まず落ち着こう

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まず落ち着こう

一時間くらい変な口論が続いていたが、なんとか落ち着いて話ができるようになった。 なので全員で一度、迷惑そうに見ていた隣人達に謝ってから、いったん狭い我が家で話す事に… 「あー…悪いな禅内。ちと気が動転しちまってたぜ」 「ご、ごめんなさい」 「まあ、落ち着いて話を聞いてくれるようになって俺もひと安心したがな。」 「……うぅ」 シアンも恥ずかしさと気まずさのせいか、珍しく縮こまっている。 「とにかく、あらためて俺の方から娘の紹介をさせてもらうぞ。この子は真矢(まや)だ」 「ま、真矢です!高校3年生です‼︎」 JKかよ⁉︎こりゃ手を出したらまずそうだな。 「ちょっと仁~?いくらこの子が可愛いからって、間違ってもあの男みたいに襲おうとしちゃダメよ。」 「だ、誰かれ襲う真似なんかするかっての!…てか何でまだお前は怒ってんだよ?」 「べ、別に怒ってないし普通だし⁉︎」 またこの下りかよ〜。 「あー、お前らが仲良くて痴話喧嘩するのは分かったからうちの子にも一応自己紹介頼むわ。」 「「そんなんじゃないし!」」 合わせんなよシアン… 「…俺は禅内仁だ。一応年は25歳で絶賛バイトもんだよ」 「私はシアン。このバカを監視するために管理者ゼノン様から派遣された雷属性のガイダーよ!」 「バカで悪かったな。」 「…プッ!」 「いや吹くなよ」 「あぅ…私シアンさんという素敵な女性がお兄さんのそばにいるのに、どうしたら良いの?」 「えっ!いやいや違うの‼︎私はこいつを見張るための存在なんだから、別に恋愛対象とか仲良しとか夫婦みたいとか……とにかくそんなんじゃ無いからね⁉︎」 「シアン、何をそこまで必死になって慌ててんだ?」 「うっさいバカ仁!」 ポコッ! 「いってぇ!なんで殴り付けてくんだよ!」 「うるさいうるさいうるさい‼︎」 ポコポコポコポコ! 「…えっと、よろしいですか皆様。」 不毛な会話に待ったをかけてくれたのは、おっさんもとい[犬吹豪太店長]から出てきたガイダーのティーアだった。 グッドタイミング! 「皆様の自己紹介が済んだことですし、私からも一昨日シアンから聞きたいことがあるんですが…」 「ハァハァ……な、何?」 「管理者ゼノン様が何故、この仁さんを監視するように命令される必要があるのですか?」 「ああ、それはね…」 シアンは管理者・ゼノンに、俺がこの世界がゲームみたいな世界になれたらなという願望を叶えるために、ステータスを見ることができる世界として作り替えられた事。 そして、お世辞にも良い人生を送ろうとしなかった俺が、この世界で全うな生き方ができるかどうかを見守るよう命じられた事などを分かりやすく話した。 「なんか信じられねぇ話ではあるが……ようは俺達の過去の常識が、こいつの願望で書き換えられたってことでいいんだな?」 「そう言う事。だから私たちガイダーの存在が、人間に知られるようになったのかもね。」 「なんかすまねぇ…情けないほどに迷惑しかかけれてないな。俺」 「迷惑つってもなぁ、今の俺らにとっちゃこれが常識なんだからなんも思うとこはねぇよ。まぁ、お前のひねくれた神経が直るってんなら嬉しい限りだがな!」 「アハハ!そこは私も同感かも!」 「ご主人様、シアン。少々はしたないですよ?」 「「…ハイ」」 「え、えっと‼︎私にはよくわかんないですけど、お兄さんのおかげで私もガイダーである彼・ルーダと会えた事になるんですよね? だったら迷惑なんて思っていませんよ!」 「…僕も真矢とおんなじかなぁ。こんなにすみやすい体に入る事ができたんだから感謝しか無いよ。」 ルーダと呼ばれた男ガイダーも、姿を現してきた。 見た感じは真矢と同年代に見える。 ジャ〇ーズJrとかに出てきそうなルックスで、金髪のセミロングヘアだ。 服装も、爽やかな印象を出す水色無地の上着に白いズボンって感じの格好で、正直かなりのイケメンだがぜだ?この沸き上がる殺意は…… 「げっ!ルーダ、あんたがこの子のガイダーな訳⁉︎やだー…」 「やたら不機嫌な顔してるなシアン。こいつと知り合いだったのか?」 