「当然よ!」」
なぜかまたシアンと富士野がかぶった!どんだけ似たもん同士だよ。
「そ、そうか……じゃあせっかくだからよ?真矢が今日から働いているその店に俺はまた行ってみようかなと思うんだが、富士野達もみんなと一緒に来ないか?」
「行く!真矢の姿を見てみたいわ!」
「みんなも、少し休んだら行ってみないか?」
「そうだな…あの親父さんには、挨拶も兼ねて行ってみるか!」
「「「やった~~!」」」
「決まりね!そう言えばあの双子達は?」
「あっ!多分まだ寝てるのかも。私起こしてくるね?おじちゃん!」
「おう、頼むわ。」
「じゃあ、俺たちも一度帰っておくかシアン。一度洗濯物を取り込んでおきたいからな…」
「うーんそうね、悪いけど仁は先に帰って後からみんなと合流しといてくれないかな?
私はちょっと寄ってきたい所があるの。」
「あ…まさか幹太達の所か?」
「一発で当てるなぁー!本当、こんなところにだけは鋭いわね?仁は!」
「えっ?ハハハ!それほどでもねぇよ」
「むぅ……じゃあそう言うわけでちょっと様子を見てくる!何か分かったらすぐに戻るから。」
「分かった!気を付けていけよ?」
「はーい…分かってるわよ‼︎」
「やれやれ……んお!どうしたんだ富士野、そんなジト目で‼︎」
「…べっつにぃ~!」
「?」
「禅内…青春ってのはな、時期が過ぎると二度と来なくなるもんだ。だから一度くらいはガイダーだけじゃなく、生身の人間へも意識してみた方が良いぞ?」
「お、おっさん⁉︎」
「「禅内(仁)様、もっと女の子を見ましょ?」」
「あああ…あなたたち‼︎わわ、私と禅内クンはそんな仲なわけないじゃない!
禅内クンも別に、意識なんかしなくて良いんだからね?良い⁉︎」
「わ、分かった分かったって。顔近いから少し離れろよ…」
「…⁉︎」
「さ…さあてじゃあみんなまた後で!や○べえの前に集合な‼︎」
俺はなぜか、富士野あかりに見つめられていつのまにか照れ隠しをしていた。
シアンに向けている感情と同じものがあるからなのか、それとも……
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