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心機一転
シアンの存在のおかげでようやく前を向く決心がついた俺は、今のうちにステータスの事で分からないことを聞く事にした。
「へぇ…さっきとは見違えるくらい熱心に聞く姿勢を見せるようになったのね?本当にびっくり!」
「ひねくれもので悪かったな。それで、ステータスのことなんだが…」
「あ、うん。大抵はあなたがゲームで知ってるのと同じでレベルアップとスキルの二つが向上すると同時に、身体能力も特技も増えていくわ……まずはレベルアップの方法ね。」
「おう。」
「これについてはりある(現実)だけに仕事をしたり誰かを手助けしたり、やったことのないものにチャレンジして成功する度に上がっていくの。次はスキルね!」
「ああ、なんかいっぱい嫌な言葉しか目立たなかったやつだな…」
「そうそれ!スキルは自身が過去からしてきたことの集大成といっても過言じゃない。その代わり、行動次第ではそれがよい言葉に変換されるの。」
「ということは、悪い表示になっているものも行動を改めさえすればまともなスキルになっていくのか?」
「そ!称号もスキルと連動してるから修復も可能よ。だから、あんたにとってはこれが再スタートってことよ?仁。」
「…!」
やべ!不意にシアンの笑い顔を見てドキッとした。
「?どうしたのよ。」
「い、いやなんでもねぇ!それよりもふときになったんだが……お前の姿は俺にしか見えないのか?」
「いいえ。どの人間にも必ずサポートとして私みたいな監視者・ガイダーがついてるわ。中には犯罪に走るやつもいるけれど、そんな時はあなたがマスターから受けた雷で人間共々死亡しちゃうんだけどね!」
「げっ!ゲームよりもこえぇ‼︎」
「そりゃもうここは、あなたが望んだゲームみたいな世界に作り替えられた別の現実なんですもの。
私達のような[情報生命体]であるガイダーが存在するこの世界に、別の世界線から来たあなたが混じった結果なんだからね?」
お、俺…かなりマズイ事をしたのかも。
「あはは!心配しなくてもマスターは問答無用で殺すまねなんてしないわよ。あの方は全ての者の心を読める方で、返答次第では殺されるってだけの話!」
「そ、そうか……俺も殺されないように生きねば」
「まあ、しっかり頑張りなさい?私は普段はあんたの中に入ってるから何かあったら呼びなさいよ。んじゃ、おやすみー!」
「えっ!おいちょっ⁉︎……本当に入っちまった。」
気づけば夜の23時。俺も色々ありすぎて疲れたから今日はもう寝よう。
明日もバイト行くんなら、店長のおっさんに一度ちゃんと謝っとくか。
翌朝
「ふわぁ…朝か。」
俺は、昨日までのダラダラした起きかたをせず布団で伸びをした後は洗面所で顔を洗い、髪の寝癖を多少整えてからキッチンで昨日食べてなかったカップ麺を準備してたべる。
「なんつーか、昨日とは別ものになった気分だ…こんな早い時間に起きて朝飯食ってるもんな。これもシアンが来た影響ってやつか?」
「なーにー?私のおかげって聞こえて来たんだけどぉ~?」
「お、起きてたのかよ…って気のせいだほっとけ‼︎」
「えへへへ!」
全く、油断できねぇ。
「…ったく!とりあえず食ったらすぐにバイトに行くからな。」
「ふぅん、やる気十分じゃない!私もしっかり監視しといてあげるわ。」
「はっ!上等だ。」
早速着替えてバイトの支度を済ませた俺は、バイト先である電化製品店に向かう。
今まではダラダラと下を見ながら文句言って歩いてたけど、今日初めて前を向いて歩いてて気づかされた事があった。
「朝ってなんか、気持ちいいな…」
らしくないことを口に出した俺を、シアンが笑いながら話しかけてくる。
「あははは!今更そんな当たり前なことを言う?」
「しょうがねぇだろ?これまでそんな気分になれなかったんだからよ。」
「はいはい、そうですねー。」
むむむ…
「ほらほら、もうすぐ着くわよ?」
「…分かってるよ。」
着いたら店長のおっさんがちょうど、シャッターを上げて商品を外に運ぶ所だった。
「お、おっさん!その…おはよう、ございます」
「お、お前…本当に禅内か?」
「そうだよ!他の何に見えるってんだ。」
「おお、その憎まれ口は間違いなくお前で間違いねえみたいだが一晩で何があった?それに隣のガイダーも見慣れない子だが……」
「ま、まあ色々とな。こいつのお陰ってのも確かだけどよ…」
「あれーどうしたの仁。顔が真っ赤よ~?」
「う、うるせぇなシアン!」
「…がっはっはっは!なんだ、昨日とはうってかわって別人じゃねぇか。」
「わ、悪いかよ‼︎」
「いんや逆だ!今のお前の方が昨日の何倍もマシだってんだよ。」
「そ、そうか…」
「おら、いつまでもボーっと立ってねーで早く支度してこい。せっかく早く来てくれたんならせめてちゃんと働いてくれや。」
「わ、分かってる…」
「分かってるじゃねぇ。分かりましただ!」
「わ!分かりました」
「おし。じゃあ早く行きな!」
「…はい!」
なんか俺、嘘みたいにまっすぐ返事しちまった。
「…なあ、ガイダーの嬢ちゃん。あいつに何か特別な事でもしたのか?」
「わ、私は大して特別な事をした覚えは無いわよ?ただ、あいつが心に抱えてた不満を吐き出すきっかけになっただけ。」
「そうか……意外とあいつは今後、いっぱい変わっていけるのかもな?[ティーア]」
「そうですねご主人様。それと…初めましてガイダーの同業者さん。私はティーアと申します……あなたのお名前は?」
店主・犬吹豪太(いぬぶきごうた)の中から、ティーアと呼ばれた女の子が現れた。
黒髪の三つ編みヘアで、右の目元に泣きホクロがついてる大人しそうな容姿をしている。
「あっ、うん初めまして!私はシアン。マスターである管理者・ゼノン様からの命令であいつのガイダーになったの。」
「ゼ、ゼノン様⁉︎何故そんな…」
「うーん、結構訳ありな話だから今はちょっと言えないかな。また機会があったら話しましょ!」
「は、はい是非‼︎」
「なんか知らねーがややこしい話みたいだな。あいつもしってんのか?」
「もちろん!出会った最初に説明したんだから……あ、戻ってきた。とりあえずこの話はまた今度ね?」
「おお。」
「はい!」
「準備できましたー…って、どうしたんだおっさん?そんな不思議そうな顔をして。」
「そんな顔になっていたか?……まあ当然だろ。一晩でめっきり変わった姿をこうして見てんだからよ。」
「べ、別にいーだろ……それで、この商品はどの辺に置いときます?」
「おう、そいつはな…」
こうして、俺の新たな人生が幕を開けた。
口うるさいが面倒見の良いおっさんにそのガイダーのティーア、そして……これから長い付き合いになるかも知れないシアン。
今後たくさんの出会いが増えて、俺の望む人生が目の前で待っている。
そう信じてみる事にした…
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