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女ガイダー救済
ルーダによる氷属性の攻撃をまともに受けて、俺は動けないままでいたが、幸い(?)窓の外から吹いてくるのは夏風…
熱風のおかげか他に働いているものがあるのか、もしくは俺のステータスにあった[状態異常耐性+]というスキルのおかげなのかは知らないが、短時間で俺の顔だけは氷が溶けて一応会話ができるようになった。
「さささ…さびぃ~!」
「…仁、あなた本当に人間なの?そんな状態では大抵の人間は会話も難しいと思うんだけど。」
シアンが不思議なものを見るような目で見てくるし、おっさんは気を失ったままの真矢を無言で抱いているし。
「よ…よくわかんねぇよぉ!俺のステータスって本当にどうなってんだ……へっぷし‼︎」
「ちょっ!汚いわよ!」
「わりぃ~…」
「…しょうがないわね、私が代わりに開いてあげるわよ。ただ、この場にいる全員にステータスがみられる事にもなるけど本当に良い?」
「か、構わねぇぞぞ!」
この際なんでも良いから、早くこの状態を打開したい!
「分かったわ。じゃあ…はいどうぞ!……って、なによこれ⁉︎」
「?」
シアンがすごい戸惑ってるみたいだが、いったい何がうつっている?
ステータス表示
禅内 仁(25歳) レベル15
体力(HP)450(↑) スタミナ300(↑)
攻撃力250(↑) 精神力(MP)150(↑)
防御(忍耐)力300(↑) 器用さ300(↑)
賢さ(↑)1500 魅力200(↑)
*現在解凍中
:スキル
責任感
誠実
状態異常耐性+
氷属性攻撃・氷耐性New
ステータス閲覧
商売話術
ゲームプレイスキル
不屈の意志
愚痴
格闘センス
説得術
誘導話術New
:称号
鉄のメンタル 強い責任感
熱心な若者 立派人間
商人の卵 舎弟持ち
初級格闘者 対話術師
閲覧者 異常耐性所持者
氷属性能力取得者New
「「「………」」」
無言のまま俯いていたおっさんも正気になったのか、目の前に現れた俺のステータスにというより俺が受けた攻撃を身に付けている事に、驚きを露にしていた。
「…お兄さん?お父さんも、みんなどうしたの?これはもしかしてお兄さんのステータス?」
「真矢気がついたんだな‼︎良かった!」
「ううー!お父さん苦しいよぉ~」
「す、すまんすまん!お前が元に戻ってくれたのが嬉しくてな…」
「う、うん……でもなんでお兄さんが氷漬けに⁉︎」
「まあ、正直言いたくはないんだけどよ。実は…」
「待って仁。あなたはそのままじっとして氷が溶けるまで待ってて?事情は私とティーアが説明しとく。」
「ああ……できたら早く溶かして欲しいんだが。」
「まあ方法は無い訳じゃねぇが、この床が水浸しになって下の階に迷惑をかけちまう方法しかねぇがどうすんだ?」
「マジか…じゃあ悪いんだけどよおっさん。下の人に事情を話して俺の様子を見てもらった上で、了解をとりたいんだがダメか?」
「お?なかなか良い判断するようになったじゃねぇか!よし、ちと頼まれてやるとするか。待ってろ!」
おっさんはさっさと立ち上がり、下へ降りていった。
「仁も本当に立派になったわね。私も役目とはいえ、来た甲斐があったわ!
じゃあ、こっちも説明しとくから真矢もしっかり私達の言うことを聞いといてね?」
「う、うん」
あっちは三人で会話が始まったようだな。俺もどうにかして早く氷を溶かしてぇ…寒くてきついし!
