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第2章 新たな異変
「…ああ、寝不足で辛い」
今日からバイトを再開した俺なのだが、昨日の件以降からシアンに思いっきり甘えられている為、満足に寝ることが出来なかった。
「ぜ、禅内…かなりふらふらだが大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないですよ店長~!一晩中シアンに甘えられてたから、寝付けなかったんですって。」
「おいおい、仲が良くなるのは結構だが翌日に影響が出るのは感心しねぇぞ?…まあ、ワシも身に覚えはあったが」
おお、店長がまさかののろけ話をしやがった!
「はは…それでも今朝になってからやっと中に入ってくれたんですが、今度は「知らない知らない!」って駄々こねてばかりなんです。どうしたらいいんですかね?」
「そうだな……ティーア、少し出てきてくれるか?」
「はいご主人様。どうかなさいましたか?」
「いやな、禅内のガイダーが昨日から駄々こねて大変なんだそうだが、男の俺達じゃあ本心を聞けそうになくてよ……だからちょいとシアンの話し相手になってあげてくれや。」
「お安いご用です。では禅内様、シアンに私がお話したいと伝えてあげて下さいませ」
「分かった助かるぜ…おーいシアン、ティーアがお話をしたいって言ってるから出てきたらどうだ?」
「…うん」
やれやれ、ようやく出てきてくれたか。
「じゃあ二人とも、俺らは仕事を再開するから部屋で一緒に会話しといてくれ。」
「はい、ご主人様!」
「…すぐに帰らないでよ?仁。」
「そんなすぐには終われねぇよ!さ、行ってこい」
「…ぷぅ。」
二人のガイダーは奥の部屋、恐らく二階まで上がるのだろう。
「……なるほど、こりゃ確かに重症だな。何か聞いてみたりはしたのか?」
「いえ、なんか話しづらそうでしたし無理には話さなくて良いとは言っておいたんですけど。」
「お!お前、なかなか女の子の扱いがうまいんじゃねぇのか?」
「なにいってんすか!」
「ははは!冗談だ。さあ、仕事だ仕事!」
「は、はい。」
絶対人の反応見て楽しんでやがるなこのおっさん‼︎
一方その頃、御柱佳与(みはしらかよ)は小学校に行くふりをして、今日も町中を散歩して時間を過ごしていた。
「ねぇ佳与。どうして学校行かないの?」
佳与の新たなガイダーになったリオーネがさりげなく聞いてくる。
今のリオーネは服を新しく着替えており、ボロボロ姿ではくすんでわからなかったがオレンジ色のツインテール髪で上の服は白、下は赤のミニスカートをはいている。
服の外からのぞく白い柔肌が、余計色気を強調していた。
「…行きたくても行けないんだもん。」
「え?どうして?」
「お父さん達が学校に[よーいくひ]っていうお金を払わなくなったから。」
「そんな、ひどい‼︎」
「うん……でも良いんだ!きっと行っても今の私はいじめのターゲットにされちゃってるし。
先生達からも、授業をうけられなくなった子供の相手はしないってはっきり言われちゃっから!」
*彼女のように貧困家庭に生まれた子供達は、どれ程勉強をしたくても両親自体が生活力と育児意欲がない場合、放置されてしまう事も少なくないのだ。
これがこの国内における、格差社会の弊害と言わざるを得ない……
「えっと、じゃあ私を拾ってくれた後はどんな生活をしていたの?正直ずっと意識が薄れてて、毎日が曖昧だったから覚えてないわ。」
「うーんとね、繁華街の食べ物屋にいるおじちゃんやおばちゃんから[まかない]ってのをもらったりしてたよ?意外と美味しいんだ!」
「そんな…(私、こんな不憫な生き方を強いられている子供に拾われていたのに気づかないで、半年もあのまま?)」
リオーネは自身の事でいっぱいだったとは言え、目の前にいる幼い女の子がこんな苦労をしていたことに気づけなかった事を悔やんだ。
「…ごめんなさい佳与、そんな苦労をしていたのに全く気づいてあげられなくて。」
「べ、別に苦労とかじゃないよ!そりゃあ服は汚れたままなのは正直嫌よ?でも全く生きられないわけじゃないんだから、リオーネがそこまで落ち込むことない!それに、一人ぼっちにならずにすんだからあたしは逆にお礼が言いたいくらいだもん。
だからね、リオーネが昔どんな事をして暮らしてたかは分からないけど、変に気を遣って危ないことに手を出すのだけはやめてね?それとお金の使いかたがひどかったお父さん達のことなんて、もう知らないし!」
「うん…」
[私が、今度はそばにいて佳与の事を支えよう…]と、 リオーネは己の心に固く誓った!