「ええ…そんな親しい方じゃないけどね!こいつはただの女たらしだし」 不機嫌さを全く隠そうともせず、シアンは辛辣な言葉をルーダがいる前でぶつけてきた。 「相変わらずひどい言い方するなぁキミは。そんなだから、どの男ガイダーとも打ち解けられなかったんじゃないのかい?」 「うるっさいわね余計なお世話よ‼︎気分悪いから仁、私は中に戻るからね!」 「えっ!おい、シアン⁉︎」 入っちまったか。 「ルーダさん、あなたのお噂は私達女性ガイダーの間でも実際有名でしたよ? 複数の女を骨抜きにしたせいで堕落の道に入った方もおられるとか…あまり、女の気をひく言葉を無闇に使うべきではないと思いますが。」 「えっ⁉︎ルーダあなたそんなことをしてたの⁉︎」 真矢は思わず、その話題に食いついた。 はたから見る限り、それほど深くない付き合いなのかもしれない。 「へぇ~俺も聞きてぇなぁその話を色々と……なあ、禅内」 「お、おう?そうだなおっさん」 とっさに同意しちまったが、このキザ男安全なのか? 「あはは参ったな。男にまで食い下がってこられるなんて!」 「「…あ”?」」 (……シアン、返事はしなくても良いからそのまま俺の中でこの会話を聞いといてくれ。 もしこれがお前らの中で起きた不祥事の問題なら、下手すりゃお前のマスターってのに報告したほうが良いかもしれねぇぞ。) (…) 「ち、ちょっとルーダ‼︎」 真矢は必死に説得しようと言葉を選ぼうとしているが、そんなことには気にも留めていないようだ。 「大丈夫だよ真矢、君は僕のお気に入りなんだ。そんな君を悲しませる真似なんか[僕は]しないからね? さあ真矢、僕の目をみてごらん?」 コイツ!なに真矢のあご辺りに手を添えて見つめてやがんだよ⁉︎よりによって父親であるおっさんの前で。 「…ふぁーい」 次第に真矢の目からは正気を失ったかのように、うつろな目になっていく。 「これって魅了[チャーム]‼︎……ルーダ、あなた⁉︎」 「おい真矢どうした…お父さんが分からないのか?」 真矢の両肩を掴んで揺さぶっているおっさんの問いかけにもこたえられなくなり、真矢はふらふらと操り人形のように立ち上がった瞬間、父親の首元に両手を添えた。 「⁉︎」 「はっ!…おっさんすまん‼︎」 言うや否や、俺は問答無用で真矢を転ばせる程度の力で突き飛ばす。 「禅内‼︎」 「小言はあとにしてくれおっさん‼︎それよりも…ルーダてめぇ‼︎」 「嫌だなぁ。僕は気に入った女の子と二人だけの時間をこれ以上邪魔されたくないから、手っ取り早く男たちから真矢を離すに最適な行動をしただけだよ?」 「あなた⁉︎自分が何をしているのか分かっているのですか!」 ティーアも怒りをあらわにしている。 「何を言ってるんだい……僕は自分の正しいと思う事を優先して、相手に伝えてあげているだけじゃないか。 周りの考えなんて正直邪魔以外のなにものでも無いんだよ。」 コイツも、もしかしたら以前の俺と同じ…なのか? 「てめぇルーダ!娘を返せ‼︎」 おっさんもひどく怒り始めている! 「なぁルーダ、今のお前は昔の俺とそっくりだ。誰の言葉も聞く価値もねぇ……自分こそが正しいと独りよがりしていた頃の俺となんか似ている。 」 本当はそんな気はしていないが、物事がいい方向に働いてくれる事を願って俺は少しふっかけてみる。 「ふ、ふざけんな!僕が君みたいなぼんくらと一緒だと?取り消せよその言葉‼︎」 「「⁉︎」」 「まったく…それがてめぇの本性か。こうも怒鳴り散らす奴は、性格が分かりやすくて助かるぜ。」 「き!きさまぁ~‼︎」 ルーダの両手から冷たい冷気が迸る! 「!…シアン出てこい‼︎」 「うん!」 「そこの親子を頼む‼︎」 「分かったわ!…って、あんたも早く来なさいよ‼︎」 「そ、そうしたいんだがよ?既に足が凍り始めて動けねえんだ。だから…二人…だけ……でも」 俺は力なく笑いながら、なすすべもなく凍らされてしまった。 「仁ーー‼︎」 「禅内‼︎」 「禅内様⁉︎」 凍った俺をみたルーダは、高々と笑い声をあげ俺の部屋の窓ガラスを割って外に出ていき、何処かへと飛び去って行った。
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