「…おーい禅内、連れてきたぞー」
あ、ありがてぇ。じゃあ、早速話を…ってなんだこのちびっこ⁉︎
「いやぁ、事情は詳しく聞いてねぇが半年前から一人で暮らしているらしくてよ。ほら!この氷漬けになってるにいちゃんがさっき話してた奴だ。」
「ふぅん、あなたがねぇ…なんかすごくダサい格好だね!」
「…初対面の俺にひどい言い方するよなこのガキ!」
「ガキ呼ばわりしないでよ!私はこれでも立派なレディよだよ?」
顔を膨らませながら腕を組んでいるその子は、見た目がさっと小学生くらいの女の子で髪が三つ編み。
少ししわや汚れが目立ち気味の、白いワンピース姿をしていた。
「そうかい、そいつは悪かったな……じゃあ、こんなかっこうですまねえけど一応自己紹介だ。
俺は禅内仁(ぜんないじん)って言うんだが、お前の名前は?」
「あたし?ふふん!あたしはね、御柱佳与(みはしらかよ)って言うの。良い名前でしょ?」
(ずいぶんと偉そうに言う子供だな。ってか、名前を誇ったって…)
ん?シアンが名前は褒めてあげて、だと?訳わかんねぇ。
だが、ここでへそ曲げられちゃあ元も子もないか。不本意だが仕方ねぇ
「…へぇ、良い名前じゃねぇか。」
「えっへへ!でしょでしょ?」
何がこんなに嬉しいんだろうか。
「それじゃちとお願いなんだがよ、今からこの床が水浸しになるかもしれねぇんだ。
下の階にいるお前の……えっと、俺はどう呼んでやりゃ良いんだ?」
「佳与!佳与って呼んで!」
ぴょんぴょん跳ねながら呼び名をおねだりしてきたぞ。
「分かったよ…佳与。下に水が落ちるだろうけど本当に良いのか?」
「良いよー!だって下には今私しか住んでないし、お父さんとお母さんはずいぶん前にどっかに行っちゃったまま帰ってこないもん ……でもでも寂しくないよ?だって今はガイダーのこの子がいてくれるから!」
佳与はそう話すと、おもむろに肩にかけていたオレンジのポーチからガイダーらしき人影を取り出して見せたのだがその姿は、あまり良い姿とは言えなかった。
「「ヒッ‼︎」」
「「えっ!」」
「…おいおいひでぇなこりゃ。嘘だろ?」
そこには死んだ目のまま涙を流す、女性ガイダーがボロボロの服装に身を包んでいた!
「嬢ちゃん!そのガイダーはお前のガイダー……なんだよな?」
「ううん違うよ?この子はね拾ったの!」
「「「「拾った⁉︎」」」」
「うん。私のそばにいてくれたガイダーはね、半年前からかな?大好きな男ガイダーに会いたいんだって言って私から離れていったの……すごく寂しかった」
「好きなガイダー?」
「そう。確か、ルーダとずっと呟いてたかな。」
「る、るーだ…るーだ~」
「あー…ごめんねリオーネ!大丈夫、今は私がいるから!ね?」
「「「許せない…」」」
「…ああ、俺も正直ルーダの野郎を同じ男として見たくねぇくらいにムカついてきた!
こんなうっとうしい氷なんか……しゃらくせぇ‼︎」
バリーン!っと、まるでガラス細工が甲高い音を立てて割れるかのような響きが部屋中に広がった!
