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管理者の裁き
繁華街の方向から大勢の悲鳴が聞こえて来る。恐らく、あそこにルーダもいるかも知れない。
そう判断した俺達は、急いでその災害の中心地に向かった。
「逃げろー‼︎ガイダーが周りを氷漬けにしてるぞー!」
やはりルーダがいるのか!
「これは結構危ないことになってきたわね仁。早く止めないと!」
「ああ!だがどうする?炎とか使えるガイダーの知り合いとかいねぇのか?」
「ごめんなさい。ゼノン様が治める世界で暮らしてた時、私はあまり他のガイダーと仲良くなれなかったから…」
落ち込んだ顔になってるシアンを見た俺は、ひとまず気にしないようにと言葉をかけた。
「まあ、どこにでもそういう奴がいるもんだろ。必ず全てと仲良くなれはしねぇんだし…」
「うん、ありがと…仁」
「おうよ。」
気のせいかシアンから熱い視線を感じた気がしたのでさりげなく顔を向けると…
「!」
ぷぃ!…っと、慌てて顔を背けられてしまった。はてなぜだ?
(あ、危なかったわ…もう少しで仁の事を見つめ続けるとこだったかも!)
「シアン、ルーダだ!あそこにいるぞ。」
「嘘ッ!何であんなことになってるのよ…」
繁華街の裏路地を中心として、巨大な氷の柱が表通りの通行人飲み込みながら更に大きくなろうとしていた!
「おいおい⁉︎ガイダーってのは、こんな事を平気でするのかよ!」
「違う!これは……暴走してるの‼︎」
「暴走だと?野郎、どんだけいかれてやがるんだ!」
「ウオオ…コオレ、コオレ!皆消エロ‼︎」
「なんだよあいつ、自暴自棄になってた頃の俺とたいして変わらねぇじゃねぇか…」
「仁、行こ!」
「ああ…つっても、これでは滑って近づけないぞ。」
「待って?仁ってあの氷から力づくで出てこれたよね。もしかして耐性があるあんたなら平気で移動できるかも!」
「そうなのか?よくわかんねぇが、やるだけやってみるか…おらぁっ‼︎」
やぶれかぶれで俺は氷の上にジャンプして足をつけてみた。
パリーン!
あれだけ固い地面を覆っていた氷が、なんの苦労もなく勢いよく割れた!
「…マジか」
「もう、今のあなたは何でもアリね。あはは」
「はははは……とにかく今は行くか!シアン」
「オッケー‼︎」
俺が凍った道を踏みつけた所から、音を立てて元の道がみるみる顔を出していく。
この調子なら難なく進めそうだ!
「コオレコオレコオレコオレ…」
ルーダは完全に心が壊れきっていて、歯止めがきかなくなっている。
これ以上この状態が続けば、この秋葉原一帯が氷で覆われる危険になるほどに……
そんな中、俺とシアンの二人は少しずつだが確実にルーダの元に歩みを進めていた。
「うう~!さみぃ~!氷漬けに比べりゃまだマシだが、たまったもんじゃねぇな。」
「あはは…じ、仁もも、な、情けけ無いわねねね!」
「いや今のお前が言っても説得力ねぇよ。
このまま進むともっと寒くなるだろうが、中に入らなくて平気なんだな?…オラッ‼︎」
俺が殴り付けた所の氷がひび割れて、更に進む道が出来上がる。
その度に、冷たい空気が漂って来て…
「びゃあ‼︎もう無理もう無理!中に入る~!」
シュッ!
「初めからそうしときゃ良いのに、強がりやがって」
(うるさい仁!)
やれやれ…じゃあ、もっと進むとするか。
その後も順調に先に進んでいくと、いよいよルーダが引きこもっている中心点へと近づいた。
「…よぉルーダ、探したぜ?氷漬けにされた落とし前を、きっちりつけに来てやったぞ。」
「自分以外、ごみ!自分以外…排除!」
「おっとあぶねぇ!……やれやれ会話すらできなくなっちまったのか?ざまぁねぇな」
「排除排除排除ォォ‼︎」
氷のつぶてがたくさん飛んできた!