「ありがと!じゃあ気分を変えるためにいつもの場所へ行くから、いっしょに着いてきて!」
佳与はそう告げると、秋葉原内で緑のある秋葉原神社裏の木々が生えている場所へと走って行く。
「こんなところがあるなんて知らなかったわ。」
「えへへ!私のお気に入りの場所…ここならいじめっ子達の顔を見なくて済むし、それと風に揺れる葉っぱの音を聞いてるとなんか安心するの。」
「私もわかる気がする。とっても気持ちいい……」
「でしょ?」
二人でしばらく神社の木に囲まれた場所で談笑しながら何時間か過ぎた頃、騒がしい声が遠くから聞こえてきた。
「はははは!それであの女はよ~…」
聞いていて気分が悪くなる感じの話し方をする若い男達の声が、徐々に彼女達の近くで聞こえ始める。
「うわ…どこの人間か知らないけどヤバそうな人たちが来た。リオーネ!そろそろ行こ?」
「…ん~?」
「寝ぼけてないで、ほら起きて?」
「ど、どうしたの?待って佳与。」
リオーネが慌てて佳与を追いかけたそのときだった。
「おっ!うまそうな幼女はっけーん!」
いつの間に追い付いたのか、危ない連中の一人が逃げようとしていた佳与を捕まえてしまった!
「キャーッ‼︎」
「ちょっとあなた⁉︎その子に何するのよ‼︎」
「あ?なんだただのガイダーか…お前の知ったこっちゃねぇだろ?こいつを今からたっぷり俺達が可愛がってやるってんだよ!」
「や、やだーー‼︎」
「やめなさい‼︎はやくやめないと攻撃するわよ!」
「おうやってみなー?…ほれ!」
なんと、彼は佳与を盾にした!
「この…卑怯者!」
「ギャハハハ‼︎おいお前、それ犯罪者の真似じゃねーか。うけるわー!」
後ろにいた連中も追い付いてしまったようだ。
「リオーネ、私は大丈夫だから早く逃げて!」
「佳与⁉︎」
「そうそう、早く逃げた方が良いぜぇ?なぁに安心しなって!俺達が楽しんだ後でこの子は離してやるからさぁ……もっとも、ちょっと刺激的な格好にはなるだろうけどな。」
「ひぅ⁉︎」
佳与を捕まえたその男は、彼女の両手を片手で掴み空いた手で佳与の胸を揉んだ…
「こ、このぉ~~‼︎」
リオーネの怒りは、今にも爆発しそうだった。
「あんた達、絶対許すもんですか!」
リオーネの手から火属性の力がほとばしる。
「おっとぉ!そんなの撃ったら、俺達よりもこの子が危ないぜぇ‼︎」
「~~!」
歯を思いきり食いしばって怒りをこらえているリオーネ。
「わ、私はへいきだから!早く逃げて…」
「佳与……あんた達!絶対に佳与を返してもらうから⁉︎」
リオーネは空を飛んで[ある方向]に向かっていく。
それを見て気づいた佳与は、安心すると同時に気を失ってしまった。
「あーあ、お前女の子相手にみっもねー!」
「うっせーバーカ!ギャハハハ‼︎」
その後佳与が目を覚ますまでの間、ゲラゲラと笑って時間を過ごす男達。
これが禅内仁の怒りよりも、女性とガイダー達の怒りが先に燃える出来事になるとも知らず…
「絶対あいつら許せない!あの人達に伝えなきゃ‼︎」
リオーネが真っ先に向かった所、つまり犬吹電器店である!
「…あー仕事終わったー!マジ今日は疲れたぜ。」
「おう、お疲れさん!よく頑張ってくれたおかげでとても助かったぜ。」
「へへっ…さすがに帰ったらさっさと寝たい気分だぜ」
「ははは。今度は夜這いされんなよ?」
「よ、夜這いってほどじゃねぇよ⁉︎」
「ご主人様、お仕事お疲れ様でした。」
「…お疲れ様、仁。」
「お、少しは落ち着いたんだなシアン。」
「ふ…ふんだ‼︎」
ありゃ、まだ完全じゃねえのか?
