0人が本棚に入れています
本棚に追加
愛情というものをもらった。
それはとても大きく、そして儚い、幻想的なものだった。
あたたかい家。あたたかい家族。あたたかい居場所。
心温まるそこは、きっと、かけがえのない場所にちがいない。
「ごめんね。──。ごめんね」
家族が泣いて謝ったのは、雨の降る日のことだった。
病院と呼ばれる場所にて検査を受けた私に、異常があった。
それを治す術がない、というところが現実的なお話だろう。
(大丈夫。気にしないで)
私は告げる。精一杯。
けれどその言葉はきっと、彼らには届かない。
知っている。それが当然のことだから。
雨が止んだ日、私は外へと脱け出した。
もうすぐ止まってしまう心音に、気がついたからだ。
私は私の死体を彼らには見せたくない。
だから出て行く。この日をもって。
これが世に言う、サヨナラだ。
外に出て、やって来たのは思い出の詰まった小さな公園。私はそこの滑り台の下、丸くなって小さくなる。
ねむい。とても。眠たかった。
「──!」
声がした。私に付けられた名を呼ぶ声が。
涙に濡れたそれに顔を上げようとすれば、それが動かなくて落胆する。
もう動けないのか。
理解した瞬間、死という概念が差し迫ってくる。そんな気がした。
「──! なんで一人で逝こうとするの! 最後くらい家族として一緒にいてよ! この大馬鹿もの!」
私を叱る母の声。息を切らす父の音。
ああ、ごめんなさい。ごめん。ごめんね。
けれど見て欲しくなかったんだ。
きっとあなたたちは、とても悲しんでくれるから。
それが私にとっては幸福なことで、でもすごく悲しいことだから。
「にゃあ……」
最後の一声を振り絞り、重くなった目を閉じる。
最後まであたたかさをくれた彼らのそれからの日々を、私はこれから期待している。
どうか幸せになってくれますように。
ありがとう。
最初のコメントを投稿しよう!