それを俺はかわしたり、飛んでくる氷をパンチや蹴りで壊しながらかまわずにどんどん進む。
「なぁルーダ。お前も前の俺と同様、自分以外はくそだと考えてたから、こんな衝動的な気分に埋め尽くされてるんじゃねぇのか?」
「が!がが、が‼︎」
「自分の失敗を認めるのが恐い、プライドを手離すのも恐い。それは俺も分かるさ……だがそれを、周りに寄ってくる女達を使って八つ当たりしてるだけのお前にゃ、なんも残りゃしねぇんだよ‼︎」
少し傷だらけになったが、野郎を覆っていた氷柱を俺はぶっ壊してやった。
「アアアア⁉︎」
「そろそろ往生しろ!」
壊された氷柱からルーダが落ちてくるのを狙って、下から上に俺は勢いよく殴り付けた。
「ガハッ!」
こいつが気絶すると同時に、周りの凍っていたものが全て元に戻っていく。
「終わったぞシアン、もう出てこれるよな。」
「わかってるわよぉ…てか!何で一人で倒せてるのよあんた⁉︎」
「んなこと言われてもなぁ、気づいたら勝てちまったんだからなんとも言えねぇよ。」
「本当にあんたは只者じゃないわ…」
俺自身もよく分からないが、ひとまず氷漬けにされた落とし前をつけることができて気分はスッキリしたぜ!
気絶したルーダを片手で強く握りつけながら、アパートに戻ることにした俺達。
捕まえたままアパートに戻って来た俺を見たみんなが、まるで[鳩が豆鉄砲を食らった]かのような顔をしていた。
「まさかとは思うが禅内……お前がそいつ倒して来ちまったのか?」
「ああ、なんか知らねぇが勝てた。」
「……ウム、御苦労デアッタ。」
マスターと呼ばれてるポリゴンじいさんの表情は読めなかったが、多分ここのみんなと同じ感情なのだろう
「とりあえず、こいつは引き渡すぞ。でも佳与、今のこいつに言ってやりたい事はあるんじゃねぇか?」
ギュッ!
「ぎゃあ!…こ、ここはアパート?お!お前は禅内仁⁉︎何故男なんかに僕がつかま…いだだだ‼︎」
「うるせぇよ。ほら、今なら言えるぜ?」
「…ありがと仁にいちゃん。リオーネ、出てきて」
「うん、佳与…」
「リオーネ、あなた佳与のガイダーになったのね。」
「ありがとう…えっと、シアンさんでいいの?」
「うん。そうよ、よろしく!」
「リ、リオーネ久しぶりじゃないか!僕だよルーダだよ‼︎」
「‼︎…ルーダ」
「ああ!僕だけのリオーネ。この男禅内仁が僕の事をいじめて来るんだ!助けておくれよ?」
周り「…は?」
「君はいつも僕のために頑張ってくれていたろ?僕はその事をよく知ってるから、今日まで忘れた日なんかなかったさ。
さぁ、僕と一緒にこの男を倒…ブフゥ⁉︎」
「大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い~~‼︎」
「ブオオオオオ~~!」
俺がルーダの身動きを封じている間、リオーネの連続パンチが炸裂した!
「へぇ!やるじゃねぇかこの子」
「あははは‼︎」
「ブゴゴゴゴ…くっ、女風情がぁ!もうまとめて凍らせ…あれ?氷が出せない。」
「いんや、しっかり出てるぜルーダ!俺の手の内ではなぁ。」
どうやら俺が触れてる限り、こいつの氷能力を封じていられるみたいだな……なんでだ?