「ただいまーお父さん…って仁さん⁉︎ど、どうしよう仁さんが来てたなんて思わなかったから普段の髪型のまんまだよぉ!」
「よぉ真矢、学校が終わったんだな。別に髪型とか気にする必要あるのか?」
「「ある(わよ)!」」
「うぉ!二人してなんだよ…」
「うっさいニブチン‼︎」
「そうですニブチンです‼︎」
な、なんだよもう…
「皆さーん!助けてくださーい‼︎」
「「「リオーネ⁉︎」」」
「おいおい、あの佳与ちゃんとこのガイダーになったのにどうしたってんだ?」
おっさんが尋ねた瞬間、彼女は泣きながら俺たちに訴えかけた。
「その佳与が!ガラの悪い奴等に捕まってしまったの‼︎私が攻撃できないようにあの子を盾にしながら、胸を触られてて……ウッウッ!」
「「はぁ⁉︎」」
「「「⁉︎」」」
「とんだ畜生がいたもんだな。場所はどこか分かるか?」
「えっと…確か秋葉原神社の裏にある、木がたくさん生えたところ。だけど私は火属性の攻撃しかできなくて……」
「分かった、お前らは大人しく待っ…」
「「「待つわけ無いでしょ‼︎」」」
「うおぉ‼︎⁉︎」
びび、ビックリした~!
「何してんのよバカ仁‼︎置いてくわよ!」
「私も行くわシアンちゃん!」
「わたくしも看過できません‼︎ご主人様行きますよ!」
「あっ!待ってよみんなー‼︎」
「…禅内、女って怖いだろ?」
「は、はい…」
二人でそそくさと店の閉店をすませてから、彼女達の元へ急ぐ俺達であった。
シアン達が急いで駆けつけるのと同じ頃、目が覚めた佳与は木に両手両足を縛られた状態で立たされていた事に気づいた。
「えっ?何これ…」
「おっ?お前ら、この幼女やっと目が覚めたぜ?」
「へっへ!じゃあ、お待ちかねのお楽しみタイムだ‼︎」
「えっ!ちょっと何してくれんのよこの変態!人の服へ勝手に手をかけないでよ⁉︎」
「うるせぇ!」
パァン!
「ッ!」
目の前の男が急に佳与の顔面にビンタしてきた。
「大人しくしてくれりゃあすぐすむからよぉ…だからたっぷり楽しませてくれや!」
服をめくりあげられ、小さい胸があらわにされたと知った瞬間、例えようがない恥ずかしさと恐怖をこの時佳与は覚えた!
(このまま、こんな胸くそ悪い奴等にあたしは汚されちゃうの?嫌だよ!絶対嫌だよ‼︎誰か…早く助けて⁉︎)
「へっへっへ!じゃあ、いただきまーす」
「い、いやぁ~~~‼︎」
佳与が絶叫をあげた次の瞬間、どこからともなく雷のような衝撃音がこの周辺に鳴り響いた!
「「「アギャギャギャ‼︎」」」
電気みたいな物がバチバチと光り、後ろの連中はそのショックで倒れていく。
「あ……シアンちゃん!」
目の前にはシアンを始め、ティーアに真矢…そしてリオーネが来てくれたのだ。
「みんな‼︎」
「何しやがんだこのアマどもがぁ!」
「…あなたはそこで止まりなさい」
ティーアは己の木属性の力で周りの草木を自在に操り、男の動きを封じた。
「佳与ちゃん!待ってて、すぐ行くから‼︎」
「おねぇちゃん!」
「女ガイダーどもが、やってくれんじゃねぇかよ‼︎」
「佳与ちゃんこっち!」
真矢が佳与を縛っていたひもをほどくと、男から素早く間合いを取り、手を引っ張りながら戻っていく。
「うん‼︎」
二人が、三人並んでいるガイダーの後ろについた。
「へへっ、どんだけそんな力があったってお前らは人間を殺しちゃいけねぇって決まりがあるんだったよなぁ?
ならてんで怖かねぇや!おいお前ら、いつまで寝てやがるんだよ⁉︎」
ドガッ!
女達「⁉︎」
野郎共「…ギャハハハハ‼︎」
プスッ!プスッ!