みんな「えーー‼︎」
「ちょっと仁‼︎何で割って出てこれるのよ!」
「んなこと俺が知るか~‼︎」
おっかなびっくりとシアンや周りのみんなが見ている中、俺は佳与の手の中で泣いているリオーネって名前のガイダーに話しかけた。
「リオーネって言ったな?生憎だがお前の好きなルーダって奴は最低な犯罪野郎だ。
これを機会に今日からあいつの事なんか忘れろ!俺は今すぐ野郎を探しだして、絶対とっちめてやる!」
「あ…あ…」
「…休んでろ」
「う、うう…」
弱々しくも、寝息をたてて眠りにつく リオーネ。
「仁…」
「悪いシアン、ちょっと付き合ってもらうぞ。野郎を……あのくそったれなルーダをお前らのマスターに裁かせてる前にぶっ飛ばしてやる‼︎」
「わ、私も行きます!」
「俺もだ!」
「わたくしも!」
「ダメだ。今このリオーネも佳与も、一人にさせちゃダメなんだ。」
「…え?」
思わず泣きそうな顔で俺の顔を見つめる佳与に、俺は付け加えて言い放つ。
「俺は信じたい両親に裏切られる思いをしてきたし、俺自身だってあれらとと同じ真似をしてきたんだ。
褒められた人間じゃねぇが、そんなの何度も味わったり目の前で似たやつがいるのは気分が悪いんだよ‼︎
今の俺が思い付くのはその元凶をつぶす事だけだ!」
「禅内…」
「お兄さん。」
「……頼むシアン。」
「フフッ!仁のそんなところ、嫌いじゃ無いわよ。じゃあ行きますか!」
「おお!」
「待って仁にいちゃん‼︎」
「…佳与?」
「やっぱり私も行かせて!…ううん、私も勝手について行く‼︎リオーネをこんなにした男ガイダーがそんな最低な男なら、私だって文句を言ってやらなきゃ気がすまないもん!」
「佳与様?もし本当にこの子を大事に思っておられるのでしたら、わたくしから一つ提案があります。」
「て、ていあん?」
「はい。シアン、出る前に一度マスター様に連絡はとることが可能ですか?」
「もちろんできるわよ。でもどうするの?」
「はい。マスターには私から聞いておかねばならない話があるのです。その間に彼を探してきてください」
「探すのはもちろんだけれど、私にはサーチ能力なんて持ってないわよ?あいつがどんなところが好きなのか見当が付けば良いけれど…」
「女好きな野郎で犯罪に手を染めやすい者が行きたがる所としたら、街路裏だな。」
「そうなの?仁」
「確証はねぇよ。だが、あのチンピラだったやつが姿を現したのは裏通りがあるところだったろ?」
「「そう言えば⁉︎」」
「行ってみる価値はあるわな。だがよ、禅内とシアンの二人だけでいけるのか?」
「…最悪な場合、俺があいつに危害を加えちまって犯罪者の仲間入りになるかも知れねぇが、何もしないよりはマシだ。」
「分かったわ。じゃあ、早速…[こちらシアン。マスターへ応答を要請]」
き、機械音?この声ってひょっとして[あの時]聞いた…
「…フム、ナニカアッタノカ?しあん。」
なんかビッグスクリーンみたいなのが出てきたと思ったら、ポリゴンっぽいじいさんがうつりやがった‼︎
俺やみんなが驚いているなか、シアンは自分の胸元のボタンを外してポリゴンじいさんが写ってる画面に押し当てると、そのまま吸収されていく。
「……ナルホド、事情ハワカッタ。シテ、隣ニオルてぃーあヨ。我ト話タイ事ガアルノダナ?」
「は、はい!マスター・ゼノン様」
「ウム、デハマズしあんトジン二ハ先二コレダケ告ゲテオコウ……奴ハ我ガサバク。
奴ハ今繁華街ノ裏路地ニテ、猫二クワエラレテオル。即刻捕ラエヨ!」
「はい!」
「おう!」
「フム…最初二アッタ時トハ見違エタノ」
「へっ、どういたしましてだ!…あいで‼︎」
「変な態度とってんじゃ無いわよバカ仁」
「すいません…」
「フフフ…デハ、頼ンダゾ。」
「「はい!」」
二人が声と同時に、部屋を出ていった。
一方こちらは、絶賛逃亡中のルーダ。現在、ネズミと間違えられて野良猫にくわえられいたのだ。
「クソッ…何で僕がこんなみっともない思いをしなくちゃいけない‼︎僕は完璧であるべきなんだ!」
猫にくわえられていながら、ずっと自分の至らなさに気づこうともしないルーダは、前方に見え始めたチンピラ風な男達をみて唾をはいた。
「ペッ!なんと低俗な輩どもだ!見ているだけで気分が悪い。……そうだ、僕が悪いと思った奴はミンナ…ミンナ氷ヅケ二シテヤロウ‼︎」
「ニャッ⁉︎ニャニャニャ~!」
口が瞬時に氷り始め、慌ててルーダを放り捨てた猫は一目散に来た道を引き返そうとした……だが!
「オマエモコオレ。」
「⁉︎…」
「コオレ、コオレ!スベテガワルインダ‼︎」
繁華街中から、多くの人間と悲鳴が聞こえてくる。これぞ近年たまに見かけるようになった、ガイダーによる暴走の一端なのである。
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