「…るーだヨ。」
「なんだ今度は!僕は男には用はな…い?ま、マスター・ゼノン様ー⁉︎」
「オヌシニ問オウ。己ノ過チヲココノ者達ニ謝ルカ?ソレトモ謝ラヌノカ?」
「な、何を仰いますのですかマスター!私は何をしても正しいのですよ?正しい私がなぜこの者達に謝る意味がありましょうか!」
コイツ、とことん救われねぇな…なんか怒るのもバカらしくなって来た。
「…モウ一度聞ク。謝ルノカ、謝マラヌノカ。」
「だから何で謝るんだよ!悪いのは禅内を含めた僕以外の男じゃないか‼︎」
「「「ダメだコイツ」」」
「「「最低」」」
「僕は最低じゃない!お前らがさいて…」
プツン‼︎
一同「⁉︎」
一瞬で消された‼︎いや違う……雷のようなもので跡形もなくなったんだ。
その証拠に、奴を持ってた腕が強く痺れてやがる!
「「「アワワワワ‼︎」」」
「シアン達、しっかりしろ!」
「じ、仁~‼︎」
シアンがいきなり抱きついて来た!とても怯えている…
「スマヌナオ前達。酷ナモノヲ見セタ……我ハコレニテ戻ル…」
ポリゴンじいさんこと、マスター・ゼノンはこの場を去っていった。
ここからは俺、どうすれば良いんだ?
「お、お兄さん。ルーダは、もう居なくなっちゃったんだよ…ね?」
「ああ…そうなるな。」
「そっか……いつも一緒にいるのが当たり前だったのに、いざ居なくなるとやっぱり寂しいな。」
「真矢お姉ちゃんは一人じゃないよ!」
「…佳与ちゃん?」
「お姉ちゃんのお父さんだって、ガイダーのティーアちゃんだって、あたしやリオーネ…それに仁にいちゃんやシアンちゃんがいるもん!一人じゃないよ‼︎」
「佳与ちゃん、ありがとね…」
佳与、本当はとても素直な子なんだろうな。
「それに大丈夫だよ、きっとお姉ちゃんにも別のガイダーが来てくれるって!」
「そうね!ありがとう佳与ちゃん」
真矢は佳与をぎゅっと抱き締めた。
「一件落着だなシアン……おいシアン、大丈夫か?」
未だに体が震えているようだが。
「ご、ごめん仁…まだ震えが止まらなくて。もう少しだけこのままでいさせて?」
「わ、分かったよ。」
「シアン、ゆっくりしてくださいね?」
「ありがとうねシアン。そして兄さ…じゃない、仁さん」
「ああ!…みんなも今日はありがとう。俺も助かった」
「がはは!良いってことよ禅内。明日には仕事来れそうだし、絶対遅刻するんじゃねぇぞ?」
「ああ、分かってるさおっさん!」
「店長だ!」
一同「あははは!」
みんなで軽く笑い終わってから、それぞれが帰路についていく。
俺はシアンを抱えたまま、玄関の鍵を閉めた。
「…ハァ、なんかひでぇ一日だったぜ。無事に終わって何よりだ」
「うん…」
「なんか…嫌な事でも思い出してんのか?」
「え⁉︎あ、あの!その…」
「無理に喋ろうとすんじゃねぇよ、言えるときに言えば良い。」
「うん、ありがとうね仁。今日は寝るまでこうしていても…良い?」
「ど、どうしたんだ急に…まあ俺は構わねぇけど。」
「うん…」
なんか今までとちがって調子狂っちまうよなぁ……まあ、たまにはこういうのもありか。
さてと飯の準備…って、片手が塞がってて作れねぇ。
「なあシアン。片手だと料理が作れないんだが、一度俺の中に入ってもらうのはダメか?」
「ヤダ。このまんまがいい!」
「ええ⁉︎そんなんじゃ俺カップ麺しか作れねぇぞ?」
「良いじゃんカップ麺で。今日の私はこのままが良いの!」
「なんでなんだよ…」
「とにかく良いの~~!」
どうしたんだよシアンの奴。佳与よりもなんかわがままな感じになってるぞ?
(へっくちっ‼︎はれ?風邪かな、あたし)
気のせいか、下からそんな言葉が聞こえてきた気がした。
このままだと、俺がまともに寝付けねぇよ⁉︎
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