男達は満足に身動きの取れない男に蹴られると、のそのそと起き上がり注射器みたいな物を刺していった。
「下がってみんな!どう見てもこいつらまともじゃないわ‼︎」
「おいお前ら、はやく俺にも打てよぉ!」
「へへへ、バカみてえな格好だな…おらよ‼︎」
プスンッ!
「おっしゃあ、力が湧いてきたぜ!……ふん‼︎」
ブチブチブチッ!
「えっ、嘘⁉︎」
常人の力では引っ張り上げることもできない木の根を、男はいとも簡単に引きちぎった!
「じゃあせっかくだから、今度はおたくらで楽しませてくれや!」
シアン達「いやぁ‼︎」
連中が飛びかかる前に、真横から伸びた氷の柱が行く手を阻んだ。
禅内達が、ようやく間に合ったのである!
「ハァハァ…ギリギリ間に合ったか!思ってたよりも簡単に氷出せたな?俺」
「仁‼︎」
「ヒー、ハー…ったく!歳は取りたかねぇなぁ?」
「お父さん!」
「ご主人様!」
野郎「なんだてめぇら!すっこんで……」
「うっせぇよゴミ野郎共。そこで仲良く固まってろ!」
「……は?」
仁の手から氷攻撃が繰り出され、取り巻きの連中は全員凍った。
「てめぇも、地面に倒れてろ‼︎」
おっさんの強力なパンチをもろにくらい、後ろの木に頭から腰まで強くぶつけて地面にうつ伏せで倒れる形で気絶した。
「店長すごいっすね‼︎」
「へっ!俺だってたまにはやるぜ!」
「お父さん~!」
「ご主人様‼︎」
二人ともおっさんに、ひしっと抱きついていった!
「お前ら、遅れて悪かったな。」
「本当だよー!」
「一時はどうなるかと…」
「仁‼︎」
「仁にぃちゃん!」
「仁様!」
二人が勢いよく抱きつき、リオーネはそばでホロホロと泣いていた。
「ぐへぇ!二人して腹に強く当たってくるなよ…」
「良いじゃんバカ仁!」
「良いでしょにぃちゃん!」
佳与はもちろん嬉しそうなのはよく分かるのだが、心なしかシアンが照れ顔を隠してるように見えた。
「やれやれ……さて、こいつら警察を呼んでも来るまでに起きてきそうだがどうしたもんか?」
「禅内様、ここはわたくしにお任せください!」
みるみるうちに、やつらは木の根に厳重に強く縛られ宙吊りにされていく。
「け、結構太めに巻くんだなぁ。」
それは俺も、思わず気が引けるほどの巻き具合だった。
まるで象みたいな巨体を動けなくさせるかのように、体の全部位を固定しているのだから…
「ここまでしておかねば、この人達を封じることができませんので!」
「そ、そうか…分かった。すまねぇが真矢、スマホで警察に電話してくれねぇか?俺は今充電切れでよ」
「あっはい!……もしもし警察ですか?」
警察への連絡は真矢に任せておいて良いだろう。
こいつらは念のために俺も見張るか。
「仁…こいつらはどう見てもおかしい連中よ?何か注射器みたいなもので自分の腕を刺したとたん、いきなり強くなっちゃったの。」
「…まさかこいつら、ドラッグを使ってんのか?」
「ドラッグってのは私には分からないけど、なんとなく薬って感じはしたかもね。」
「こりゃ、秋葉原も物騒になってきやがったな」
「仁兄ちゃん!」
「ん?どうした佳与」
俺は佳与の目線に近いところまで腰をおろしながら、話を聞こうとした。
「助けに来てくれてありがとね!…ちゅっ」
「⁉︎」
「「‼︎」」
バキッ‼︎
「あれ?なんかスマホが壊れる音がしたみたいだが、大丈夫か真矢…さん?」
「「じーん(さーん)⁉︎」」
「まてまて!俺は何も手を出してなんかいねぇだろうが‼︎」
「「うるさいうるさい‼︎」」
ボカスカボカスカと二人に叩かれ続けている俺を尻目に、佳与はこっそり抜け出しそして……
「あはは…てへっ♪」
茶目っけな舌だしをして、ごまかした。
「あらあら、禅内様も大変でございますね。」
「本当だねー。」
「まあ、これも青春ってこったな。」
離れた所にいる他の三人は、俺の様子をただ眺めるだけであった。
今後俺は、平穏な日々を送って行けるのだろうか?
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